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第30話 始まりの聖域

王都アルディアの夜は――


まだ終わっていなかった。


城壁の外で騎士たちが無言で影鳥の死骸を運んでいる。


焼けた羽の匂い。


血の混じった土。


風に乗って、戦いの名残が街へ流れ込む。


勝利――とは、とても言えなかった。


空を見上げる。


結界の外ーー


影鳥の数は、また数匹残っているが、かなり消えていた。


王城の一室。


窓辺に立つリナは、その光景から目が離せないでいた。


胸の奥が、まだざわついている。


これまでの戦いの最中。


幾度なく溢れた光。


自分の意思であって、自分の意思ではない。


自分の中に、自分じゃない何かがある。


そんな感覚ーー


「体は平気か」


低い声した。


振り返ると、レオンが壁にもたれていた。


腕を組み、鋭い目でリナを見ている。


「うん……」


頷く。


けれど、その声は少しだけ弱かった。


アルが窓際の柱に寄りかかりながら言う。


「さっきの光も」


視線は外のまま。


「精霊の力、だよな」


リナは目を伏せる。


「……うん」


この部屋にいる全員が知っている。


リナが“精霊姫”であることを。


だが――それが何を意味するのかは、誰も知らない。


静かに口を開いたのはエリオスだった。


「精霊姫の力には段階があります」


空気が引き締まる。


「精霊に愛される者」


「精霊と契約する者」


一度、言葉を区切る。


そして――


「大精霊の意思を継ぐ者」


レオンの眉がわずかに動いた。


「……大精霊エーテルか」


エリオスは頷く。


「千年前に消えた存在」


「世界の均衡そのものだった精霊です」


部屋の空気が、重く沈む。


「その意思を継ぐ“器”が現れる」


「そういう伝承があります」


リナの喉が小さく鳴る。


「……私、なの?」


エリオスはすぐには答えなかった。


そして静かに首を横に振る。


「まだ分かりません」


「ですが――」


視線がリナに向く。


「確かめる方法があります」


アルが顔を上げる。


「場所か?」


「はい」


エリオスの声が、わずかに低くなる。


「王都アルディアの地下」


「始まりの聖域」


「セラフィア神殿です」


その言葉でーーリナの胸が強く打った。


ドクン。


知らないはずなのに――懐かしい。


(……どうして)


胸の奥で、何かが反応している。


「精霊姫はそこで試練を受けます」


「器であれば――」


「大精霊の“記憶”が目覚める」


記憶ーー。


自分ではない、誰かの記憶。


その時ーー


フェルがゆっくりと尻尾を揺らした。


『……なるほどな』


レオンが視線を向ける。


「何か知ってるのか」


フェルは目を伏せる。


『知ってはいる』


『だが、言えぬ』


金色の瞳がリナを見る。


『お前が“それ”かどうか』


『まだ確信がないからだ』


誰も、口を開かない。


「もし、そうなら」


アルが呟いた。


全員の視線が集まる。


アルは窓の外を見ている。


夜空の奥。


「厄介なことになる」


レオンが低く問う。


「どういう意味だ」


アルの声が、少しだけ変わった。


いつもの軽さが消えている。


「その力は」


「すでに狙われている」


リナの心臓が跳ねる。


「闇の魔導士――ヴァルディス」


空気が凍る。


アルの拳が、ゆっくりと握られる。


「……あいつは」


一瞬、言葉が詰まる。


「俺の村を滅ぼした」


静かだった。


だが、その一言にすべてが詰まっていた。


レオンの目が鋭くなる。


エリオスも息を呑む。


アルは続ける。


「全部、ごみのように燃やされた」


記憶を見ているような目。


「人も、家も、森も」


拳が震える。


「人が死ぬのを見て」


「笑ってた」


その言葉に、空気が凍りつく。


低く、吐き捨てる。


「……化け物だ」


リナが小さく聞く。


「……強いの?」


アルは、迷わなかった。


「ああ、桁違いだ」


「そしてーー俺は」


「あいつをーー」


「もっと昔から知っている」


重い沈黙。


その時ーーフェルが口を開いた。


『奴は知っている』


全員がフェルを見る。


『精霊姫が現れたことの意味を』


リナの背筋が冷える。


『だから闇が動く』


『だから魔獣が集まる』


そして――


『お前が“器”なら』


一瞬の間ーー


『ヴァルディスはまた必ず来る』


外から、影鳥の鳴き声が響いた。


ギャアアアアア……


断末魔が不気味な音を立てる。


まるで、何かを告げる合図のように。


リナは胸に手を当てる。


その奥でーー何かが震えた。


遠い記憶。


知らない声。


(……呼ばれてる)


小さく呟く。


「……セラフィア神殿」


顔を上げる。


「私、行きたい」


迷いはなかった。


エリオスが静かに頷く。


「試練は危険です」


「ですが」


「真実に辿り着けます」


レオンが腕を組み直す。


「なら決まりだ」


アルが短く言う。


「行こうぜ」


フェルは目を閉じた。


『……ついに行くか』


誰にも聞こえない、小さな声。


彼らは向かう。


王都アルディアの地下。


封じられた神殿へ。


そこには――


“世界を変えた存在の記憶”が眠っている。


そしてーーその扉の先で。


リナは知ることになる。


自分が何者なのか。


そして――


第30話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるととても嬉しいです!


このあとも物語が大きく動いていきますので、ぜひ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!

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