46 クシナちゃん招待される2
「ふー」
喉も潤ったことだし、本格的にここがどこなのかを調べなくてはいけない。
私は立ち上がり、ローブの裾を軽く払ってから、あらためて周囲を見回した。
床には、相変わらずいろいろな呪物が乱雑に置かれている。
最近みんなが噂していた、呪物がなくなるという話。もしかして、それらはここに集められているのだろうか。
私はゆっくりと歩きながら考える。
そもそも物理的に誰かに運ばれたのだとしたら、いくらなんでも途中で気づいて起きるはずなのだし。
「結局のとこ、よくわからないのよね」
私はそう独り言をこぼしながら、ゆっくりとした足取りでまわりの様子を眺めた。
すると、部屋の隅の方にひとつの扉があるのが目に入った。
私はその扉の前まで歩み寄ると、そっと手をかけて軽く押してみる。
「うん、鍵はかかってなさそうね」
指先に伝わる手応えで、施錠されていないことを確信した。私はわずかに開いた扉の隙間から向こう側をうかがいつつ、そのまま中へと足を踏み入れることにした。
扉を開けると、そこには通路のような空間がまっすぐ伸びていた。
先ほどの部屋よりはいくぶん明るく、壁にはランタンのような明かりが一定の間隔で灯っている。
床も壁も、自然にできたものとは思えないほど平らで、明らかに人の手で作られたもののようだった。私は壁の質感にそっと指先で触れながら、その人工的な造りを確認する。
「どこかの建物の中なのかしら」
私はそう考え、ゆっくりと注意深く周りを見ながら歩みを進めた。自分の足音が静かな通路に響くのを耳にしながら、通路の端までたどり着き、そっと角を曲がる。
「え?」
角を曲がった先で目に飛び込んできた光景に、私は思わず足を止め、息を呑んだ。
視線の先には、二足歩行ではあるものの、背丈は子供ほどしかない、髪はないし、顔はのっぺらぼうみたいで、目と口は付いているように見えるが、どう見ても人間ではない生き物がいた。
そいつは壁を見つめたまま、なにやらぶつぶつと独り言をこぼしている。
「まったく、誰が維持してると思ってるんデスカ」
私は対話をしてみるべきか迷い、一度壁の陰に身を潜めて様子をうかがった。けれど、ここがどこなのかを知るためには、こいつに聞くのが一番早そうだ。
私は意を決して角から一歩踏み出し、相手を刺激しないように控えめに声をかけた。
「ちょっと、いいかしら?」
私の言葉を聞いて、その謎の生き物は首をかしげながら、ゆっくりとこちらを振り返った。
「何で人間がここにいるのデスカ」
「それは私も聞きたいわよ」
思わずつっこみながら、私はその生き物の方へ一歩詰め寄った。
「そもそも、ここどこなのよ? 気づいたらここにいたのよ。それに、あなたは誰なの?」
立て続けに質問を投げかける私に対し、その生き物は興味がなさそうに視線を壁へと戻した。
「ワタシは忙しいのデス。ココは迷宮、ワタシはステラン。アナタがなぜココにいたかは知りません」
え? ここ迷宮なの?
どうして呪物が迷宮に集められているの。いや、私まで一緒に集められちゃっているのだけれど。
そもそも迷宮だとしたら、ここは一体何階層なのよ。私は一階層の、あの草原みたいな場所しか知らないわよ。
私は信じられないといった様子で頭を振ると、ステランを指さしてまくしたてた。
「いい? 私はあの呪物が集まっている場所に、無理やり転移か何かで連れてこられたの。あなたが責任を持って、地上の迷宮都市まで送り届けるのが義務でしょ」
無茶苦茶な理屈だとは分かっているけれど、言うだけならタダだ。私はさらに一歩詰め寄り、謎の生物に強気に言い放った。
「アナタの言ってることは意味不明デス。ワタシがアナタを地上へ返す義務はアリマセン。呪物を集めたのは私ではないデスシ、それに呪物を迷宮が回収しなくてはいけない原因を作ったのは、アナタ方人間デスヨ」
ステランは作業していた手を止め、めんどくさそうにこちらを振り返った。
聞きたいこと……というより、分からないことがまた増えてしまったわね。
「迷宮が呪物を回収しないといけないって、どういうことよ? それに、その原因が人間だっていうのもさっぱり分からないわ」
私は腕を組んで、相手の反応をうかがいながらさらに問いかけた。
「ハー……。イイデショウ。ソレを教えたら、帰ってクダサイネ、ワタシは忙しいノデ」
ステランは深く肩を落として、わざとらしいほど盛大なため息をついた。 目の前でこれ見よがしにそんな態度を取られても、こっちだって困るのだけれど。




