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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第四章

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56 都合の悪いことは聞こえない

「それはね、アタシ自身が『呪い』そのものだからだよ」


 眼鏡女ことハサミは、事も無げにそう告げた。


 隣では司祭ちゃんが完全に絶句している。けれど、私にしてみれば「ふーん、そう」程度の話だ。

呪いのような存在が形を持って歩いていても、不思議な事じゃない。


「それで? あなたが呪いであることと、地上に出ること、そして呪物を回収することがどう繋がっているわけ?」


 私は驚きよりも話の理屈を優先し、淡々と続きを促した。


「あれ? 驚かないんだ?」


ハサミは意外そうな顔をしている。


「まあ、そういう存在もいるでしょ」

私の投げやりな返答に、司祭ちゃんがすかさず横から口を挟んだ。


「そういう存在、普通はいないですよ!」

彼女は信じられないものを見るような目で私を見ている。


 まあ、教会育ちの彼女からすれば、呪いの化身が茶をしばきに地上へ来るなんて、悪夢か何かの中だけの話なのだろう。


「うんうん。シエスタさんだっけ? そういう反応が普通だよね」

ハサミは可笑しそうに笑うと、話を続けた。


「アタシは迷宮の最深部にある、なんて言ったらいいんだろう……『本体』みたいなものから生まれた呪いでさ。イレギュラーみたいな存在なんだよね。だから迷宮に囚われてはいても、ステランみたいに都合よく振り回されるわけじゃなく、自由に動けるんだ」


「でもさ」と、ハサミは言葉を継ぐ。


「結局のところ、迷宮からは出られない。それじゃあ本当の自由じゃないじゃん? だからアタシは、いろいろ試行錯誤したわけ」


 彼女は今座っている椅子や、自分の実体のある手を確かめるように見つめながら、さらに続けた。


「どうやらこっちの世界と迷宮では、(ことわり)が違うみたいでね。迷宮で生まれた存在は『異分子』扱いされて、そのままじゃ地上には行けないみたいなんだ」


 私は、まあ理屈としてはあり得る話ではあるかと思った。


「ほら、でもアタシには足があるじゃん? だから、地上で長いこと存在していた『呪物』なら、それを身に着けることで異物扱いされなくなるんじゃないか、ってね」


「それで私のローブを着ていたわけか」


 私は納得した。確かに私のローブは、私が長年愛用し、完全にこの街の空気に馴染みきっていたものだ。


「そ。一番こっちの地上に馴染んでいるように感じたのが、このローブだったからね」


 ハサミはあっさりと答える。


「それで? あなたはこの都市で何をしたいの? ただ自由になりたかっただけじゃないでしょ」


 私は核心を突いた。横で司祭ちゃんも、固唾を呑んで次の言葉を待っている。


「それはね……」


 ハサミの返答次第では、効力があるかは不明だが聖布でぐるぐる巻きにするなどの対処が必要だ。


 私は司祭ちゃんに軽く視線で合図を送った。

 彼女は私の意図を察したのか、緊張した面持ちで小さく頷き返してきた。


「色んなところを見て回ったり、綺麗な風景を見たり、おいしいものを食べたりしたいからだよっ!」


 ……は?


 あまりに拍子抜けな理由に、私は耳を疑った。身構えていたのが、一気に馬鹿らしくなってくる。


「嘘でしょ?本当は別の目的があるんでしょ?」

私がそう聞くと、ハサミは心外だと言わんばかりに両手を広げて見せた。


「本当だって。そもそも何か良からぬことでも考えてたら、こんなに大人しく話してないよ」


 ハサミは眼鏡の奥の瞳をまっすぐにこちらへ向け、さらに言葉を続けた。


「迷宮でね、探索者が携帯食料を落としていったんだよ。それを食べてみたら、すっごくおいしくて。でも、他の探索者の話を聞いてたら『こんなのマズい、早く酒場でうまい飯にありつきたい』なんて言うじゃない? そんなの気になるじゃん。地上のご飯は一体どれだけおいしいんだってさ」


 迷宮のイレギュラーが地上を目指した動機が、まさかのグルメ探求だったなんて。


 横を見ると、司祭ちゃんも完全に目が点になって固まっている。


「まあ、お金がいるとは知らなかったけどね。今度迷宮からお金になりそうなものを持ってくるよ。宝石とか、どうかな?」


 ハサミが独り言のようにそう口ずさむのが聞こえた。迷宮の最深部から持ち込まれる宝石。それがどれほどの価値になるか……、私は内心でにやりとした。


「ふーん。まあ、話を聞く限り、害があるような存在ではなさそうね」


 私は宝石という単語にわずかばかり眉を動かし、先ほどまでの殺気を綺麗に霧散させた。


「えっ? 本当にそうですか? クシナさん、今明らかにお金に目がくらんでませんでした? 大丈夫ですか?」


 ……こういう時だけは、妙に勘が鋭いわね、司祭ちゃん。


 私はジト目を向けてくる彼女を無視した。


「大丈夫よ。ほら、いざとなったら聖遺物に縛り付けましょう」


「ちょっとー? なんか嫌な会話してる気がするんだけどー?」


 ハサミが何か言っているけれど、無視よ無視。そんなことより、今は大事なことがある。


「アンタ、迷宮を行き来できるようになったんでしょ。しばらくは私の家の一階にある空き部屋に匿ってあげる。その代わり、私から盗った『丸呑みちゃん』……これくらいのポーチで、何でも入る鞄みたいなやつを迷宮から取ってきなさい」


 それと、と私はさらに声を落とし、ハサミの耳元でごにょごにょと囁いた。


「ふんふん……なるほど。わかったよ。じゃあ、あとで迷宮に行ってくるよっ」


 ハサミが素直に答える。

隣では司祭ちゃんが、疑いのこもった眼差しでじーっと私を見ているけれど、これまた無視だ。


「じゃあ、迷宮が崩壊するってのはデマなのね?」

私はハサミに聞いた。


「うーん、デマではないかな」

ハサミはそう答える。


 これで一件落着かと思ったら、どうやらそうでもないらしい。


「さっき言ったけど、ステランとアタシの目的は別。アタシの目的はさっき言ったよね?」

ハサミは眼鏡の奥の瞳に真剣な色を宿し、話を続ける。


「ステランの目的はね……」


 ハサミの話はまだまだ長くなりそうだった。

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