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第16話 王都アルディア防衛戦

王都アルディアの夜空に――


警鐘が鳴り響いた。


ゴォォォォン――!!


重く、腹の底に響くような音。


城壁の塔から放たれたそれは、石畳を震わせ、建物の壁を伝い、街の隅々まで広がっていく。


静かだった夜が、一瞬で壊れた。


窓が激しく開く音。


大人、子ども、叫び声。


兵士が駆け出す足音。


「魔物だ!!」


「城壁の外に、魔物の軍勢!!」


たいまつの炎が次々に灯される。


揺れる橙色の光が、人々の不安を照らし出していた。


アルは無言で剣を掴む。


金属が擦れる音が、やけに大きく響いた。


「……やっぱり来たか」


レオンも立ち上がる。


その横顔には、迷いはない。


「結界が破られた以上、止まらない」


リナは、フェルをぎゅっと抱きしめた。


小さな白い体。


その温もりだけが、現実を繋ぎ止める。


「フェル……」


白猫は静かに言う。


『恐れるな』


『これは避けられぬ戦いだ』


その声は、不思議と揺るがない。


リナの胸の奥で、震えていた何かが――すっと静まる。


「……うん」


小さく息を吐く。


そして顔を上げた。


「みんなを守る」


その言葉に。


フェルはわずかに目を細めた。


『それでこそ、精霊姫だ』


アルが扉を開け放つ。


冷たい夜風が吹き込んだ。


「行くぞ!!」


四人は駆け出した。



城壁の上。


そこに広がっていたのは――


“闇”だった。


夜の平原を埋め尽くす、黒。


無数の影が、うねり、蠢いている。


まるで地面そのものが腐り、動き出したかのようだった。


身体にまとわりつく湿った空気。


身も心も握り潰されそう重い圧。


息を吸うだけで、喉の奥がざらつく。


「……なんだ、あれは」


騎士の声が震える。


レオンが目を細める。


遠くを見据えたまま、低く言った。


「普通の魔物じゃない」


フェルが呟く。


『闇の魔物』


『闇の王の残影が生み出した存在だ』


その瞬間、


リナの胸の奥で、精霊たちがざわめいた。


――来た

――戦おう

――精霊姫


無数の声。


優しくて、強い光。


リナは一歩、前に出る。


城壁の縁へ。


足元には遥か下の地面。


冷たい風が、銀色の髪を大きく揺らす。


夜空には、雲の隙間から月光が差し込んでいた。


エメラルドの瞳が――闇を射抜く。


その瞬間、


闇が、動いた。


ざわり、と。


大地そのものが押し寄せるように。


「来るぞ!!」


アルの声が響く。


黒い群れが、波のように城壁へ殺到する。


ドドドドドッ――!!


地鳴りと振動で、騎士たちの足元が揺れる。


「構えろ!!」


剣が一斉に抜かれる。


だが――


数が違う。


圧倒的すぎる。


レオンが剣を構えた。


「ここは俺たちが抑える!」


アルが笑う。


「任せろ!」


次の瞬間。


二人は、城壁から飛び降りた。


ドンッ!!


衝撃が地面を叩く。


砂と土が舞い上がる。


同時に――魔物が襲いかかる。


アルの剣が閃く。


ザンッ!!


黒い体が裂け、霧のように消える。


だが、


一体、倒した瞬間――


次が来る。


三体。


五体。


十体。


波が、途切れない。


「チッ……キリがねぇ!!」


レオンが冷静に斬り払いながら叫ぶ。


「リナ!!」


「君の力が必要だ!」


リナは、目を閉じた。


音が遠ざかる。


意識が、深く沈んでいく。


精霊たちの声が、はっきりと聞こえた。


――呼んで

――私たちを


「……うん」


リナは手を伸ばす。


夜空へ。


「精霊たち――!」


風が集まる。


水が光を帯びる。


火が揺らめく。


大地が低く震える。


四つの光が、リナの周囲を巡り始めた。


その瞬間――


『今だ』


フェルの声。


白い体から、光が溢れ出す。


まばゆい輝き。


夜が、一瞬で昼のように照らされる。


その姿が変わる。


骨格が膨れ上がり、光が輪郭を形作る。


巨大な白き神獣。


銀の毛並みが月光を反射する。


圧倒的な存在。


騎士たちが叫ぶ。


「な……何だあれは……!!」


アルが笑う。


「ははっ、やっと本気か!」


フェンリルが吼える。


空気が震える。


『精霊姫よ』


『力を解き放て』


リナの瞳が輝く。


エメラルドの光。


精霊たちが、応える。


「行くよ!!」


両手を掲げる。


四つの光が、一つに収束する。


凝縮された、純粋な力。


そして――


落ちた。


ドォォォォォン!!!


光の柱が、闇を貫く。


爆風が広がる。


地面がえぐれ、空気が震え、衝撃が城壁にまで届く。


闇の魔物が――消えた。


跡形もなく。


静寂。


誰も、言葉を発せない。


ただ、白い光の残滓が、ゆらゆらと漂っていた。


「……すごい」


誰かが、呟いた。


アルが肩で息をする。


「ほんと規格外だな……」


レオンが、静かに微笑む。


「さすがだ」


だが――


フェンリルの目が細くなる。


『……まだだ』


空気が、変わる。


闇の奥。


そこから、ゆっくりと、“それ”は現れた。


巨大な影。


人の形。


だが――人ではない。


赤い瞳が、闇の中で燃える。


その存在だけで、空気が沈む。


重く、圧し潰されるような感覚。


「また会ったな」


低く、響く声。


リナの心臓が跳ねる。


フェンリルが唸る。


『……闇の将』


影は、笑った。


「精霊姫」


「守護神獣」


その視線が、ゆっくりと動く。


レオンへ。


アルへ。


「精霊騎士」


「王族の血」


そして、


「全員揃っているとはな」


空気が凍る。


リナは拳を握る。


「……誰?」


影が答える。


「我が名は――」


闇が揺れる。


「ゼルヴァ」


その名が、夜に刻まれた。


王都アルディアの戦いは――


まだ、始まったばかりだった。


第16話 終わり


ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

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