第25話 闇の魔導士
ノクス=ヴェルディアの森。
薄暗い森が霧で、視界が悪い。
倒した魔獣の体は、すでに黒い霧となって消えかけていた。
普通の魔物なら、こんな消え方はしない。
レオンが眉をひそめる。
「……ただ魔物じゃないな」
アルが剣を鞘に収めながら言う。
「ああ」
「誰かに操られてる」
リナは少し不安そうに森を見回した。
「そんなことできるの?」
エリオスが小さく答える。
「……できる人は、現世にはいません」
その声は、少し震えていた。
リナが振り向く。
「エリオス?」
エリオスは少し迷ったあと、地面の魔法陣を指さした。
「この魔法陣……」
「普通の魔術ではありません」
「闇の古代魔術に近い」
アルがピクリと反応する。
「闇……」
エリオスは頷く。
「魔導院の禁書庫で見たことがあります」
「闇属性の召喚陣」
空気が重くなった。
レオンが低く言う。
「つまり」
「誰かがこの魔法陣で」
「魔獣を作ってる」
フェルがぽつりと呟いた。
『作っている、というより――』
『呼び寄せている』
リナが驚く。
「呼ぶ?」
フェルは静かに言う。
『魔獣を闇の深層から呼び寄せ』
『魔力を歪ませ瘴気を纏わせている』
エリオスの顔が青くなった。
「そんなことが……ありえない」
レオンがフェルを見る。
「それができる者は?」
フェルはすぐには答えなかった。
森の奥、さらにずっとはるか先の方を見ている。
その目は、遠い昔を思い出しているようだった。
やがて、小さく言う。
『一人だけ知っている』
風が止まり、森が静まり返る。
フェルは続けた。
『数百年前』
『世界を闇に沈めようとした男』
リナが小さく呟く。
「……誰?」
フェルは静かに言った。
『ヴァルディス』
その名前が森に落ちた瞬間、
エリオスが息をのんだ。
「……え」
アルの表情が消える。
「……ヴァルディス」
エリオスはゆっくり頷いた。
「魔導院では……」
「……禁忌の名前」
リナが聞く。
「そんなに危ない人?」
エリオスは震える声で言った。
「伝説では……」
「堕精四騎を従え、大陸の半分を滅ぼしかけた魔導士」
空気が凍りつく。
レオンが低く言う。
「そして、その堕精四騎の封印が暴かれ、また現世に放たれた」
フェルは何も言わず、ただ、森の奥を見ていた。
その沈黙が、逆に重かった。
アルが地面の魔法陣をもう一度見る。
「……あの時の」
誰にも気づかれない声で呟く。
その時、森の奥から冷たい風が吹いた。
リナが思わず身震いする。
「……寒い」
フェルの耳がぴくりと動く。
『噂をすれば』
レオンが剣に手をかける。
「来たのか」
フェルは首を振った。
『違う』
『気配だけだ』
エリオスが震える声で言う。
「……見られてる」
震えを止められない。
アルは鋭い目のまま、額から一筋の汗が流れる。
「さっさと出て来いよ」
次の瞬間ーー
黒い霧が、森の奥で揺れた。
そして――
低い声が、どこからともなく響いた。
『……面白い』
全員が振り向く。
だが、誰もいない。
声だけが森に残っていた。
『守護神獣』
フェルの目が鋭くなる。
『まだ世界に干渉していたとはな』
リナが驚く。
「フェル……」
フェルは黙っている。
声は続いた。
『まあいい』
『もう少しで闇が深くなる』
『今宵、余興を楽しむがいい』
黒い霧が消え、完全な静寂に包まれた。
レオンが低く言う。
「今の声……」
フェルは静かに答えた。
『間違いない』
『あれは――』
そして、ゆっくり言った。
『闇の魔導士ーーヴァルディスだ』
森の奥ーー
世界を揺るがす闇が、
静かに動き出していた。
第25話 終わり
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!




