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第六話

  第六話

 

 大陸で一般的な移動手段である乗合の馬車に揺られはや1ヶ月。ようやく帝都まで来れた。

 帝都は大陸へそに位置する。元々は一つの国でありヘルメス王国という。

 周りの6つの国を合わせ現在の竜帝国が存在している。

 

 入学試験当日の朝

 レインは深夜に帝都の中心部から離れ、ヘルメスの最北端にある竜牙峰の麓を目指していた。


レインが学校から指定された入学試験の場所がそこだったからである。

 

「だいぶ、遠いのね」 

 

 そう呟くレインの周辺には冷たい霧が立ち込めており体温と体力を奪っていた。

 

 徒歩ではいけず、レインは近くまで行商人の荷馬車に乗せてもらい、途中から歩くことにした。


 金のある貴族であれば、自分専用の馬車で行くこともできたであろうが、レインには宿賃を出すのが精一杯だった。それなら馬に乗っていく方法もあったがレインは馬に乗れなかった。

 

 指定された麓には関所があり、学校ではなかった。

 レインは自分を疑った。指定された場所に学校はなく、関所であり、自分と門番以外はいなかったからである。

 

 門番はレインが気にならない様で、ただ自分の勤めを全うしているだけでダンマリである。

 

 しかしそんな事を気にしている場合ではない。

 思い切って門番に尋ねた。

「あのお。つかぬことを伺いますが、ここは竜騎士学校の入学試験場であってますか。」

 聞いたものの、門番は黙ったままである。

 

 予想はやはり外れたかと、レインは慌てて続けた。

「まさか違いますよねえ」

 

 しかし門番は遅れて問いに答えてくれる。

「そうだ」

 まさかだった。

 

 周りを見渡すと、レインの他にまだ試験に来たものは居らず1番乗りの様だった。

 

 頑張って早くから来た甲斐があったがまだ夜が明けてまもない。

 少しここで休んで習ったことの復習でもするかと考えていた。

 

 レインは夢を見た。

 “誰か“がレインに声をかけてきたのだ。


『−−−我が騎士よ。待っていた』

 

 ガルドや父の声とは違うけれど、どこか聞いたことある声だ。

 

 騎士とは私のことだろうか。

  

 誰だろうと考えているうちに意識の外から声が聞こえた。

 

「おい。起きろって」

 

 いつの間にか眠ってしまった。誰かに肩を揺らされ顔を上げた。

 

 周りを見ると受験生たちが続々と関所へ集まっていた。

 目の前に居たのはレインより年上で20歳前後くらいの男だろうか。

 まだ霞む視界に見えたのは緑がかった黒い髪にレインより暗い緑の目

 

「起こしてくれてありがとう。」

 眠い目を擦り、カラカラの声でお礼を言った。


すると男は不思議そうな顔をしてレインに聞いてきた。

「いや、それはいいんだけどさあ。お前見るからに弱そうだけど大丈夫かー?」

 

 どうやら起こしてくれただけでなく、レインの貧弱な体を見て心配してくれたようである。

 

 少しだけむっとしたがこの男が起こしてくれなければ多くの受験生の前で恥をかいていたであろう。

100名程の若者が関所の目の前に集まっていた。

「大丈夫。腕っぷしは弱いけど、やる気は誰にも負けませんよ!」

 そう言って二の腕を叩いて見せた。

しかしそれは逆効果だったようである。


「それは大丈夫じゃなさそうだなあ…。まあ、ここまで来たからからにはお互い頑張ろうな!」

 

 そういって差し出された手を握り握手を交わした。

 ちょうど関所の扉がギイと音をたて開く。

 

「受験生は集合!!」

 耳をつんざくような大声で号令がかけられる。

 バラバラに過ごしていた受験生たちが関所の前に駆け足で集まった。

 

 慌ててレインたちも集団へ合流する。

 

 号令をかけたのは髭を生やしたいかにも厳しそうな見た目の男であった。軍服には何個も勲章がついていた。

 よく見ると男の他にも後ろに若い男が2人。

 

 1人は爽やかなダークブラウン髪と目の青年と肌の焼けた黒髪の男だった。

 

 レインは一瞬黒髪の男と目があった気がした。

 

「ゴホンッ。これから入学試験を行う!まずは学校までの向かってもらう!」

 軍服の男が咳払いをして話を続けた。

 なるほど。試験会場はここではないらしい。

 

「この先は命の保証はない!学校までたどりつけたもののみ試験が受けられる!」

 

 それを聞いた受験生の反応はそれぞれだった。

 1人の生徒が手を挙げ質問をした。

「学校はどこにあるのでしょうか」

 ごもっともな質問だ。


「行けば分かる!!」

 すると、大きな声で理不尽な答えが返ってきた。


「他に質問は無いな!!!」

 聞くきも無さそうな問いかけに、誰も口答えはしなかった。否、聞く暇がなかったとも言える。


「では!!はじめ!!!」

 朝餉の時間ぐらいになるだろうか、目が覚めるような大きな声を合図に門が開いた

 

 門の先が見えたが霧が濃く背の高い大木が生い茂っている。その奥はよく見えない。

 

