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第24話 森の奥の異変

王都アルディア北方――


ノクス=ヴェルディアの森。


昼間なのに薄暗い、影の森。


枝葉が空を覆い、光を拒むその場所は、


まるでーー


世界から切り離されたような静けさに包まれていた。


……だが、その静けさは、“自然なものではない”。


ザク、ザク……


落ち葉を踏みしめる音だけが響く。


レオン、アル、リナ、エリオス。


四人は言葉少なに森を進んでいた。


前衛と後衛として、前後に数名ずつ騎士団の小隊が配置されている。


フェルは白猫の姿で、リナの肩に乗っている。


風が吹くのに、葉は揺れない。


「……おかしい」


不意に、アルが足を止めた。


レオンが振り返る。


「どうした」


アルは森の奥を睨む。


「魔物の気配がない」


リナが小さく首をかしげる。


「それって、安全ってことじゃないの?」


アルは即座に否定した。


「逆だ」


「この森は今、王都周辺で一番“魔物が濃い”場所だ」


「闇の軍勢どころか」


「魔物がゼロってのは不気味すぎる……」


空気が、わずかに張り詰める。


フェルが低く呟いた。


『……この森は死臭が漂っている』


エリオスが息を呑む。


「死臭……ですか?」


エリオスの脳裏にーー


王都魔道院の調査隊の安否がよぎる。


(どうか無事でいて)


エリオスの胸が、不安でいっぱいになる。


『生命の流れが止められている』


『精霊も、魔物も、息を潜めておる』


その言葉に、リナの胸がざわつく。


やがてーー


視界が開け、ぽっかりと空いた空間に出た。


だがそこは――


“自然の空白”ではなかった。


「……これは」


地面一面に刻まれた、巨大な紋様。


幾重にも重なる円。


絡み合う線。


それは禍々しく見ただけで、本能が拒絶する“歪み”。


エリオスの声が震える。


「魔法陣……それも……」


「こんな規模、見たことない……」


リナがしゃがみ込む。


指先が、わずかに震える。


「魔力が歪んでいる……」


「これが瘴気となって魔物たちを……?」


その禍々しい魔法陣は、


まるでーー


大地そのものに刻まれた呪いのようだった。


アルが無言で手を伸ばす。


触れた、その瞬間――


「……っ」


ピクリと、体が反応する。


一瞬だけ、空気が歪んだ。


「アル?」


エリオスが声をかける。


だがアルはすぐに手を引いた。


「……いや、なんでもない」


だが、その目はわずかに細められていた。


(……これは)


(どこかで……)


フェルが静かに言う。


『古き闇の術だ』


その一言で、空気が凍る。


「古き……?」


レオンが問い返す。


フェルはゆっくりと続けた。


『数百年前、世界を滅ぼしかけた力』


『理を捻じ曲げ、生命を歪める禁忌の術』


レオンの声が低くなる。


「使える者は?」


わずかに沈黙する。


『……一人しかおらん』


風が吹いた。


その瞬間――殺気が落ちてきた。


「――っ!!」


木の上から、影が降る。


巨大な蜘蛛型魔獣。


瘴気をまとい、赤い目を光らせる。


「ダークスパイダーです!」


「でも様子が……」


エリオスの言葉が続く間もなく、


蜘蛛型魔獣がーー


一直線にエリオスへ向かった。


「っ――!?」


杖を構える間もなく、魔獣は口から粘状の糸で、エリオスの手足を固定する。


エリオスが顔が恐怖で歪む。


そしてーー


魔獣が口を開けて襲いかかろうとした瞬間、


リナが――


「大丈夫、させない」


その声は静かだか迷いがない。


手の中の薬瓶を、迷いなく投げる。


パリンッ!!


赤い煙が弾ると同時に、刺激臭が魔獣を包み込む。


魔獣が大きくのけぞり、動きが、一瞬止まる。


――その一瞬で、十分だった。


「そこ」


アルの低い声。


次の瞬間、姿が消える。


ザンッ!!


音が遅れて届く。


空間が、裂けた。


魔獣は、真っ二つに分かれて崩れ落ちた。


あたりが静まり返る。


エリオスの呼吸が止まる。


(今の……何……)


見えなかった。


いや、“見せてもらえなかった”。


アルは剣を振り、血を払う。


何事もなかったように真顔のまま振り返る。


「エリオス、大丈夫か?」


エリオスは、しばらく言葉が出なかった。


やっと、小さく頷く。


「怪我はない?」


リナが駆け寄り、心配そうにエリオスの顔をのぞく。


「……はい、リナ様」


リナはやわらかく笑う。


「“様”いらないよ」


「仲間なんだから」


その一言で胸の奥に、風が吹いた。


あたたかくて、やさしい感覚。


そして――


自然と、視線はアルへ向かう。


心臓が、少しだけ速くなる。


その理由を、まだ知らないまま。


そしてーー


アルは視線に気づかないまま森を見渡す。


「やっぱ変だな、この森」


レオンも頷く。


「ああ。ずっと誰かに見られている」


その時ーー


フェルが、ゆっくりと顔を上げた。


金色の瞳が細くなる。


『……来るぞ』


フェルは、森の最奥を見据えていた。


遠く、木々の隙間のさらに奥。


黒い霧が、ゆっくりと動いている。


それは、ただの霧ではない。


“何か”を引きずっている。


見えない糸で、


巨大で、不気味な“何か”を。


エリオスは、無意識にアルの隣へ寄っていた。


(この人の隣なら――)


(きっと、大丈夫)


その感情の正体を、まだ知らない。


そして――


森の最奥ーー


“それ”がゆっくりと忍び寄ってきていることを。


第24話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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