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第19話 絶望の影

王都アルディアの夜空。


そこに広がっていたのは——異様な静寂だった。


先ほどまで吹き荒れていた、精霊の光と闇の嵐。


それらは今、拮抗したまま止まり——


まるで“世界そのものが息を止めている”かのようだった。


城壁の上、リナは、ただ空を見上げていた。


エメラルドの瞳が、わずかに揺れる。


「……あれは……」


夜空に刻まれた、巨大な“裂け目”。


空が割れている。


そうとしか言いようがなかった。


その奥から、音もなく黒い霧が、ゆっくりと滲み出してくる。


だが確実に——世界を侵食するように。


フェルが低く唸った。


『気をつけろ』


『あれは“闇”ではない』


『“意思を持った闇”だ』


アルが剣を構える。


その腕には、まだ震えが残っていた。


「分かってる……」


息が荒く、力を解放した反動で、体は限界に近い。


それでも、一歩も退かない。


その前方、闇の将ゼルヴァが、ゆっくりと立っていた。


崩れかけた体を、闇で繋ぎ止めながら。


「素晴らしい……」


かすれた声。


だが、その瞳は狂気に満ちていた。


「精霊姫……」


「精霊騎士……」


ゆっくりと腕を広げる。


闇が、背後で蠢く。


「だが——」


その声が、低く落ちた瞬間。


「お前たちはまだ」


「“本当の絶望”を知らない」


ゴォォォォォ……


地鳴りとともに空が軋み、裂け目が広がる。


騎士たちがざわめいた。


「な、なんだ……!?」


「空が……崩れる……!?」


黒い霧が、飲み込むように、吸い込むように渦を巻く。


そしてーー“それ”は現れた。


巨大な影、人の形をしている。


だが、その大きさは——


城を、王都を、見下ろすほど。


ただ、そこに“在る”だけで空気が潰れる。


呼吸が奪われる。


心臓が、拒絶する。


リナの胸が締め付けられる。


精霊たちが、怯えていた。


――あれは

――触れてはいけない

――あれは


「……絶望……」


思わず、声が漏れる。


フェルが静かに言った。


『違う』


『あれは“本体”ではない』


『影だ』


だが——その一言が、逆に絶望を深くした。


“影でこれなのか”


ゼルヴァが深く、恭しく、膝をつく。


「我が主……」


「ついに、この世界に御姿を……」


影の瞳が、開いた。


闇よりも深い黒。


光を拒絶する色。


それが——王都を、見下ろす。


その瞬間、全員の身体が凍りついた。


レオンが、歯を食いしばる。


「……この気配……」


王族の血が、軋む。


心臓が強く脈打つ。


脳裏に浮かぶのは——古き伝承。


滅びかけた世界。


そして、封印された“存在”。


レオンが、剣を抜いた。


キィン——


澄んだ音。その刃が、淡く光を帯びる。


アルが目を向ける。


「……レオン?」


レオンの瞳が、静かに燃えていた。


「どうやら——」


一歩、前へ出る。


「俺の出番のようだ」


その瞬間、剣の紋章が光を帯びて浮かび上がる。


黄金の光。


王家の証。


騎士たちが息を呑む。


「王家の……剣……!」


レオンは静かに言った。


「この剣は」


「闇の王と戦うために作られた」


さらに一歩。前へ。


「王族の血は」


「ただの飾りじゃない」


影が、動く。


巨大な手。


夜空を覆う闇の腕が——


王都へと伸びる。


「来るぞ!!」


その瞬間、レオンが剣を掲げた。


「王都アルディアは——」


光が爆ぜる。


「俺が守る!!」


黄金の結界が展開する。


城壁を中心に、円状に広がる光。


ドォォォォォン!!!


闇の手が叩きつけられる。


凄まじい衝撃で、大地が、空気が震える。


だが——砕けない。


騎士たちが叫ぶ。


「守られてる……!」


「結界が……!」


アルが息を吐き、笑う。


「さすが団長だぜ……」


レオンは振り返らない。


ただ、静かに言う。


「まだ終わりじゃない」


その背中を見て、リナは、一歩前へ出た。


精霊の光が集まる。


温かく、そして確かな力。


フェルが空へ舞い上がる。


白銀の翼が夜空を覆う。


『ついに揃ったな』


低く、告げる。


『精霊姫』


『精霊騎士』


『王の血』


三つの力が——


共鳴する。


ゼルヴァの表情が歪む。


「ばかな……」


リナが、静かに言った。


「もう」


一歩。


前へ。


「王都は壊させない」


光が、重なる。


精霊の光。


王の光。


騎士の光。


三つの輝きが、夜を塗り替える。


その時だった。


絶望の“影”が——ゆっくりと笑った。


空気が震え、世界が軋む。


「……懐かしい」


その声は、直接、脳に響いた。


「目覚める時を」


「楽しみにしている」


その瞬間、影が薄れていく。


裂け目も閉じていく。


静寂だけが残った。


誰も、動けない。


ゼルヴァが、崩れながら最後に笑った。


「……覚えておけ」


「闇の王は……必ず……目覚める」


闇が彼を包み込む。


そして——消えた。


風が吹く。


王都に、夜が戻る。


リナが、小さく呟く。


「……終わったの?」


フェルが静かに答える。


『いや』


『これは——始まりだ』


王都アルディア。


この夜、世界は、確かに動き出した。


第19話 終わり


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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