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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第三章 呪物消失編

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50/61

50 やったね、新しい服が増えるよ



 クシナ雑貨店。

 カランコランと鐘の音が響き、また一人、客が扉を開けて入ってきた。


「いらっしゃい……」


 私は、少し元気のない声で応じる。


「これで頼むよ。いくらだい?」


「はいはい。40銀貨ね」


 私はそう言って銀貨を受け取り、品物を手渡した。

 ふとカウンター越しに店内を見渡すと、会計を待つ客がまだ五人ほど列を作っている。私はそれを見て小さくため息をつき、次の客へと視線を向けた。


「はい、これは合計1金貨ね、まいどありー」

私は受け取った金貨を手慣れた動作で手元の木箱へ放り込みながら、そう口にした。


 そう、クシナ雑貨店は繁盛していた。


カランコランと鐘の音が絶え間なく鳴り響き、扉が開くたびにまた別の客が店に足を踏み入れる。


いや、今のクシナ雑貨店は大繁盛していた。


 迷宮に丸呑みちゃんを奪われたままだし、お店が繁盛するのは商売人として嬉しいのは確かなのだけれど……どうにも心境は複雑だ。

一体どうして、こんな極端な状況になってしまったのか。


その発端となった、あの伯爵邸での出来事へと記憶をさかのぼらせた。




「それにしても、愛用のローブまで無くなってしまったわ」


 あれがないと、なんだか落ち着かない。私が手持ち無沙汰に自分の肩をさすりながら皆に漏らすと、アニマちゃんがいかにも「何か企んでいます」と言わんばかりのニヤけた顔でこちらを見てきた。


「え? なによ?」


「クシナっちさ、素材は良いのにさー、色々と勿体ないよね」


 アニマちゃんが、分かったような分からないようなことを言ってくる。


「どういうことよ?」


「はーいはーい! 私はここに『クシナっちファッションショー』を開催することを提案します!」


 アニマちゃんが勢いよく立ち上がってそう叫ぶと、司祭ちゃんやシエルちゃん、さらにはマーガレットさんたちまで「面白そうね」と、なぜか参加する気満々だった。


「は?」


 私は、思わず声を漏らした。


「だってさ、クシナっち。いつも薄汚れたような色のローブばっかじゃん。この機に、いろいろ着てみようよ」


 ……え? 私の愛用のローブ、周りからはそんな風に思われていたの?

あまりの衝撃に、私が絶句していると、追い打ちをかけるようにマーガレットさんが口を開いた。


「いいわね、面白そう。……クシナさん。あなた今回、ものすごく皆に心配をかけたわよね? そんな中で、まさか断ったりはしないわよね?」


 マーガレットさんは、逃げ場のない完璧な微笑みを浮かべ、謎の圧力でこちらを凝視してくる。


 実際、断ろうと思えば断れたはずだった。けれど、まあそれくらいならいいか……。そんな軽い気持ちで承諾したのが大きな間違いだったと気づくのは、もう少し後のことだ。


「わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」


「ふふふ、面白そうですね」

司祭ちゃんも、どこかワクワクした様子で参加を表明する。


「一流のセンスってやつを見せてあげますわ」

ドリルちゃんも、自慢の髪を指先でくるりと弄りながら参戦するようだ。


「それじゃあ、私も参加ですね」

シエルちゃんも、穏やかな笑顔で仲間入りをした。


「クシナ様を一番輝かせられるのは、私です」

ベリルちゃんまでもが、一歩前に出て静かに闘志を燃やしている。


「それで? 判定はどうするの?」

マーガレットさんは、扇子を口元に当ててアニマちゃんに尋ねた。


「ニシシ、いい案があるよ。クシナっち、迷宮にお金を取られて心細いみたいだしさ。事前に告知をして、一日のクシナ雑貨店の売上で勝負しよう!」


「は?」

全く意味が分からず聞き返すと、アニマちゃんは呆れたように説明を付け足した。


「だからー、クシナっちを着せ替え人形にして、私たちが後ろからプロデュースするの。お客さんはたくさん入ってくるし、クシナっちは稼げる。これぞ『ウィンウィン』ってやつだよ」


「え? そんな、服を変えたくらいでお客が来るわけないでしょ」


 私が疑いの眼差しを向けると、アニマちゃんは「分かってないなー」とニヤニヤしながら私の肩を叩いた。


「見た目が大事ってこと! まあ、実際に試してみれば分かるって。それに、絶対面白いから!」


 ……うーん、絶対に最後の「面白そうだから」っていうのが本音な気がするわね。


 でも、どうせ大して客なんて来ないでしょうし。いいわ、そこまで言うならやってやるわよ。私は半ば投げやりな気持ちで、その提案に乗ることにした。



「はい、20銀貨よ。まいどありー」


 私は淡々と品物を差し出しながら、もはや無表情を通り越して無になりつつあった。

本当に、笑っちゃうくらい客が来るわね。アニマちゃんの言った通りになったのが、少し……いえ、猛烈に(しゃく)に障るわ。


「これは30銀貨。そっちを追加するなら、合計で50銀貨ね」


 私が次々と会計を捌いている後ろで、ベリルちゃんが頬を赤く上気させ、うっとりとした様子で私を見つめていた。

 今日の衣装は、ベリルちゃんのプロデュースだ。


 曰く、テーマは『地上に舞い降りた天使神クシナさま』。


 ……全く、口にするだけで頭が痛くなるようなテーマだわ。私は内心で深いため息をつく。


「雲のように幾重にも重なった淡い水色と白いチュールのワンピース。背中には光を透かすほど繊細な羽が対になって生えており、スカートの裾は、薄いフリルが幾層にも重なり、まるで足元にだけ小さな雲がわき上がっているかのよう。わずかな風を捉えてはふわふわと軽やかに波打ち、重力を感じさせない浮遊感を醸し出している……」


 「足元には清潔感のある白い靴下と、艶やかなリボン付きの黒いパンプス。天使としての神々しさに、少女らしい愛らしさと端正なコントラストを刻み込んでいる……」


 ……あ、今のは全部、私の後ろでうっとりと手を組んでいるベリルちゃんの解説よ。断っておくけれど、私が自分で言っているわけじゃないから!


 髪型も徹底的にいじられ、高い位置で結んだハーフツインテールにさせられていた。ゆるく巻かれた毛先は雲のようにふわふわと肩に掛かり、頭にはレースとフリルをあしらったヘッドドレスのようなアクセサリーが、二つの結び目の間に橋を架けるように載せられている。


「はい、合計で80銀貨ね……。まいどありー……」


 私はフリフリの袖が邪魔にならないよう慎重に商品を手渡し、次の客へと視線を向けた。


 いや、繁盛しているのは嬉しいんだけど……。


(これが、あと五日も続くなんて……)


 私は鏡に映った自分の神々しい姿を視界から外しながら、ひたすら深い憂鬱(ゆううつ)に沈むのだった。


 まったく、迷宮の崩壊だなんて不穏な話も、よく分からないことだらけだわ。それに、これから五日間も続くこの見世物のような生活のことを考えると……。


 私はズキズキと痛み始めたこめかみを指先で軽く押さえ、本日何度目か分からない溜息を吐いた。


 本当、今回の騒動はどこをどう切り取っても、全然平和じゃないわね……。



三章お付き合いいただきありがとうございました。

正直、何も解決してない感ありますが(笑)


引き続き四章も読んでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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