第14話 精霊王と守護神獣
王城の中庭には――静寂が落ちていた。
戦いは、終わった。
だがーー
誰一人、言葉を発することができない。
夜空には雲が流れ、月明かりが石畳を淡く照らしている。
その光景はあまりにも、現実離れしていた。
王女セレフィーナを蝕んでいた呪いは、消えた。
そして、
リナの身体から溢れた、あの光。
精霊たちが集い、舞い、彼女を囲んでいた。
まるで――王の帰還を祝うように。
「……さっきのは」
騎士の一人が、震える声で呟く。
「何だったのだ……」
誰も、答えられない。
ただ一人。
白猫だけが、静かに尻尾を揺らしていた。
リナは、フェルを抱き上げる。
「フェル……」
まっすぐに見つめる。
「さっき言ってたよね」
「精霊姫って」
フェルは、ゆっくりと目を細めた。
『思い出したか』
「……ううん」
リナは胸に手を当てる。
鼓動が早い。
「でも……懐かしいの」
その言葉に。
フェルは小さく息をついた。
『そうだろうな』
静かな声。
『それは――お前の本当の名だからだ』
「……え?」
フェルが静かに言う。
『精霊姫――』
一瞬、言葉が止まる。
『……いや』
金色の瞳がリナを見つめる。
『お前の名は――』
その瞬間、
リナの胸に、強い光が走った。
頭の奥で、誰かが呼ぶ声。
だが――
「……っ」
リナは顔をしかめる。
思い出せない。
フェルは小さく息をついた。
『まだ、か』
空気が、止まる。
アルが目を見開く。
「本当の……名?」
フェルは空を見上げた。
夜の空。
そこに漂う精霊たちが、淡く光を放つ。
『遠い昔』
『この世界には、精霊王がいた』
風が、静かに吹いた。
精霊たちが集まる。
『名を――エーテル』
その名前が落ちた瞬間。
リナの胸が、大きく脈打った。
ドクン――。
視界が揺れる。
白い光。
無数の精霊。
そして。
巨大な光の存在。
(……知ってる)
フェルの声が、続く。
『精霊王エーテルは、子どもを創った』
『精霊と人を繋ぐために』
レオンが、低く問う。
「……その子どもとは」
フェルの瞳が、ゆっくりと向く。
リナへ。
『ーー精霊姫』
そして――アルへ。
『精霊姫を守るための』
『ーー精霊騎士たち』
重い沈黙が、場を包む。
アルが、息を吐いた。
「……つまり」
「俺とリナが、それだと?」
フェルは、静かに頷く。
『そうだ』
『お前たちは』
『精霊王の子だ』
ざわめきが広がる。
騎士たちが動揺し、言葉を失う。
セレフィーナも、息を呑んでいた。
リナは、その場に立ち尽くす。
「そんな……」
信じられない。
だが、胸の奥が否定しない。
フェルの声が、さらに低くなる。
『だが――』
空気が変わる。
『お前たちは一度、死んでいる』
「……っ」
リナの瞳が揺れた。
アルが眉をひそめる。
「どういう意味だ」
フェルは、静かに言った。
『古代の戦争だ』
その言葉に、空気が凍りつく。
『闇の王により』
その名が落ちた瞬間――
空気が重く沈んだ。
『世界を滅ぼしかけた存在』
精霊たちがざわめく。
『精霊王エーテル』
『精霊姫』
『精霊騎士』
『そして――私』
レオンが目を細める。
「……四人?」
フェルの瞳が、静かに光る。
『私は』
一瞬ーーその姿が揺らいだ。
白猫の奥に――
巨大な光の獣の影が重なる。
騎士たちが息を呑む。
『精霊王エーテルに仕えし守護神獣』
『世界の均衡を守る者』
そしてーー
『名を――フェンリル』
空気が震えた。
次の瞬間には、元の白猫に戻っている。
リナが、かすかに呟く。
「フェン……リル……」
フェルは、静かに続ける。
『だが』
『闇の王は、完全には滅んでいない』
その言葉に、全員が凍りつく。
『封印は』
『今、弱まり始めている』
その時--
ゴォォォ……
王都の外から、黒い風が吹き込んだ。
精霊たちが一斉にざわめく。
リナが息を呑む。
「……また来る」
アルが剣を握る。
レオンが低く言った。
「つまり」
「復活する可能性があるってことか」
フェルは、静かに頷く。
『そうだ』
そして、リナを見つめた。
その瞳は優しい。
『だから、お前は目覚めた』
リナの胸が、熱くなる。
「……私が」
『精霊姫は』
『世界を守る存在だ』
その言葉が、深く響いた。
その時ーー王都から遥か遠く離れた場所。
闇に沈む城ーー
玉座に座る影が、ゆっくりと笑う。
「……精霊姫」
赤い瞳が、開く。
「ようやく手に入る」
「精霊姫の力」
その声は、歓喜に満ちていた。
王都アルディアの夜。
静かにーー
確実に――
嵐が近づいていた。
第14話 終わり
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