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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第三章 呪物消失編

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37 お披露目会

ついに、この時がやってきた。


 耳を(つんざ)くような轟音が鳴り響く長い工事期間を乗り越え、

また時には重い荷物の運搬に四苦八苦しながら頑張った日々。……まあ、実際に汗を流して働いたのは、主にアニマちゃんだったけれど。


「丸呑みちゃん」は、こういう時にほとんど役に立たない。容量ほぼ無制限を謳ってはいるものの、結局は口に入る程度のサイズの物しか収納できないのだ。キングサイズのベッドのような大型家具は、物理的にあの口を通り抜けられない。


 だが、そんな苦労も今日で終わりだ。ついに、ついに私はあの騒々しい毎日から解放されたのだ。


 扉が開き、鈴の音が店内に響き渡った。


「ごきげんよう、失礼いたしますわ」 「失礼します」


 姿を現したのは、見事な縦ロール——いわゆるドリル髪が特徴のコーデリアと、そのメイドのリズだった。 ちょうどいい。新しく生まれ変わった私の店を、この二人にお披露目してやろうではないか。


「いらっしゃい。ちょうどいいところに来たわね」


 私はカウンターに座ったまま、自信満々に両手を広げ二人を迎え入れた。


「何がちょうどいいんですの?」


 ドリル髪を揺らしながら、コーデリアが怪訝そうに尋ねてきた。


「見て、分からないかしら?」


 私は得意げに、新しくなった店内に視線を巡らせた。以前の窮屈な面影はなく、空間には十分な余裕が生まれている。


「はあ。まあ、お店が広くなったことは外から見て知っていましたわ」

「お嬢様。そういう時は、たとえ知っていても驚いて差し上げるべきですよ」


 リズから冷静な指摘が飛ぶ。主人の配慮のなさを淡々と窘めるのは、彼女のいつもの役目のようだ。


「別に、この方にお世辞を言う必要はないと思いますわ」


 私だって、少しは驚きのリアクションという名の「お膳立て」をされて喜びたいのだが。 内心でそう毒づいたものの、彼女たちの冷淡な反応は無視することにした。私はそのまま、一方的に説明を始めた。


「見て見て! まずはこの商品棚と陳列棚。スペースがしっかり確保されたおかげで、以前よりずっと多くの商品を並べられるようになったのよ。それに通路も広くなったわ。これでお客さん同士が楽にすれ違えるはずよ。あとね……」


 私は止まらなかった。新しくなった店内に興奮し、身振り手振りを交えて次々と自慢のポイントを挙げていく。


「これ、まだ続けるんですの? 私たちは用件があって来ましたのに」


 コーデリアが呆れたようにため息をつく。だが、隣に控えるリズがそれを静かにたしなめた。


「お嬢様。せっかくですから、もう少しお話を聞いてからにしましょう」


「倉庫も広くなったのよ! それに客間も新設したし……」


 私の独壇場(どくだんじょう)が終わる気配は、一向になかった。


「ああ、すごいすごい。私の家よりも素晴らしいんじゃないかしら」


 私の独壇場に耐えかねたのか、コーデリアが唐突に、投げやりな棒読みで褒めちぎり始めた。


「そうかしら? さすがにそこまでではない気もするけれど、やっぱり嬉しいわね」


 私は上機嫌で胸を張った。自分の努力や功績を認められるのは、いつだって悪い気はしないものだ。


「……なんでこの方は、こういう事だけはすぐに反応できるのかしら」


 コーデリアは半ば呆れたように、隣に控えるリズへ視線を向けた。どうやら私の「自分への称賛に対する敏感さ」に、心底辟易(へきえき)しているらしい。


「上機嫌になったところで、わたくしの話を聞いてほしいんですの」


 コーデリアが手を口元に当てて、そう切り出した。


「いいわよ。何かしら」


 私はカウンター越しに彼女を見つめ、先を促した。


「実は最近、呪物の噂を全く聞きませんの。ねえ、リズ?」

「そうですね、お嬢様。教会への持ち込みも激減していると聞き及んでおります」


 リズの補足を聞いて、私はふとのアニマちゃんとの会話を思い出した。そういえば、あのアニマちゃんも同じようなことを口にしていた。呪物マニアと教会関係者、双方が同じ違和感を抱いているとなると、単なる偶然ではなさそうだ。


