44 クシナ捜索隊
私はすぐさま部屋を飛び出し、外に控えていたアエラさんに駆け寄った。
「クシナっち知らない? 部屋にいないんだよね」
アエラさんは困ったように眉を下げて、不思議そうに首をかしげた。
「昨日の夜、お休みになられてからは、お部屋から出ておられないはずですが……」
アエラさんは、よくわからないといった様子でそう答えてくれる。
私は内心焦っていた。
昨日はベッドの横に、丸呑みちゃんやローブが置いてあったはずだ。
クシナっちは寝間着を着ていたし、わざわざ着替えて屋敷の外に出るなんて、どう考えてもおかしい。
「ちょっと、他のところにいないか探してくるよ!」
私はアエラさんにそう伝えると、返事も待たずに背を向けて、廊下を思いきり駆け出した。
私はひとまず、シエスタやシエラが何か知らないか、それぞれの部屋に駆け込んで聞き回った。
けれど、二人とも眠そうな目をこすりながら知らないと首を振るばかりだった。
どうしたものかと私が廊下で立ち往生していると、そこへマーガレットさんがやってきた。
「アエラから聞きましたわ。門兵に確認したけれど、昨日の夜から早朝にかけて、門から外へ出た人は誰もいないそうよ」
マーガレットさんは厳しい表情で私にそう告げた。
「一応ここは伯爵邸だもの。出入りは厳重に管理しているから、間違いないはずよ」
「そうですか。ありがとうございます」
私は短く頭を下げて、マーガレットさんにお礼を言った。 マーガレットさんは一度深くうなずくと、頼もしくこう続けてくれた。
「ベリルやコーデリアにも確認させるわ。まずは応接室へ集まって、みんなで話し合いましょう」
その言葉に、私は胸のざわつきを抑えながら、彼女の後に続くことにした。
応接室には、私たち三人とマーガレットさん、ベリルさん、コーデリアさんが集まった。 室内に重苦しい空気が流れる中、私はあらためて状況を確認することにした。
「昨日私たちが別れたあと、私が今朝クシナっちの部屋に入るまでの間にいなくなった。部屋は荒らされた形跡もないし、屋敷の外には誰も出て行っていない。これは間違いないんだよね」
私は椅子から身を乗り出すようにして、さらに言葉を続けた。
「クシナっち愛用の丸呑みちゃんと、あの呪いのローブも一緒に消えていた。……となると、理由は一つしか思い浮かばない」
私が何らかの確信を抱いていると、隣に座っていた司祭が、不安そうに口を開いた。
「もしかして……街で起こっていた『呪物が消える事件』に、クシナさんも巻き込まれた……とか」
私も同じ意見だ。犯人がいるのか、それとも呪いそのものの影響なのか。正体はわからないけれど、クシナっちが自分の意思でいなくなったわけじゃないことだけは確かだと思う。
「問題は、どこへ消えちゃったか……よね?」
マーガレットさんが、少し首をかしげながらそう話す。
「そうですね。呪物が消えていった場所に、クシナさんもいそうですけど……」
シエルが真面目な顔でそう反応する。
それにしても、私の自慢の呪物センサーも、さすがに遠すぎるみたいでピクリとも反応しない。
ここで急に、三姉妹の次女であるベリルが声を上げた。 彼女は窓の外をビシッと指さし、どこか遠くを見つめるような目で言い放った。
「……見えます。クシナ様は生きています! 神は言っています、私はここにいると!」
あまりに唐突な言葉に、マーガレットさんが困ったように眉をひそめた。
「……ベリルちゃん、さすがにこの状況で冗談は言っていられないわよ」
「いや、マーガレットさん、待って」
私は片手を上げて、マーガレットさんの言葉を遮った。
「私は信じるよ、ベリルさん。具体的にどこから?」
私の呪物センサーだって、なんの根拠もないものだ。ましてや他に情報も無いのだから、可能性があるならそれに賭けてみる価値はある。
「……迷宮……。迷宮の中から、聖なる光が感じられます」
ベリルさんは窓の外を指さしたまま、そう言った。
「「「迷宮!?」」」
私たちの声が、見事なまでに綺麗にハモった。 まさか、屋敷の中から消えたクシナっちが迷宮にいるなんて、普通は考えないものだ。
よし。ベリルさんのクシナ様センサー?ってやつを、信じてみることにしよう。
「わかった。私はさっそく準備をして、迷宮に入ってくるよ」
「わかったわ。私はここで、他に情報がないか詳しく調べてみる」
マーガレットさんは、力強くうなずきながらそう言った。
「わかりました。私も協会に戻って、緊急探索依頼を出します」
シエルもそう答えると、手早く荷物をまとめて、急いで帰り支度を始めた。
「待ちなさい!」
私たちが急いで屋敷を去ろうとしたとき、コーデリアさんが凛とした声を上げた。
「まずシエルさん、探索依頼の報酬はこちらで出しますわ! そしてアニマさん、必要な物資や回復薬、装備などの費用もすべてこちらで負担します。……いいですわね、マーガレット姉さま?」
コーデリアは人差し指を立てて、テキパキと支援の内容を口にした。
「ええ、いいわよ」
マーガレットさんは、優しく微笑んでうなずいてくれた。
「助かります!」「ありがとね!」
私とシエルが三姉妹に向けて、短く頭を下げた。
費用の心配がなくなったのは、本当にありがたい。あとは、一刻も早く必要なものを揃えて迷宮へ向かうだけだ。
シエスタさんが、「私もこう見えて司祭です」と言って、静かに祈りの言葉を唱え始めた。
光が溢れたりするわけじゃないけれど、彼女の真剣な横顔を見ていると、不思議となんか力が湧いてくる気がした。
「アニマさん……どうか、神の加護があなたを守ってくださいますように。迷宮の闇の中でも、光を見失わないでください。…………私にできるのはこれだけですけれど、どうか無事で……クシナさんと一緒に帰ってきてください」
「うん、まっかせておいて!」
私は力強く頷いた。
今度こそ私は、背中越しにみんなの視線を感じながら、勢いよく屋敷を飛び出した。
アニマが嵐のように去っていったあと、屋敷には一瞬の静寂が訪れた。
「それでは、私も探索者協会に戻ります!」
「私も、まずはクシナさんの家を見て帰ってないかを確認して、街で情報がないか聞きまわってきますね」
シエスタもシエルの背中を追うようにして、すぐさま後に続く。
二人はそのまま、駆け出すようにして屋敷を後にした。
「まったく、クシナさん……人騒がせですこと……」
コーデリアが眉をひそめて、独り言のように呟いた。
「さあ、私たちも動くわよ。行くわよ」
マーガレットが鋭く声をかける。三姉妹もまた、それぞれの持ち場へと向かうため、すぐさまその場をあとにした。




