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第20話 夜の城壁

王都アルディア。


北門の戦いから、三日が過ぎていた。


城下町の一角。


急ごしらえの臨時診療所には、今日も人が列を作っている。


室内には薬草の香りが漂っていた。


乾燥させた薬葉。


煎じた薬湯。


そして治癒魔法の淡い光。


「次の人、どうぞ」


リナは手を止めることなく、次々と治療を続けていた。


騎士の腕に包帯を巻きながら、そっと手をかざす。


掌から淡い光が溢れ、傷口を包み込んだ。


やがて光が消える。


「……動かしてみて」


騎士が恐る恐る腕を曲げる。


「……!」


「動く……!」


「痛くない!」


周囲の騎士たちから驚きの声が上がった。


「すごいな……」


「この薬師、本当にすごい」


治療を受けた騎士は深く頭を下げた。


「ありがとう」


「命を救われた」


リナは少し照れたように笑う。


「まだ無理しちゃだめだよ」


「今日は安静にね」


騎士は何度も礼を言いながら診療所を出ていった。


その様子を、少し離れた場所から見ている男がいた。


王都白銀守護騎士団長――レオン。


腕を組み、壁にもたれながら静かに診療所を見つめている。


そこへ、一人の青年が歩いてきた。


「団長」


アルだった。


レオンは視線だけ向ける。


「どうだった」


アルは肩をすくめた。


「北の森、やっぱり変だ」


「魔物か」


「ああ」


アルはため息をつく。


「数が増えてる」


「昨日の巡回の倍だ」


レオンの目が鋭くなった。


「……急激すぎるな」


アルは診療所の中をちらりと見る。


まだ働き続けているリナ。


次の患者の腕を診ながら、疲れた様子も見せず動いている。


アルが小さく言った。


「なあ団長」


「なんだ」


「あれ、倒れるぞ」


レオンは少しだけ黙った。


そして静かに言う。


「今日はもう終わらせろ」


アルがくすっと笑う。


「心配しすぎ」


レオンは何も答えない。


アルはニヤニヤしながら続けた。


「団長」


「なんだ」


「好きなの?」


レオンは無言だった。


アルが吹き出す。


「図星じゃん」


「……黙れ」


ーー夕方、


ようやく診療所が閉まり、リナは外へ出る。


そして、薬箱を抱えたまま、大きく背伸びをした。


「はあ〜……」


その時ーー


後ろから声がした。


「終わったか」


振り向く。


そこにはレオンが立っていた。


リナの顔がぱっと明るくなる。


「レオン!」


「見回り?」


「ああ」


短い沈黙。


レオンが言った。


「来い」


「?」


「城壁にいく」


リナは首をかしげる。


「どうして?」


「いいから」


「えー」


半ば強引に手を引かれ、リナは城壁へ連れていかれた。


ーー王都の城壁。


夜風が静かに吹いている。


石の壁の向こうには、王都の灯りが広がっていた。


リナは思わず声を漏らす。


「わあ……」


「きれい」


レオンが言う。


「王都で一番、星が見える場所だ」


リナは空を見上げた。


満天の星ーー。


夜空いっぱいに、光が瞬いている。


「こんな場所あったんだ」


「知らなかった」


レオンは腕を組んだまま言う。


「お前は働きすぎだ」


リナは少し笑った。


「薬師だから」


「助けられる人がいるなら助けたい」


レオンは眉をひそめる。


「限度がある」


「倒れたら意味がない」


リナはレオンを見た。


「レオンだって同じでしょ」


「騎士団長なんだから」


レオンは黙る。


リナがくすっと笑った。


「ちゃんと寝てる?」


「……」


「ほら」


「図星」


その時、後ろから声がした。


「やっぱここか」


アルだった。


レオンが聞く。


「巡回は」


「終わり」


アルは城壁にもたれた。


「……今んとこ異常なし」


そして二人を見る。


ニヤニヤとした笑み。


「……いい雰囲気だな」


リナが慌てる。


「違うって!」


アルは笑った。


「はいはい」


「俺は空気読む男だから」


手をひらひら振る。


「邪魔者は退散するよ」


そのまま去っていった。


リナは苦笑する。


「アルってほんと自由」


レオンは小さく笑った。


その時だった。


ふわり。


白い影が空から舞い降りる。


「にゃ」


フェルだ。


リナの肩に軽やかに乗る。


『静かな夜だな』


レオンが言う。


「守護神獣まで散歩か」


フェルは北の森を見ていた。


そして静かに呟く。


『……いや』


『静かすぎる』


空気が変わった。


レオンの手が自然と剣に触れる。


遠くの北の森、黒い霧のようなものが揺れていた。


リナが不安そうに言う。


「……あれ」


「魔物?」


フェルはゆっくり答えた。


『いや』


『もっと嫌なものだ』


『古い闇の気配だ』


レオンの目が鋭くなる。


「王都に来る可能性は」


『ある』


フェルは静かに言った。


『近いうちな』


その時、王都の門の方から騒ぎが起きた。


「止まれ!」


「何者だ!」


騎士たちの怒声をあげる。


城壁から下を見下ろすと、門の前に一人の少女が立っていた。


長いローブ。


手には杖。


魔導士だった。


夜風の中で、堂々と立っている。


そして、少女が叫んだ。


「王都騎士団に伝えたいことがあります!」


「闇の軍勢が動いてる!」


騎士が叫ぶ。


「名を名乗れ!」


少女は胸を張った。


「私は――」


「王都魔導院の魔導士!」


「エリオス!」


城壁の上で、リナが目を見開く。


そして――


新たな出会いが始まった。


第20話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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