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白猫フェルと森の薬師 〜精霊に愛された少女は世界を癒す〜  作者: もふ森こはく


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第2話 森の薬師と白猫の秘密

エルダウッドの森の奥――。


深い木々に囲まれた場所に、一軒の小さな家が建っていた。


丸太を組んで作られた素朴な家。


壁には乾燥させた薬草が吊るされ、窓辺には色とりどりの薬瓶が並んでいる。


森の中にひっそりと佇むその家は、まるで森そのものの一部のようだった。


「着いたよ」


リナが振り返り、柔らかく微笑む。


後ろを歩いていたレオンは、わずかに目を見開いた。


「……こんな場所に、人が住んでいたとはな」


「ふふっ。驚いた?」


リナは扉を開く。


ちりん――。


小さな鈴が澄んだ音を響かせた。


途端に、優しい薬草の香りが二人を包み込む。


室内には乾燥させた薬草が天井から吊るされ、棚には無数の瓶や壺が整然と並んでいた。


まさに薬師の家。


そんな言葉がぴったりの空間だった。


「ここに座って」


「ああ……」


レオンは静かに椅子へ腰を下ろす。


その瞬間。


「……っ」


わずかに眉が寄った。


傷が痛むのだろう。


胸元の包帯には、再び赤い血が滲み始めていた。


「今、薬を作るからね」


リナは慣れた手つきで棚へ向かう。


薬瓶を取り出し、乾燥した葉を砕き、小さな乳鉢へ入れていく。


その動きには一切の迷いがなかった。


「……慣れているな」


ぽつりとレオンが呟く。


リナは少し照れたように笑った。


「小さい頃からずっとやってるから」


「森にはお医者さんがいないし、怪我をする人も多いんだ」


そう言いながら、白い花弁を手に取る。


その瞬間――。


レオンの瞳がわずかに揺れた。


(……この花)


見覚えがあった。


しかし、思い出せない。


遠い昔。


幼い頃に見たような。


「それは精霊花だよ」


リナが優しく言う。


「精霊花?」


「うん。傷を癒す力が強いお花なの」


そう言って、花弁をすり潰していく。


すると――。


ふわり。


白い光が、一瞬だけ花から零れた。


「……!」


レオンの灰色の瞳が見開かれる。


だが、リナは気付いていない。


まるでそれが当たり前であるかのように薬を調合している。


(今……光ったのか?)


気のせいではない。


確かに見えた。


だが、それ以上に。


その光に、なぜか懐かしさを覚えた。


まるで昔、どこかで見たことがあるような――。


「はい、できたよ」


リナが薬を差し出す。


レオンは静かに受け取った。


ふわりと漂う薬草の香り。


どこか心が落ち着く、不思議な香りだった。


ゆっくりと口に含む。


その瞬間――。


「……!」


身体の奥から、温かな力が広がった。


傷の痛みが消えていく。


重かった身体が、嘘のように軽くなる。


まるで優しい光に包まれているかのようだった。


「これは……」


思わず呟く。


王都でも、これほどの薬は見たことがない。


リナは不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの?」


「……いや」


レオンは胸元へ手を当てる。


黒く変色していた傷口が、ゆっくりと元へ戻り始めていた。


(ただの薬ではない……)


確信する。


これは薬草だけの力ではない。


何か別の――。


まるで精霊の加護のような力。


その時。


「ニャ」


白い影が机へ飛び乗った。


フェルだった。


金色の瞳が、じっとレオンを見つめている。


「フェル」


リナが優しく頭を撫でる。


「私が生まれた時から、ずっと一緒なんだよ」


「……そうか」


レオンは静かに白猫を見る。


だが。


なぜだろう。


この猫から、ただならぬ気配を感じる。


まるで――。


人に見られているような感覚。


「……妙だな」


「え?」


「この猫……俺を見定めている気がする」


リナはくすりと笑った。


「気のせいだよ」


フェルは黙っていた。


だが、その金色の瞳が静かに細められる。


『さすがは王家の血を引く者』


その声は誰にも届かない。


『僅かだが、気付いているか』


千年前。


何度も見てきた瞳。


運命は再び巡り始めている。


『……皮肉なものだな』


フェルは静かに目を閉じた。


◇◇◇


その夜――。


エルダウッドの森の最奥。


誰も踏み入れたことのない深い闇の中で。


赤い瞳がゆっくりと開いた。


「グルル……」


低いうなり声。


闇の奥から、一匹の魔獣が姿を現す。


続いて、二匹。


三匹。


異形の魔獣たちが、次々と現れ始めた。


黒く濁った瞳。


身体を覆う禍々しい紋様。


まるで闇そのものが形を持ったかのような存在。


そして――。


そのさらに奥。


深淵の闇の中で。


誰かが静かに笑った。


「……見つけた」


低い声が響く。


赤い瞳が向けられていたのは――。


森の中の小さな家。


「精霊に愛された娘」


ぞくり、と。


空気が震える。


「千年ぶりだ」


その声には、底知れぬ歓喜が滲んでいた。


「今度こそ……」


闇が、嗤う。


◇◇◇


家の窓辺。


月明かりを浴びながら、フェルは静かに森を見つめていた。


金色の瞳が、遠くの闇を捉えている。


『……もう気付かれたか』


白い尻尾がゆっくりと揺れる。


その瞬間。


月明かりの下で。


フェルの影が、大きく揺らいだ。


それは猫ではなかった。


天を覆うほど巨大な白銀の獣。


神々しい存在。


だが、それはほんの一瞬。


すぐに元の小さな白猫の影へ戻る。


『ならば――』


金色の瞳が細められる。


そこには、長い時を生きてきた者だけが持つ深い決意が宿っていた。


『今度こそ守ろう』


リナはまだ知らない。


自分が世界の運命を変える存在であることを。


レオンもまだ知らない。


己に刻まれた千年の宿命を。


そして誰も知らない。


千年前に終わらなかった戦いが――。


再び始まろうとしていることを。


第2話 終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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