第23話 ノクス=ヴェルディアの森
王都の夜明けーー。
王都アルディアは、まだ静かな朝の空気に包まれていた。
北門の戦いから一夜。
騎士団の詰所では、昨夜の報告が続いていた。
「巨大魔獣、一体討伐」
「シャドウウルフ二十二体撃破」
書類を確認していた騎士が、思わず顔を上げる。
「……これ全部、昨夜?」
「はい」
別の騎士が苦笑した。
「しかもほとんどアル副団長一人ですよ」
室内の空気が一瞬止まる。
その奥で腕を組んでいたレオンが静かに言った。
「大袈裟に書くな」
騎士が慌てる。
「ですが団長、あれは……」
レオンは短く言った。
「事実だけ書け」
それ以上は何も言わなかった。
その時、扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのはエリオスだった。
長いローブ。
そして淡い緑色の髪が朝の光を受けて揺れている。
騎士たちがざわめいた。
「魔導士……?」
レオンが視線を向ける。
「用件は」
エリオスは一歩前に出た。
「私は王都魔導院の魔導士」
「エリオスです」
「昨夜は突然の報告で失礼しました」
レオンは表情を変えない。
「魔導院が動くほどの案件か」
エリオスは少しだけ迷い、答えた。
「……はい」
「北の森ーーノクス=ヴェルディアの森に現れている黒い霧は」
「ただの魔物の増加ではありません」
「闇の魔力の汚染です」
室内が静まり返る。
騎士の一人が小さく言う。
「汚染……?」
エリオスは続けた。
「数日前から、森の魔力が歪み始めています」
「普通の魔物があそこまで変異するはずがない」
「誰かが――」
「闇で魔力を操作している可能性があります」
レオンの目が鋭くなる。
「人為的ということか」
「可能性は高いです」
その時、後ろから声がした。
「へえ」
アルだった。
壁にもたれながら、話を聞いていた。
エリオスの心臓が跳ねる。
(あ……)
昨夜の光景がよみがえる。
巨大魔獣を一瞬で斬り倒した姿。
アルは軽く笑った。
「つまり」
「森で何かやってる奴がいるってこと?」
エリオスは頷く。
「はい」
アルは表情を一瞬曇らせる。
「確証がないなら話にならない」
レオンが言う。
「アル」
「なんだ」
「真面目に聞け」
アルは肩をすくめた。
「聞いてるって」
そしてエリオスを見る。
「で?」
「魔導院はどうするわけ?」
エリオスは少しだけ視線を逸らした。
「……本来なら」
「魔導院の調査隊が動く予定でした」
「ですが」
言葉が止まる。
アルが首をかしげる。
「ですが?」
エリオスは静かに言った。
「調査隊が戻ってきていません」
騎士たちがざわめいた。
「失踪?」
「全員か?」
エリオスは頷く。
「三日前」
「森に入ったままです」
レオンの表情が険しくなる。
「なるほど」
「だから王都に来たのか」
「はい」
その時ーー
窓際で丸くなっていたフェルがゆっくり目を開いた。
『ふむ』
全員の視線が集まる。
フェルは伸びをした。
『話は聞いた』
リナが驚く。
「フェル起きてたの?」
『当然だ』
フェルは窓の外を見る。
北の森ーーノクス=ヴェルディアの森の方向。
『闇による魔力の汚染』
『確かに感じる』
レオンが聞く。
「原因は分かるか」
フェルは少し沈黙した。
そして静かに言った。
『……古い力で封印が解かれた』
アルが僅かに反応する。
フェルは続けた。
『かなり古い』
『そして――』
『嫌な力だ』
リナが不安そうに聞く。
「危ないの?」
フェルは答えた。
『いずれ分かる』
『だが』
『もし私の予想が当たっているなら』
フェルの金の瞳が細くなる。
『この騒ぎは』
『まだ始まりにすぎん』
室内が静まり返った。
その時、アルが突然立ち上がる。
「よし」
全員が見る。
アルは伸びをした。
「森に行くか」
レオンが呆れた顔をする。
「簡単に言うな」
アルは笑った。
「でもさ」
「原因が森にあるなら」
「見に行くしかないよな?」
エリオスは思わず言った。
「わ、私も行きます!」
アルが振り向く。
「魔導士も?」
エリオスは真剣な顔で頷く。
「これは魔導院の問題でもあります」
アルは少し笑った。
「いいね」
「頼りにしているよ、エリオス」
その一言で、エリオスの顔がまた赤くなる。
フェルが小さく呟いた。
『……面白い』
リナが聞く。
「何が?」
フェルは笑う。
『恋も』
『闇も』
『同時に動き始めている』
その時、遠く北の森ーーノクス=ヴェルディアの森。
霧の奥で、巨大な影がゆっくりと目を開いた。
黒い魔力が静かに広がる。
物語はまだ――
始まったばかりだった。
第23話 終わり
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