表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

第29話 覆界、そして闇の降臨

王都アルディアの夜。


空は――もはや夜ではなかった。


バサバサバサバサバサッ――!!


影鳥の黒い翼が、空を覆い尽くしている。


数百ではない。


千を超え――なお増え続けていた。


空が、迫り落ちてくる。


そんな錯覚すら覚える。


「ぐっ……!」


騎士の剣が弾かれる。


直後、鋭い爪が振り下ろされた。


ギャアアア!!


血が舞う。


「うあああああ!!」


誰かが倒れる。


誰かが叫ぶ。


もう、誰が誰を守っているのか分からない。


戦線は――崩壊寸前だった。


最前線ーー


レオンが、ただ一人立っている。


キィィン!!


一閃。


三体が同時に裂ける。


だが――


すぐに次が降りてくる。


終わらない。


止まらない。


「……多すぎる」


低く吐き捨てる。


その隣で、アルが笑っていた。


キィン!!


キィィン!!


風のような斬撃を放っては、影鳥が空中で砕け散る。


「終わりが見えねぇな」


いつもの軽い口調で話す。


だがその目は――戦場のすべてを見ている。


レオンは答えないまま、ただ空を見上げる。


どこまでも果てしなく無限に黒が広がっている。


(……間に合わない)


後方ーー


リナの視界に、すべてが映る。


倒れる騎士。


泣き叫ぶ子ども。


逃げ遅れた人々。


(……嫌だ)


胸が締めつけられる。


その時だった。


エリオスが一歩前に出た。


「リナ」


振り向く。


その目は、震えていない。


「守りましょう」


「……え?」


「倒しきれません」


静かに、揺るぎない瞳のまま断言する。


「なら――守るしかない」


風が止まる。


世界が、二人だけになる。


「王都全域に結界を張ります」


リナの呼吸が止まった。


「……無理だよ」


それは、人間の限界を超えている。


だが――エリオスは、微笑んだ。


「一人なら無理です」


リナへ一歩、近づく。


「でも」


「リナとなら、届きます」


ドクン。


胸が、強く鳴る。


精霊たちの声が重なる。


――守ろう

――できる

――一緒なら


リナは目を閉じる。


そして――開いた。


「……うん、やろうエリオス」


城壁の上ーー


二人が並ぶ。


エリオスが杖を掲げる。


「風よ――集え」


空気が震える。


リナが手を重ねる。


「お願い……力を貸して」


光の粒になって、精霊たちが集まる。


風、水、火、土。


すべてが――一点へ。


だが、圧倒的に足りない。


広大な王都という規模に対して、力が届かない。


「くっ……!」


エリオスの膝が揺れる。


リナの視界が霞む。


(……届かない)


その瞬間ーー空気が変わった。


『……貸してやろう』


フェルだった。


小さな白猫の姿。


だが、その瞳は――神獣のもの。


次の瞬間ーー


世界が、震えた。


フェルから溢れた魔力は、


“質”が違った。


精霊たちが、一斉にひれ伏す。


『あとは』


『二人で完成させろ』


リナが頷く。


エリオスが叫ぶ。


「いきます!!」


光が、爆ぜる。


風が、唸る。


リナとエリオスが同時に叫ぶ。


「精霊結界――展開!!」


「セレスティアル・ドーム!!」


次の瞬間ーー


王都を包む、巨大な光のドームが出現した。


バチィィン!!


影鳥が激突する。


弾かれ、身体が崩れていく。


何匹も、何匹も。


だが――


一匹も入れない。


そしてーー


王都アルディアの結界内に、ようやく静寂が訪れた。


「……止まった……」


誰かが呟く。


レオンが空を見上げる。


「……やったか」


アルが口笛を吹く。


「すげぇな」


その中心でーー


リナとエリオスが――崩れ落ちた。


「っ……!」


力が抜ける。


視界が白く染まる。


魔力が――空になる。


レオンが受け止める。


アルが支える。


「……成功……しましたね……」


かすれた声。


リナが微笑む。


「……守れたね」


その時だった。


空が――歪んだ。


結界の外ーー


黒い霧が、渦を巻く。


空間そのものが、ねじ曲がる。


そしてーー“それ”が現れる。


ゆっくりと空中に立つ、一人の男。


黒いマント。


長い銀髪。


底の見えない赤い瞳。


その瞬間、全員が理解した。


(……違う)


(これは――敵じゃない)


(災厄だ)


フェルの瞳が細くなる。


『……来たか』


男は結界を見下ろす。


そして、笑った。


「面白い」


声が落ちた瞬間。


空気が凍る。


「人間が」


「ここまで届くとはな」


その視線が――リナを射抜く。


「……なるほど」


空気が震える。


「精霊に愛された器」


リナの心臓が跳ねる。


レオンが前に出る。


「名を名乗れ」


男は、ゆっくりと視線を向けた。


「ヴァルディス」


「闇の魔導士だ」


その名が落ちた瞬間、空気が沈んだ。


フェルが低く唸る。


『……帰れ』


ヴァルディスは笑う。


「まだ未熟だな」


リナを見る。


「今は奪う価値もない」


その言葉のあと、視線がアルへ向く。


「……ほぅ」


一瞬の沈黙。


「まだ“残っていた”か」


アルの瞳が揺れる。


次の瞬間ーー


ヴァルディスが笑った。


「また会おう」


そしてーー


「失敗作」


その一言だけを残して――


霧と共に、消えた。


あたりが静まり返る。


誰も、動けない。


リナが小さく呟く。


「……今の……なに……」


アルは答えない。


ただ、空を見ている。


その瞳の奥に、かすかに揺れるものがあった。


恐怖ではない。


記憶だ。


そして――王城地下。


封じられた書庫。


一冊の魔導書が、ひとりでに開く。


刻まれた古い文字。


「闇の魔導士――ヴァルディス」


その下ーー


「絶望の化身――」


次のページは――破られていた。


どこからか風が吹く。


ページが、めくれる。


そこには何もない。


ただ――


空白だけが残されていた。


第29話 終わり


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