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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第四章

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57 クシナ雑貨屋系列店増加計画

「ステランの目的はね……」

眼鏡女ことハサミは、さも重大な秘密を握っているかのように勿体ぶって言った。


「実は、よくわからないんだ!」


 ……は? ここまで引っ張っておいて、それ?


 隣では司祭ちゃんも、開いた口が塞がらないといった様子で呆れ果てている。


「ちょっと、そんな目で見ないでよ。順を追って説明するからさ」


 ハサミはバツが悪そうに人差し指で頬を掻き、話を続けた。


「まずステランは、迷宮の本体……うーん、説明がめんどいな。『(コア)』って言い方にするよ。そのコアから生まれた分身体のようなものでね。コアは動くことができないから、ステランに迷宮を修復させたり、拡張したりさせてるわけ」


「それで?」

私は先を促した。


「だからステランも、基本的には迷宮にとって利のある行動しかとらないはずなんだよ」


 ハサミは空いた手で机の木目をなぞり、まるで迷宮の図面でも描くような仕草を見せながら、話を続けた。


「でもだったら、探索者って存在は迷宮にとっても、ステランにとっても邪魔なだけだと思うんだよね。ほら、探索者はモンスターを狩るし、お宝や採集物も持って行っちゃうでしょ? 迷宮を維持、管理する側の視点からすれば、ただただ損なだけ。普通なら、入り口を閉じるか、入ってきた瞬間に全力で排除するのが正解じゃん?」


 ハサミの言うことは、商売の理屈としても筋が通っている。店に強盗が入るのを、わざわざ鍵を開けて待っている店主などいないのと同じだ。


「だから、よく分からないっていうね」


 確かに、私たちが迷宮に拉致されたときもそうだった。ステランは私を攻撃するどころか、まるで観察でもしているかのような不気味な余裕があった。侵入者を排除するのではなく、何かの目的のために泳がせている――。


 司祭ちゃんも、ハサミの言葉を反芻(はんすう)するように押し黙っている。


「でも、モンスターは探索者を襲ってくるじゃない。あれは迷宮が探索者を排除しようとしているわけじゃないの?」


 私の疑問に、さも当然といった風に答えた。


「あー、モンスターは迷宮から生まれた存在ではあるけど、迷宮の制御下にあるわけじゃないんだ。あれはモンスター自身の本能。迷宮の意思とは別物だよ」


 ……なんだか、話がだいぶ面倒なことになってきた。


 整理すると、このハサミという眼鏡女は、自分が地上で観光したいがために呪物を集めていた。

ステランの目的はいまだに不明。けれど、迷宮が崩壊するという話はどうやらデマではないらしい。


 だとしたら、その理由を直接聞いた方が早そうだ。


「ステランの目的が不明なのに、なんで迷宮が崩壊するかもしれないって話が正しいと思うわけ?」

私はハサミに問いかけた。


「アタシがステランに『もし探索者に見つかっても適当な理由を言っておいて』って頼んだこともあるんだけどね。それこそ『人には害だから回収シテオキマシタヨ』とか言っておけば角が立たないじゃん」

ハサミは言葉を継ぐ。


「でも、あいつはわざわざ『迷宮が崩壊する』なんて伝えてる。それって、迷宮を調べさせようと噂を広めて、探索者をたくさん誘い込もうとしているように聞こえない?」


 なるほど。


 ステランの目には、私たちが熟練の探索者に見えていた可能性もある。

あそこが迷宮の相当な深部だったとすれば、私がこの情報を探索者協会に流し、協会が調査に人を割くことを狙っているのかもしれない。


 仮にそうだとしても、やっぱり納得いかないことが多すぎる。


 私が顎に手を当てて考え込んでいると、ハサミがさらに声を落とした。


「そうだね。たとえばだけど、迷宮を広げようと思っても、コアがある奥の方……つまり、より深い場所へは広げられないんだよ。だから、その逆」


「ステランとコアはこの街との入り口側――街と迷宮の境目から、地上を『迷宮化』させようとしてるのかもね」


 司祭ちゃんが、たまらずといった様子で声を上げた。

「それって、どういうことですか?」


「さっき言ったじゃん。迷宮とこの街では、存在するための『理』が違うんだよ。だから、アタシはこの街に馴染みきった呪物を身にまとうことで、迷宮と街の境界で弾かれないようにしたわけ」


 ハサミは椅子の背もたれに深く体重を預け、他人事のように天井を見上げた。


「つまり、迷宮産の宝や採取物を、探索者にこの街へたっくさん運んでもらう。そうすれば、迷宮の理が街に染み込んで、次第に街にとって迷宮が異物じゃなくなっていくんだ。ステランやモンスターが自由に行き来できるようになるどころか、境界そのものが消えて、街のど真ん中にモンスターが湧くようになるかもね」


 なによ、それ……。


 呪物だけじゃない。

 お宝や採取物……迷宮から運び出されるものすべてが、この街を迷宮に変えるための侵食素材になっているというのか。


「でも、長い年月はかかると思うけどねー。相当な数の物を迷宮からこの街に出さないといけないと思うし。あ、でもこの街の外にまでバラまかれれば、もっと外にまで迷宮が広がるかもね」


