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第1話 白猫フェルと森の薬師

エルダウッドの森は、昼でもどこか薄暗い。


高く伸びた古木が空を覆い、葉の隙間からこぼれる光は、柔らかく地面を照らしていた。

湿った土の匂いと、薬草のほのかな香りが風に混ざる。


その森の奥で、一人の少女がしゃがみこんでいた。


「うん、いい感じ」


小さく頷きながら、少女――リナは薬草を摘み取る。


銀色の長い髪がさらりと肩から落ちた。

森の光を受けると、まるで淡く光っているようにも見える。


リナは慣れた手つきで薬草を袋に入れた。


「これで傷薬が作れるね」


そう言うと、足元から小さな声が聞こえる。


「ニャ」


振り向くと、そこには一匹の白猫がいた。


ふわふわした毛並み。

金色の瞳。


まるで人の言葉を理解しているように、じっとリナを見上げている。


「フェル、もう少し待っててね」


リナは優しく笑う。


白猫の名前は――フェル。


生まれた時から、ずっと一緒に暮らしている。


ただの猫……のはずなのだが。


「ニャ」


フェルはゆっくりと尻尾を揺らし、森の奥を見つめていた。


その視線は、どこか鋭い。


まるで――

何かを感じ取っているようだった。


「どうしたの?」


リナが首を傾げる。


だがフェルは答えない。


代わりに、小さく息を吐いた。


『……また増えている』


その言葉は、風に紛れて誰にも届かなかった。


リナは気づいていない。


この森で最近、魔獣が増えていることに。


リナは薬草を採り終え、立ち上がった。


「今日はこのくらいかな」


袋の中を確認する。


傷薬用の薬草。

解毒草。

熱冷ましの花。


薬師としては、上出来の収穫だった。


「フェル、帰ろう」


そう言うと、白猫は軽やかにリナの肩へ飛び乗った。


小さな体がちょこんと乗る。


まるで、そこが定位置であるかのように。


「落ちないでね」


「ニャ」


答えになっていない。


リナはくすっと笑った。


森の小道を歩く。


葉が揺れる音、遠くで鳥が鳴く声、穏やかな森の午後。


――のはずだった。


その時、


ガサッ。


近くの茂みが揺れた。


リナの足が止まる。


「……?」


森の空気が、わずかに変わった。


フェルの耳がぴくりと動く。


金色の瞳が鋭く細くなる。


「ニャ」


それは、いつもの甘えた鳴き声ではなく、

警戒の声だった。


次の瞬間――


茂みの奥から、人影が飛び出した。


ドサッ。


地面に倒れる音がした。


「え……?」


リナは驚いて駆け寄る。


そこにいたのは、一人の青年だった。


黒い外套。

腰には剣。

金色の髪を後ろで一本に結ばれている。


そして――


胸元が、血で染まっている。


「大丈夫!?」


青年はうっすらと目を開いた。


灰色の瞳が、リナを見つめる。


「……ここは」


「エルダウッドの森だよ。あなた怪我してる!」


リナは慌てて薬袋を開いた。


手際よく布と止血薬を取り出す。


「少し痛いよ」


そう言って、傷に薬を塗る。


青年は眉をわずかに動かした。


だが、声は出さない。


「……騎士?」


リナは彼の剣を見た。


ただの剣ではない。


王都アルディアの紋章が刻まれている。


「どうしてこんな森の奥に……」


青年は少しだけ息を整えて言った。


「……魔獣を追っていた」


「魔獣?」


リナは驚く。


「この森に?」


青年は頷いた。


「最近、魔獣が増えている」


その言葉に。


フェルの尻尾が、ゆっくり揺れた。


金色の瞳が、青年を見つめる。


まるで――


「やっと現れたか」


と言っているように。


「……?」


青年は一瞬、白猫を見た。


だがすぐ視線を戻す。


「君は……薬師か?」


リナは頷いた。


「うん。私はリナ。森の隠れ里で薬師してる。あなたは?」


「そうか……俺の名はレオン。王都の騎士だ」


青年は少し安心したようだった。


そして小さく言う。


「ありがとう、助かった」


リナはにっこり笑う。


「まだ助かってないよ」


「え?」


「ちゃんと治療しないと」


そう言ってリナは立ち上がった。


「うちに来て。薬たくさんあるから」


青年は少し迷った。


だが、体はもう限界だった。


「……頼む」


その言葉を聞いて、リナは頷いた。


森の奥へ歩き出す。


白猫フェルが、青年を見上げる。


そして。


誰にも聞こえない声で呟いた。


『……騎士レオン』


金色の瞳が、静かに細くなる。


『やっと、会えたな』


――まだ誰も知らない。


この出会いが、世界の運命を変えることになるとは。


第1話 終わり


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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