49 クシナちゃん招待される5
私たちが辿り着いた、というより強制的に転移させられた場所は、先ほどと全く同じ場所だった。
呪物が乱雑に積み上げられた、あの不気味な保管庫のような空間。 奥にある扉は、私が先ほど開けた時のまま中途半端に開いている。景色も、空気も、さっきいた時と何ら変わりはないようだった。
「いたたた……。もう、なんなのさ、一体……」
アニマちゃんが打ったお尻をさすりながら、顔をしかめて立ち上がる。
「痛いです……。目が回って、気持ち悪いです……」
司祭ちゃんも床にへたり込んだまま、ふらふらと頭を振っていた。
そんな二人を余所に、私はスッと腕を組み、仁王立ちのまま涼しい顔であたりを見渡す。
だって、私はこれが二回目だもの。一度経験していれば、転移の衝撃への身構え方くらい心得たものだわ。
「ここが……?」
司祭ちゃんは青ざめた顔で周囲を見渡し、震える声でそう呟いた。
「ええ、さっき説明した呪物保管庫のような場所よ」
私は腕を組んだまま冷静に答える。
「うわー、呪物がいっぱい! これ、いくつか持って帰ってもバレないよね?」
対照的に、アニマちゃんは目を輝かせながら、怪しく光る剣や壺に手を伸ばそうとする。
「やめときなさいよ。アニマちゃんのせいで迷宮が消滅しちゃったらどうするのよ」
私は慌てて彼女の手を制した。 絶対、アニマちゃんの場合のいくつかは、持てるだけ全部を意味しているに違いない。
私たちがそんなふうに騒いでいると、開いたままの扉の向こう、通路の方からひょっこりとあの生き物が姿を現した。
「アヤヤ、何デ人間がいるのデス? ソレニ、先ほどの人間もいるじゃないデスカ」
ステランは驚いたように大きな目をしばたたかせ、指先で私たちを順番に指差した。
「そんなの知らないわよ。勝手に飛ばされたのはこっちなんだから」
私が投げやりに肩をすくめてそう答えると、ステランはこれ以上ないほど深いため息をつき、頭を抱えた。
「全ク、仕事の邪魔をシナイでホシイデス」
彼は独り言のようにそう吐き捨てると、私たちが反論する隙も与えず、流れるような動作で片手を天へと突き上げた。
「即刻、退去を命じマス!」
(あ、またこの感覚――!)
足元から溢れ出すまばゆい光に、私は咄嗟にアニマちゃんと司祭ちゃんの手を握りしめた。一回目と同じ、ふわふわとした奇妙な浮遊感が私たちを包み込む。 そのまま視界が白く染まり、私たちはまたしても光の渦の中へと消えていった。
「「みなさん!」」
視界が開けると、そこは先ほどの洞窟ではなく、つい先ほどまでいた伯爵邸の応接室だった。
私たちはソファや絨毯の上に重なり合うようにして、ドサリと着地した。案外、あのステランとかいう生き物も気が利くじゃない。……なんて一瞬思ったけれど、いや、それなら一回目の時も最初からここに返してほしかったわ。
まったく、こんな無理やりな転移を何度も繰り返されたら、たまったものじゃないわね。私は乱れたローブを整えようとして、ふと肌寒さを感じた。
「それにしても……なんだか、急に冷え込んできたわね」
私が自分の肩をさすりながら何気なく呟くと、隣で立ち上がったアニマちゃんが不思議そうな顔をして私を見た。
「え? クシナっち、そりゃそうだよ。だって……クシナっち、寝間着だもん」
アニマちゃんの呆れたような指摘に、私は思考が真っ白になり、自分の足元へと視線を落とした。
は?
私は慌てて自分の身の回りを確認した。 さっきまで体を包んでいたはずのローブがない!
そして、いつも傍らにいた丸呑みちゃんもない!!
どうやら先ほどの転移の際、私が身に着けていた呪物だけが、あのごみ溜め……いえ、保管庫へと回収されてしまったらしい。
「でも、これでクシナさん、もう強制的に連れて行かれることはなくなるんじゃないですか?」
司祭ちゃんがひょこっと顔を覗かせて、慰めるようにそう言った。 確かに、理屈ではその通りだ。原因となっていた呪物が手元にないのだから、もう夜中に拉致される心配はない。……けれど!
私の丸呑みちゃんの中には、これまでの商売で貯めた大量の金貨や白金貨、回復薬に、売り物の雑貨品や消耗品が、これでもかというほど詰め込んであるのだ。あの中に私の大部分の財産が入っていると言っても過言ではない。
「……ふざけないでよ」
絶対、迷宮なんて許さないわ。私の大事な資産を勝手に没収するなんて、あの、のっぺらどろぼーも覚えておきなさいよ。
「絶対に……絶対に取り戻してやるんだから!」
私は思い切り拳を握りしめ、震える声でそう固く誓った。
第三章 『呪物回収編』 おしまい
――。
―――。
「全ク……。呪物ダケを回収スルって、言ってマシタヨネ?」
ステランはあきれたように、目の前の人物へと言葉を投げた。
「そうだよ。アタシは天才だからねっ」
その人物は事もなげに、自信に満ちた声で即答する。
「人間モ一緒二転移シテきましたヨ。シカモ、二回モ」
「そんなわけないって。天才は失敗しないからね。……そいつが人間じゃないんだよ、きっと」
自分は悪くないと言いたげに、その天才は幼い声でそう話す。
「トリアエズ、ちゃんと早急二修正しといてクダサイヨ……」
ステランは溜息をつき、これ以上の追及を諦める。
「うるさいなー。それより、その人間にはちゃんとらしい説明をしたんだよね?」
天才と呼ばれた少女は、振り向きもせずにステランへ問いかける。
「エエ、適当ニ呪物回収ノ理由ヲ答エテおきましたヨ」
ステランは肩をすくめて答える。
「ふーん。ならいいや。これで大手を振って呪物回収ができるね。さあステラン、はやく持ち場に戻って仕事してきてよ」
「全ク……、ステラン使いガひどいデスネ」
ステランは小さくため息をつき、その天才少女の背中に向けてそうぼやいた。
次話エピローグはさみます。