 ハサミはどこまでも悪びれる様子もなく、淡々と言い放った。


 私たちの街が発展してきたのは、この迷宮の資源によるものだった。


 だが、その資源で街を潤せば潤すほど、迷宮化は着実に近づいていたのだ。


 すべては迷宮の手のひらの上だったということかしら。


 街にモンスターが溢れれば、商売どころではない。

人はいなくなるだろうし、そもそも命の危機だ。


 目指していた悠々自適のスローライフが、根底から崩れ去ろうとしていた。


「アンタ、ハサミと言ったわね。それを止める方法はないの? 今まで通り迷宮から資源を持ってきても、この街が侵食されない方法よ。それに、アンタだってせっかく自由に観光できるようになったんでしょ? このままだと街から人が消えて、おいしいご飯も食べられなくなるわよ」


 私が冷たく言い放つと、ハサミは「おいしいご飯がなくなる」という言葉に今日一番の衝撃を受けた様子で身を乗り出した。


「ええーっ!? そうなの!? そっかー……。うーん、一番いいのはコアを破壊することかな。そうすれば、迷宮はそれ以上広がらないし、何も生み出さなくなる。街の迷宮化も止まるよ。……資源もこれ以上、手に入らなくなるけどね」


 ハサミはそう答えた。


「それじゃあ意味ないじゃない。じゃあ、ステランを倒したらどうなの?」

私はハサミに聞いた。


「数体倒したところで意味ないよ。またコアから生み出されるだけ。多少の時間稼ぎにはなるかも、くらいかな」

ハサミはそう答える。


「じゃあ、どうしたらいいんですか!!」

司祭ちゃんがたまらず叫んだ。


「もう、大声出さないでよ。うるさいなー」


 ハサミは顔をしかめる。


「うるさいって何ですか!」


 司祭ちゃんがさらに声を荒らげている。


 彼女がここまで感情を露わにして取り乱すのも珍しい。

この街の存亡がかかっているのだから、無理もない話だとは思うけれど。


 ハサミは何かを思いついたように、ぽんと手を叩いた。

「あ! やっぱコアに行くしかないね。それでコアを無理やり人間にとって都合が良いように書き換えちゃえばいいんだよ。全てを満たすにはそれしかないね」


「書き換えるって、どうやるのよ?」

私は呆れ半分に聞いた。


「さあ? 誠心誠意、頼み込むとか??」


 なによ、それ。意味不明にもほどがある。

「……なら、アンタが頼み込みなさいよ」


「アタシは無理。ちなみにステランも無理。最深部の手前に見えない壁みたいなのがあってね。それが……そうだね、あそこにある聖布みたいな雰囲気だから、通れないんだ」


 ハサミはカウンターの奥にある聖布をひょいと指さし、さらに言葉を続けた。


「ちなみに、そのさらに手前はひどく淀んだ呪いが漂っているから、人間は無理だろうね。アタシは呪いだから通れるけど」


 つまり解決できるかどうかも分からない賭けのために、モンスターもいて、罠もあって、かつ呪いに汚染された瘴気地帯があって、さらに奥には聖域みたいな場所がある。


 ……うん、無理ね。仕方ない。


 早々に諦めた私は、これからの身の振り方を考えた。

ギリギリまでここで商売を続けて、頃合いを見て拠点を移そう。そう決めて、引越しの算段を立てようとした時だ。


 妙な視線を感じて顔を上げると、司祭ちゃんがこちらをじっと見つめていた。


「どうしたの司祭ちゃん。まあ、雑貨屋を続けながら、何か別の打開策でも浮かべばいいんだけど」


 私がそう言うと、彼女は唐突に当たり前のことを聞き返してきた。


「クシナさん、クシナさんは呪いの影響を受けませんよね?」


「ええ、そうね」


「もちろん、聖布にも触れますし、なんなら聖遺物の近くでも平気ですよね?」


「当たり前じゃない。何を今更そんなことを聞くの?」


 私は不思議に思って自分の掌を見つめながら、司祭ちゃんに問い返した。


「一度みんなと情報を共有する必要がありますけど、もしものときはクシナさんお願いできませんか?」


 えー、嘘でしょ。私が迷宮に行くの? 危険じゃない。罠だってあるのよ? モンスターはいいとして、それに罠だって……。

 いや、そうか。この眼鏡女に、今まで呪物を回収していた時みたいに転移させてもらえばいいのか。


「まったくやる気しないんだけど……」


 私がそう零すと、司祭ちゃんは深く頭を下げた。


「できるかどうかも分からないわよ」


「それでも、何もやらないよりは……。何もできない私が言うのもあれなんですけど、私はこの街が好きなんです。クシナさんやアニマさん、シエルさん、それにマーガレットさんたちがいるこの街が、大好きなんです」


「……」


 私ってこの街に来た時は、絶対こんなことに関わるような人じゃなかった気がする。情に(ほだ)された、というやつだろうか。


 自分が好きに雑貨屋をやって、それで生活できればいい。そんな私だったはずなのに。


 私は窓の外、夕暮れに染まり始めた街並みをぼんやりと眺め、一つ溜息をついた。


「わかったわ。でも、みんなと話し合ってからよ」


「クシナさんっ!! ありがとうございます!」


 司祭ちゃんは私の手を取って喜び、何度も感謝を伝えてくる。もうこうなったら、どうとでもなれってやつだ。


 迷宮のコアに頼み込むどころか、いっそのこと私のものにしてやって、『クシナ雑貨屋・迷宮店』を開いてやる。


 そう意気込んだ私だった。


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