40 それぞれの呪物事情
私たちは運ばれてきた料理を心ゆくまで楽しんだ。
どれもこれも、頬が落ちそうなほど美味しいわね。そんな中、ふとアニマちゃんが声をかけてきた。
「ねえねえ、料理で思い出したんだけど、聞いてよクシナっちー」
「ん? なにかしら?」
私は美味しいソースを味わいながら、手を休めずに返答した。
「いやさー、あの包丁どっかいっちゃったんだよねー。もう料理はこりごりだから使う気はないんだけど、なんでだろー」
あの包丁――。司教の呪結晶を砕いた、切った分だけ料理をしないと不幸になるという、あの呪いの包丁のことだ。
あんな危ないものをなくすなんて、本当にお気楽なものだわ。
「さぁ? 知らないわ。どこかに置いてきたんじゃないの?」
私は呆れながらも、アニマちゃんに釘を刺す。
「やめなさいよ、ちゃんと管理しなさい。第二、第三の被害者なんて、私はもう見たくないわ」
私はアニマちゃんにそう告げた。 まったく、これ以上面倒なことに巻き込まれるのはごめんだものね。
「うぇ?! いやいや、たぶん家のどこかにはあると思うんだよねー。私の家かクシナっちの家以外では使ってないもん」
アニマちゃんは、どこか他人事のように私にそう告げた。
もしかして、私の家にある可能性があるのかしら。 あんな厄介なものが自分の家にあるなんて、想像したくもないわね。帰ったらすぐにでも確認しなきゃだわ。
私とアニマちゃんの会話を聞いていた司祭ちゃんが、心配そうに話に加わってきた。
「そういえば、教会でも変なことが起きているんです。聖遺物の周りに置いてあった、浄化の途中だった呪物がいくつか消えてしまって……。泥棒とかではないと思うのですが、治安部隊に調査をお願いしても何もつかめないみたいなんです」
「へえー、なるほどね。不思議なこともあるものだわ」
司祭ちゃんに相槌を打ちながらも、私はぎろりとアニマちゃんの方を見た。 あんな呪いの包丁をどこかにやってしまうような子だもの、真っ先に疑ってしまうのは仕方のないことよね。
アニマちゃんは私と目が合うと、首を左右にぶんぶんと振って、自分じゃないと必死に否定していた。
そんなに激しく振らなくてもいいのに、なんだか余計に怪しく見えちゃうわよね。
私たちの会話を聞いていたマーガレットが、ここで話に入ってきた。
「シエスタさん、今のところ何か痕跡を見つけたとか、そういった報告は治安部隊からも上がってきていないわ。何か分かったらすぐに私から連絡するから、安心して待っていてちょうだいね」
マーガレットは、不安そうな司祭ちゃんを気遣うようにそう告げる。さすが領主の長女だけあって、こういう時の振る舞いはとても頼りになるわよね。
「はい、お願いします」
司祭ちゃんも、彼女の言葉に少しホッとした様子で答える。
今度は、看板受付嬢ことシエルちゃんが会話に加わった。
「協会にも呪物の持ち込みはないですね。前はたまにあって、クシナさんにお願いしていたんですが……」
そう言われてみれば、最近は協会から呼び出されることも少なくなっている気がするわね。
「そういえば、出張依頼を受けていないわね」
私はこれまでの依頼を思い返しながらそう答えた。
「協会としてはそれでいいのですが、何か不気味ですよね」
シエルちゃんは少し不安そうにそう続けた。
確かに、あちこちで呪物が消えたり、急に持ち込みがなくなったりするのは、嵐の前の静けさみたいで少し不気味だわ。
「まあ、今考えても仕方ないわ。料理を楽しみましょうよ」
私はそう答えて、再び手元の豪華なお皿に向き合った。
何かあるのかもしれないし、何もないのかもしれないわね。 けれど、まだ起きてもいないことを心配して、目の前のご馳走を台無しにするなんて、私にはできないわ。
私は余計な考えを頭の隅に追いやって、料理を楽しむことにした。