「さっさと進め!!」

 誰もが行くのを戸惑いレインも周りの様子を伺った。

 

 ざわつきお互い顔を見合わせていた。

 

 1人の生徒が足を踏み出したのを皮切りに次々に門を潜っていく。

 

「なあもたもたしてないで行こうぜ」

 なんとこの起こしてくれた男はレインと一緒に行ってくれるらしい。

「う、うん」

 

 レインと起こしてくれた男も門をくぐり更なる森へと進む。

 門を通ろうとした際に誰かに声をかけられた。

「お前には無理だ」


 振り返ると先ほどの教官の後ろにいた黒髪の青年だった。近くで見ると珍しい金色の瞳を持っていて、端正な顔つきをしていた。


 はっと我に帰り、レインは男を睨んだ。


(無理だとしても、私にはやるしかないんだよ!!!)

 

 そしてレインは勢いで睨むだけではなくあっかんべーと黒髪の青年に顔を向けた。 

 そうしたら次の瞬間黒髪の青年は驚いた顔をして睨み返された。

 

「グフッ」

 

 誰かが吹き出した様な笑い声が聞こえた。

 

 良く見るともう1人の青年が腹を抱えて笑っていた。

(しまった。見られた。)

 自分の顔が赤くなるのを感じた。

 

「お前何やってんの?」

 隣の男が呆れた顔をしている。


「なんでもない!」

 そう言い切ると、先を急ぐため森の中を早足で歩く。

 

「そういえば名前なんていうの?」

 森の中を歩くうちにレインの口調に敬語は無くなっていた。

 

「ああ、俺?ガイ・グランツ。」

 隣に立っているガイは顔は整っている方で、何か武芸をやっていたのか受験生の中でも体格が良く、身長も高い。レインとは正反対である。

 

「私はレイン・ヴァルシア。改めてよろしくね」

 

「なあレインはなんで竜騎士目指してんだ?」

 確かにそう思われるのは仕方ないと感じた。


受験生の女子の中でも、身長も低く筋肉が明らかに足りていない。


 ガイとは別の意味で目立っていた。


「まあ、色々あったんだけど。家に王命が届いてね、」

 

 そう言ってレインがここまで来なければならなかった理由を話始めた。

 

「へえ、大変だったなあ」

 同情ではないガイの言葉だった。

 

 色々端折ってガルドのことは濁して伝えたが話したこと以上は詮索されなかった。

 

「ところでガイはなんで竜騎士になったの?」

「俺は、竜騎士に憧れて」

 そう言ってレインに向かって歯を見せて笑った。なんだかはぐらかされた気もするがそんなこと気にしている場合ではない。

 色々話しているうちに、レインとガイは友人になっていた。

 

「というか、あなた私と一緒に居ていいの?」

 正反対の2人が一緒にいると悪目立ちである。

 森を歩く生徒とすれ違うたびに注目されていた。理由はそれだけではない。

「へ?なんで?」

 ガイは本気で気にしていない様子である。

「一緒にいたら足手纏になるでしょ」

 見るからに弱そうなレインといたら何かに巻き込まれた時絶対不利になるだろうとレインは自分で分かっていた。

「あー、そこまで深く考えてなかったや。」

 

「まあ、でもさ。お前に何かあったとしても俺は助けられることなんて限られてるし、いざとなったらお互い自分のことで精一杯だろ。」

 その答えは取り繕った訳ではない。短い付き合いだがこれがこの男の優しさだと感じた。

 

「まあ、つまりあんまり深く考えんなってこと」

 

「そっか、ありがとう」

 なんというか良い奴だな。素直にそう思ったレインはニコッと微笑み返した。

 ガイは照れたように顔を背け顔をかいていた。

 

 2人は前の受験生たちに続いて歩く。

 行き方はわからないが、道は1本だ。

 皆それぞれのペースで険しい山道を進む。

 

 そんな時、後ろから悲鳴が聞こえた。

「ぎゃあああ」

 一気に周囲の空気が凍りついた。

 レインとガイは身構える。

 霧でよく見えないが、やがて後ろを歩んでいた受験生が何者かに掴まれたように濃霧に消えた。

 

「助けてくれええ」

 

 声が遠くなりやがて聞こえなくなった。

 

 ガイが叫んだ。

「走れ!」

 

 その声を合図に悲鳴と逆方向に2人は走り出した。

 夢中で走っているうちに他の受験生を見つけては逃げろ言い続けた。

 1人、また1人と連れさられた。何かが襲ってきているようだった。

 

 やがて、レインたちの元へもやってきた。レインは間一髪、滑り込む形で避けた。

 

 それは蔦のようだが人間の腕より太く意思を持ったように動いていた。

「来るぞ!!」

 声と共に剣を抜き構えた。ガイはすでに蔦を切りふせようとしていた。

 

 しかしどこからか声が聞こえた。

「切るな!!!!」

 ガイは声のした方に振り返った。

 次の瞬間、真上からきていた蔦にガイの首を掴まれそのまま身体中を締めつけられる。

 それに気を取られたレインも足を掴まれそのまま羽交い締めにされる。

 

