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ガラスの靴なんてクソ喰らえ!  作者: ぬしぽん
第二章

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13/14

王子って親切


 「ちょっと相談があるんですけど」


 早朝の広場の隅。誰もいない時間を選んで、私は妖精さんと向き合った。


 「なに?」


 「魔法の火力……日に日に上がってる気がして」


 「火力?」


 「最初の頃と比べると、明らかに強くなってるんです。マジックイーターを倒すたびに、なんか……無駄に炎が大きくなってる気がして」


 「それは悪いことじゃないんじゃない?」


 「いや、このままじゃいつ火事を起こすか……」


 妖精さんは少し考えてから、腕を組んだ。


 「もしかしたら、感情と連動してるのかもしれないわね」


 「感情ですか?」


 「炎系の魔法は感情に左右されやすいって聞いたことがあるのよ。戦いを重ねるたびに、何か感情が積み重なっていってるのかも」


 「じゃあどうすれば……」


 「わからない」


 「即答しないでください!」


 「ごめんなさい。でも本当にわからないのよ。あくまで可能性の話だから」


 「……妖精さんが知らないなら誰が知ってるんですか?」


 妖精さんは視線を逸らした。


 (こいつめ……)


 「とりあえず、大きな場所で戦うように心がけてみます……」


 「それが今できる一番の対策ね」


 「なんて情けない対策……」


 「それより遅刻しないように。仕事でしょ」


 「そうでした!」


 日に日に強くなる炎のことを頭の片隅に置いたまま、私は仕立て屋へと急いだ。



※※※※


 仕立て屋に向かう途中――


 朝市が立つ通りは、いつも人で溢れている。

 石畳の上に並んだ露店から焼き立てのパンの匂いが漂って、八百屋のおじさんが威勢よく声を張り上げている。仕立て屋に向かうこの道は、毎朝通るお気に入りの通りだ。


 「ねえ、お嬢さん」


 (あ)


 立ち止まりもせずに歩き続けた。無視が一番だ。


 「ちょっと待ってよ、お嬢さん!」


 足早に歩いても、男二人の足音がついてくる。


 「一人?どこ行くの」


 「仕事です」


 振り返らずに答えた。これ以上関わりたくない。


 「仕事って、朝っぱらから?こんなに可愛い子がもったいないなあ」


 男の一人が回り込んで、前に立ちはだかった。ニヤニヤとした笑顔が不快だ。


 「急いでますので」


 「そんなこと言わずにさ——」


 「その辺にしておけ」


 突然、低い声が割り込んだ。

 声の方に振り返ると、石畳の真ん中に、金髪の青年が立っている。白いシャツに細身のズボン。その立ち姿には妙な圧がある。冷たい碧眼が静かにこちらを見据えていた。


 ナンパ男達はしばらく青年を睨んでいたが、その目つきに気圧されたのか、舌打ちをして立ち去った。


 あの青年にはなんだか見覚えがある。。。

 朝の光の中で見るその顔は、紛れもなく——


 (アースラ王子!?)


 「……お前、前に馬車に乗せた娘か」


 向こうも私に気づいたらしい。ただの村娘の顔を覚えているだなんて、なんて記憶力がいいのだろうか。王子は少し目を丸くしている。普段の無愛想な顔が、珍しく意外そうな表情になっていた。


 「は、はい。お久しぶりです」


 「こんな時間に一人でどこへ」


 「仕事です」


 「そうか」


 アースラ王子は私をざっと見てから、視線を前に戻した。


 「気をつけて行け」


 「……はい。ありがとうございました」


 私は頭を下げて、また歩き出す。

 朝市の喧騒に紛れながら、私はちらりと後ろを振り返ると、アースラ王子の後ろ姿が人混みに消えていくのが見えた。


 (王子が私服で街をうろついてるとか……舞踏会の時もそうだったけど、王子って案外自由なのかな?)


 そんなことを考えながら歩いていると、

 知らない男達から声を掛けられる。


 「ちょっとお嬢さん!」


 三人組だった。露店の陰からぬっと現れた男達は、私を見てにやりとした。前の二人組より体格がいい。


 「どこ行くの?一緒に行こうよ」


 「結構です」


 「そんなこと言わないでさあ、少しくらい——」


 「おい」


 また同じ声――

 男達が振り返ると、先程同様アースラ王子が立っていた。腕を組んで、面倒くさそうな顔をしている。男達は王子の雰囲気に気圧されて、今度も素直に立ち去った。


 「…………」


 「…………」


 2回目…アースラ王子は少し呆れた顔をしている。


 「お前、そんな顔をして一人で歩くな」


 「そんな顔って……」


 「早く行け」


 「あ、ありがとうございました」


 私は再び歩き出す。今度は少し速足で。


 「ねえちょっと、お嬢さん!」


 (もー!今日に限って……)


 今度は四人組。


 (どうして増えていくのよ!)


 「よかったら一緒に——」


 「やめておけ」


 四人組の後ろに再びアースラ王子が現れた。今度は最初から腕を組んでいる。男達は王子の顔を見た瞬間に踵を返した。


 「…………」


 「…………」


 「案内しろ」


 「え」


※※※※

 

 「ここです」


 仕立て屋の前に着いた。石造りの外壁に、小さな看板がかかっている。アースラ王子は店を一瞥すると、何も言わずに背を向けて歩き出した。


 「あ、あの……ありがとうございました!」


 返事はないか。そう思ったのも束の間、王子は足を止め、こちらにチラリと視線を向ける。


 「……帰りは気をつけろよ」


 それだけ言うと、王子は再び歩き出した。


 (無愛想な奴だと思ったけど、案外いい人かも)


 そう思いながら、私は仕立て屋の扉を開けた。

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