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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第四章

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58 その能力、無効化よ!

 結局、ハサミから話を聞いているうちに外はすっかり夕暮れ時になっていた。

かなりの時間が経ってしまったようだ。司祭ちゃんをずいぶん長いこと付き合わせてしまった。


「ねえ司祭ちゃん。結構な時間付き合わせてしまったわね。もしよければ、うちに泊まっていく?」


 私がそう尋ねると、司祭ちゃんは申し訳なさそうに微笑んだ。


「あ、いえ、ありがとうございます。大丈夫ですよ、クシナさん。明日は教会を開けるので、私はもう少ししたら戻りますね」


 遠慮しなくてもいいのに、と思うが、本人がそう言うなら無理強いはしない。


 そして問題は、この眼鏡女ことハサミだ。


「ねえ、アンタ。別にうちの一階に泊まっていいとは言ったけど、結局どうするの?」


 私が問いただすと、ハサミは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してきた。


「そりゃあ泊まるでしょ! 迷宮外泊ってはじめてなんだよね」


 なんだかハサミは、嬉しそうに目をキラキラさせている。

眼鏡越しだし、正体は呪いらしいけれど、その反応だけは年相応の女の子に見えなくもない。


「まあ、今日はそれでいいわ。明日でもいいから、また迷宮に入って私のカバン……『丸呑みちゃん』を持って帰ってくるのよ」

私はハサミにそう釘を刺した。


「わかったよ。多分そんなに時間はかからないし、パッと行ってビューンと帰ってくるよ」

ハサミは事もなげに言う。


 この軽さはアニマに似ている。案外、気が合うのかもしれない。


 ……待てよ。そういえば、迷宮の出入りは厳密に記録されているはずだ。

遭難者を確認するために、名簿への記入が義務付けられているはずなのに。


迷宮の内側から現れたこの子に、入った記録なんてあるはずがない。どうやってあの監視の目を抜けて街に入り込んだのか。


 私は疑問に思い、ハサミに直接聞いてみた。


「そういえば、アンタ。迷宮からどうやって出てきたのよ?」


ハサミは私の問いに不思議そうな顔をして答える。

「え? さっき説明したよ? このローブを着て……」


「いや、そうじゃなくて」


 私はハサミの発言を(さえぎ)った。

「迷宮は出入りを厳重に管理しているのよ。入った記録がないのに出てきたら大問題になるわ。普通なら入り口で止められて、根掘り葉掘り事情を聞かれるはずよ」


 司祭ちゃんもようやく気づいたのか、「そういえばそうですね……」と表情を曇らせた。


「ん? ああ、なるほど。そういう仕組みなんだ。知らなかったよ」


 ハサミは感心したように言うと、「つまりはね、こうやって」と芝居がかった動作で指をパチンと鳴らした。


 直後、目の前にいたハサミの姿が掻き消える。


「えっ!? ハサミさんの姿が見えません!」

司祭ちゃんが狼狽(うろた)えた声を上げた。


「でしょー。これがアタシ自慢の『透過能力』!」

ハサミの得意げな声がすぐそばから聞こえてくる。


「この能力の間は見えないし、しかも物体も人もすり抜けることができるんだよ。つまり無敵!」

彼女が今、したり顔で顎に手を当てているのが声のトーンだけで伝わってきた。


「本当に、どこにいるか分かりません……声は聞こえるんですけど」


 司祭ちゃんが不安そうに周囲を見回している。姿も見えず、触れることもできない。これならどんな厳重な警備も、彼女にとっては無意味というわけだ。


 ハサミは「さらに、アタシからは人や物に干渉することができるんだ」と言うと、おもむろに立ち上がった。


 司祭ちゃんの背後に回り込み、修道服の上から肩甲骨の間の中心にある窪みを、人差し指で一本の線を引くようにすいーっと軽くなぞる。


「ひゃああ!」

司祭ちゃんはくすぐったそうに背中を跳ねさせた。


「なんてことをするんですか!!」


「あはははは!」


 ハサミはけらけらと笑っている。だが、私はその一連の流れを、最初から普通に眺めていた。

そう、私には全く透明になっているようには見えなかったのだ。


 私はおもむろに立ち上がった。司祭ちゃんとハサミが「え?」という顔でこちらを見る。

私はそのまま、迷いなくハサミの背後へと歩を進めた。


そして、先ほど彼女が司祭ちゃんにしたのと全く同じようにしてやった。背中の窪みを、指一本ですいーっと。


「うえあ?!」

ハサミは奇妙な叫び声を上げて驚愕した。それと同時に、彼女の透明化はあっけなく解けていた。


「えっ……なんで?」

ハサミは信じられないといった様子で呟いている。


「私は最初から全部見えていたわよ」


「だったら、どうして止めてくれなかったんですかー!」

司祭ちゃんが抗議の声を上げる。


 ハサミが呪いの類だというのなら、その能力が私に効かないというのは十分にあり得る話だ。


 私は試しに、ハサミの細い手首を逃がさないようしっかりと掴み、

「アンタさ、今もう一回、その透明化の能力を使ってみて」

と指示を出してみた。


「え? よし分かった、ばっちこい!」

ハサミは威勢よく応じる。だが。


「あれ? なんで? 使えないんだけど……」

彼女は何度も指を鳴らしてみせるが、一向に姿が消える気配はない。


 どうやら私は、呪いに対しては本当に万能らしい。私が直接触れている間は、透明化の能力を使うことすら封じられてしまうようだ。


 流石は私。美少女なだけはあるわね、と心の中で自画自賛しておく。


 とりあえず、私に対してはその透明能力が悪用できないことが分かって一安心だ。


 そうこうしているうちに、さらに時間は過ぎ、外はすっかり深い夜の帳に包まれていた。


 私の家である雑貨屋から、司祭ちゃんの教会までは少し距離がある。


「司祭ちゃん、もう夜も遅いし、今日は泊まっていきなさいよ。お風呂も使っていいし、明日の朝には送ってあげるから」


 私がそう提案すると、司祭ちゃんは「うーん……」と少し迷っていたが、やがて決心したように頷いた。

「わかりました、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」


 そこへ、すかさずハサミが「アタシもお風呂入りたい!」と言い出した。


 あまり貸したくはないけれど、ここで恩を売っておくのは悪くない。


「仕方ないわね。貸しだからね、貸し。ただし、私たちが使い終わったあとよ」


 私が了承すると、ハサミは子供のように喜んでいた。


 それにしても、呪いがお風呂に入ってどうなるんだろう。まさか今まで一度も入ったことがないなんてことはないわよね?


 お湯の出し方から説明する必要があるのかしら。……ああ、考えただけで面倒になってきた。


 こうして、どたばたした一日が過ぎていった。


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