「く、苦しい」

(こんなところで死ぬわけにはいかないのに)

 蔦に絡まれたままレインは思い出した。竜の聖域にはそれらを守る生き物がいるという話だった。そしてそれらに手を出してはいけない。

 

 レインの意識が遠のきかけたとき、誰かの怒号が聞こえた。

 

「その植物は敵とみなした者に絡みつく!!!抵抗せずじっとしていろ!!!!」

 

 聞こえるや否や、抵抗するのを辞めた。

 すると、絡みついていた蔦がみるみるうちに解けていく。

 

「ゴホッゴホッ」

 

 急に息を吸い込んだせいでレインは咽せていた。

 それはガイも一緒のようであった。

 しかし、その様子はレインよりケロッとした様子だ。

 

「ゲホッ。いや死ぬかと思ったー。」

 

「いや、本当にね‥‥。誰かわからないけど助けてくれてありがとう。」

 お礼を言ったあと今日は誰かに助けられてばかりだと思ってしまった。

 

「いや、お礼は結構!騎士になるものとしてあたり前のことをしたまでさ」

 そう話すのはレインより頭一個分以上背の高い色白で黒髪の女だった。

 美丈夫という言葉が似合うだろうとレインは考えていた。

 

「私の名前はレイン・ヴァルシア。よろしくね」

 

「俺はガイ・グランツ。いや、ほんと助かったぜ」

 

「うむ!私の名はリン・ネメリシア。ローランの公爵家の3女だ!」

 なんと公爵家のご息女だった。

 確かに、オーダーメイドで女性用に繕われた乗馬服を見に纏っていて、明らかに金持ちという見た目である。

 

 貧乏貴族であるレインとの対比でリンが眩しく見えるレインであった。

 

「せっかくだから、リン様も一緒に行きませんか」

 

「ははっ。同じ竜騎士を目指す者同士だろう!!呼び捨てで構わない。」

 

「そ、そっか。リ、リン?よろしくね」

 普段は勢いでは負けたことのないレインが押されていた。

 

「なあ、ところで後ろのやつ。誰?」

 ガイはリンの後ろを指さしていた。

 

 リンの後ろを覗くと男が倒れていた。

 レインも気づかなかった。そして、頭に疑問がたくさん浮かんだ。

(いつの間に?っていうか誰?)

 

「この男は同郷から一緒に来たセト・ノーランだ!!」

 リンが詳細を教えてくれる。

 

「それでなんでそいつは倒れてるんだ?」

 

 聞きたいのはそこじゃないと言わんばかりにもう一度ガイは聞いた。

 

「ああ!セトも君たちと同じように、あの蔦に絡まれていてな。気絶したところで蔦が剥がれたんだ。仕方ないので背負ってきた。」

 

「な、なるほど。だから蔦の仕組みがわかったんだな。」

「す、すごい」

 ガイとレインは苦笑いだった。

 

「世間話は置いといて。それでは諸君先を急ごうか」

 その言葉と共にレインとガイはお互い顔を見合わせ頷いた。

 そしてセトという青年はガイが背負うこととなった。

 

「ところで、なんで蔦は私たちを襲ってきたのかな」

 

「なんでってそういう試練だからだろ?」

 ガイはそれ以外に何があるんだと言いたげである。レインはそれは違う気がすると思った。

 

「だって何もしなければ、蔦は危害を加えてこなかったはずでしょう」

 

 しかしその疑問はリンがすぐ解決した。

 

「それはだな、近道をしようとしたものが邪魔だった蔦を切ったのさ」

 

「なるほど」

 

「近道って言ったって、方向がわからないだろうし。バカなやつもいるもんだな。‥‥っていうか俺あの蔦あのまま切ってたらやばかった感じ?」

 ガイは思ったことを素直に口にしているようだった。

 

「だから私が止めたんだ」

 リンが胸を張って答えた。

「助かった!ありがとう」

 ガイはリンを拝んで再度お礼を言った。

 調子のいいやつだなと思ったレインである。

 

「第一に竜の聖域でそんなことするなんて」

 レインはそう言って眉を顰めた。

 ガルドから龍が住む地は竜脈の中心であり、荒らしてはいけないと教えてもらっていたからだ。

 

「そういうものなのか?」

 リンが驚いたように聞いてきた。

「え、うん。」

 

「俺も聞いたことないなあ」

 

 意外に知られていないものなのだろうか。

 確かに父が持つ書物に竜のことが記載されているものはなかった。

 

 なぜだろうと考えていた時だった。

 

 後ろから羽虫の音が聞こえた。それがやたら大きく消えない。

 

 3人が振り向くとそこには見たこともない大きさの蛍がいた。

「ひぃっ」

 そう声を上げたのはリンであった。

 

 大きな蛍はなぜか群れになっておりこちらに向かってくる。

 

「さっきの話だとああいうのに手を出しちゃダメってことだよな〜!」

 

「そういうこと!!」

 思わず叫んで答える。

「走って!!!」

 

 その言葉を合図にレインは固まっているリンの手を取り、全速力で走った。ガイもそれに続いて走ってきた。 

 


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