「ふーん、そうなのね。でもそれって良いことでしょう? 確かあなた、高らかに『呪物撲滅』なんて宣言していたじゃない」


 私はドリルちゃんに問いかけた。


「そうなんですけれど、何か違和感というか、不安というか……とにかく、釈然としませんの」


 コーデリアは眉をひそめ、言葉を選びながら続けた。その表情はいつもの自信に満ちたものとは違い、どこか落ち着きがない。


「へえ、そうなの」


 私は素っ気なく答えたが、内心では少しだけ思考を巡らせた。アニマ、司祭、そしてコーデリア。立場も感覚も違う面々が揃って同じことを口にするのは、単なる偶然では片付けられない気がする。


「なにか、クシナさんは変だと思いませんこと?」


 真っ直ぐに問いかけられ、私は腕を組んだ。


「うーん、変ねえ……」


 私は一度、奥にある以前よりも広くなった呪物置き場兼倉庫へと向かった。客観的な情報として、自分の手元にある呪物たちの様子を確認してみることにしたのだ。


 倉庫に乱雑に置かれた呪物たちを一つ一つ鑑定してみたが、これといって変わった様子は感じられなかった。 呪いの効果が消失したわけでもないし、在庫が勝手に減ったという形跡も――多分だが――なさそうだ。

私のローブや丸呑みちゃんに宿る呪いも、相変わらず健在である。


 店に戻った私は、待ち構えていたコーデリアに告げた。


「特に、何も分からないわね」


 鑑定の結果得られた「異常なし」という事実をそのまま伝えた。だが、言われてみれば最近、呪物の鑑定を依頼しに来る客がめっきり減っているのは、紛れもない事実だった。


「クシナっち、いるー?」


 いつもの明るい声とともに、アニマが勢いよく扉を開けて入ってきた。


「ええ、接客中よ」


 私はカウンター越しに短く答えた。入ってきたアニマの視線の先には、先ほどから話し込んでいたコーデリアとリズがいる。


「あら、初めまして。わたくし、伯爵家のコーデリアと申します。よろしくお願いいたしますわ」


 コーデリアが優雅に会釈し、傍らに控えるメイドを促した。


「こちらはメイドのリズです」

「こんにちは。コーデリアお嬢様のメイドをしております、リズです。よろしくお願いします」


 リズは一歩前に出て、淀みのない動作で深く頭を下げた。


「あ、こんにちは。アニマっていいます。よろしくね」


 アニマも人懐っこい笑みを浮かべて手を振り返す。 どうやら三人は初対面のようで、互いに物珍しそうに視線を交わしながら挨拶を交わしていた。


「アニマさん、あなたの噂聞いてますわ、凄腕の迷宮探索者だとか」

コーデリアはアニマに話かけている。


「それほどでもないよー、でもでも迷宮踏破目指しているからね」


 二人が言葉を交わしている間に、リズがこちらに歩み寄ってきた。


「呪物の件、よろしくお願いいたしますね」

「ええ、わかったわ」


 リズの念押しに短く答えると、彼女はコーデリアに向き直った。


「お嬢様、そろそろお時間です」

「もうですの? 分かりましたわ。……それではクシナさん、アニマさん、ごきげんよう」


 コーデリアが踵を返し、二人が店を出て行こうとしたその時、私はある重要なことに気がついた。


「ちょっと待って、ドリルちゃん! 大事なことを言うのを忘れていたわ!」


 私が呼び止めると、二人は足を止めてこちらを振り返った。


「どうしたんですの? 何か、呪物の件で思い当たることでもありました?」


 コーデリアは期待に満ちた表情で私を見つめている。だが、私が口にしようとしているのは、決して彼女が期待しているような不穏な噂の話ではなかった。


「今度、ドリルちゃんのところに泊まりに行きたいのよ。あのお風呂が素敵でね。……友達と一緒に」


 私がそう告げた瞬間、コーデリアは心底ガッカリしたような、なんとも言えない表情を浮かべた。


「……別に構いませんわ。事前に教えていただければ、数人程度なら用意させますわ。……まったく、期待したわたくしがバカでしたわね」


 彼女は吐き捨てるようにそう言い残すと、今度こそ背を向けて店を去っていった。 二人の姿が見えなくなった後、一部始終を見ていたアニマがニヤニヤしながらこちらを覗き込んできた。


「バカだってさ」


 アニマは我慢しきれないといった様子で、声を上げて笑い出した。


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