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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第二章 聖遺物編

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32 伯爵公認クシナ雑貨店

 あの後、伯爵はすぐに動いた。

大聖堂と中央へ、これでもかというほど辛辣な抗議文を送りつけた。おかげで教会側も非を認めざるを得なくなって、莫大な謝罪金が伯爵邸に転がり込んだとの話。私の取り分も期待できそうね。


 一方、元眼鏡司教ことルキウスは、教会から「あれは個人の暴走」としてあっさり破門。 「そちらで好きに処罰して構わない」と丸投げされた結果、待っていたのは死刑に次ぐ重罰……大逆罪。


 プライドだけは高かったあの男が、薄暗い鉱山で泥にまみれて一生を過ごす「強制労働」の終身刑。皮肉なものね。



 ひと段落ついたところで、私は再び教会へと向かった。 向かった先は、礼拝堂ではなく奥の居住区。


「司祭ちゃん、少しは元気出た?」


 ベッドで横になっているシエスタに、私は努めて軽い調子で声をかけた。


「そう見えますか? クシナさん……」


 シエスタは顔を上げることすら辛いのか、シーツを握りしめたまま、その白く細い指先に視線を落としていた。


「私って……いえ、私が今まで捧げてきた信仰は、すべて無意味だったのでしょうか」


「……司祭ちゃん?」


「実はあの時、意識を失う寸前に聞こえてしまったんです。ルキウス様が言っていた、聖遺物の『真実』が。多くの命を犠牲にして作られた呪いの結晶……。そんなおぞましいものを『奇跡』だと信じて、有難がっていた自分を思うと、もう……」


 彼女の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。

「救い」だと信じていたものの正体が、誰かの犠牲の上に成り立つ「呪い」だった。真面目すぎる彼女にとって、それは自分の生きてきた時間すべてを否定されるような衝撃だったに違いないわね。


「……はあ。あんた、呪物鑑定士の私を前にして随分な言い草ね。いい? 道具が呪物だろうがパチモンだろうが、それで救われた人間がいるなら、その『救済』という結果自体は本物よ」


 私は鼻で笑い、絶望に沈む彼女の視線を無理やり自分へと向けさせた。


「仮に犠牲のもとに作られた汚れた聖遺物であっても……司祭ちゃん。あんたが救ってきた人たちの感謝、その純度だけは誰にも汚せない確定事項なのよ」


「クシナさん……」


「そんなに信じるものがなくて不安なら、今日から私……『クシナ教』にでも入信すれば? 唯一神の私が直々に、あんたの安っぽいお節介を鑑定してあげなくもないわよ。……そうね、今なら入信特典として、特製の回復薬も一本つけてあげるわ」


 私は懐から小瓶を取り出し、シエスタの枕元にコトリと置いた。


「……ふふっ。入信特典、ですか」


シエスタが、少しだけ、本当に少しだけ、涙の跡を残したまま口角を上げた。その顔を見て、私は立ち上がり、部屋の出口へと向かう。


「冗談よ。私はあんたみたいな手のかかる信徒はいらないわ。……いい? 誰かが作ったガラクタが壊れたなら、次はあんた自身が信じられるものを作りなさいよ。『聖代教』がゴミだったっていうなら、これからは『シエスタ教』でも何でも名乗って、あんたの美学で誰かを助ければいいじゃない」


「まあ、どうせまともに食べてないんでしょ。お説教を聞くのも疲れるから、これでも食べなさい」


 私は深刻な空気をあえて無視して、『丸呑みちゃん』の中から料理が詰まった器を次々と取り出した。


「これ、全部アニマちゃんの手料理よ。あのバカが包丁を使いすぎたせいで、山ほど作らなきゃならなかったから。味だけは保証するわ」


 私はアニマの呪い……じゃなくて「ノルマ」の産物を、厄介払いでもするかのようにシエスタのテーブルへ並べていく。一人じゃ到底食べきれない量だけど、今の彼女にはこれくらい強引な方がいい。


「こ、こんなに……とても食べきれませんよ」


 呆然とするシエスタを背に、私は出口へと向かう。


「どうしても無理なら、店まで返しにいらっしゃい。……その時には、少しはマシな顔になってることを期待してるわよ」


 それだけ言い残して、私は教会を後にした。


 残されたシエスタは、湯気を立てる温かな料理と、嵐のように去っていった私の背中を交互に見つめていた。


「……本当に、クシナさんはひどい。全然、人の気持ちなんて考えてくれないんだから」


 彼女は小さく笑い、それから誰に聞かせるわけでもなく独り言をこぼした。


「でも、そうですね。私が信じたいもの……誰かに決められた教典じゃなくて、私が選ぶ『シエスタ教』。……それなら、悪くないかもしれません」



 教会を後にし、その足でオスマン邸へ向かった。 目的は当然、今回の件の「メインディッシュ」……もとい、功労金をせびるためだ。


 屋敷の前に着くと、すでに話は通っていたらしく。門番もメイドたちも、私を見るなり以前にも増して深々と頭を下げてくる。単なる「お嬢さまのお相手」から「一家の救世主」へと、私を見る目が明らかに変わっていた。


 そのまま滞りなく案内され、重厚な雰囲気の来賓室へと入る。 そこには伯爵と、すっかり元気になった様子の美人三姉妹が揃って私を待っていた。


「おお、あなたがクシナさんですか。この度は娘たちを救っていただき、なんと感謝を伝えてよいか。……本当に、ありがとうございました」


 伯爵は立ち上がり、深く頭を下げて私を迎え入れた。


「別にいいわよ。あの眼鏡司教が最高に気に食わなかったのが一番の理由だし。……それに、お嬢さんたちとお喋りするのはそれなりに楽しかったしね」


 私は相変わらずの態度でソファに深く腰掛けた。実際、あの眼鏡の独善的な美学を叩き潰せたのは最高の気分転換になったし、報酬さえしっかり貰えれば文句はない。


「そう言っていただけると、父として救われる思いですな」


 伯爵が柔和な笑みを浮かべると、背後に控えていた三姉妹もそれぞれ一歩前に出た。


「クシナさん、ありがとうございましたわ!」 「本当に、助けていただいて感謝いたします」 「クシナ様! あなたは神! 一生付いていきます!!」


 ……ん?


 最後の一人だけ、感謝の方向性が物理的に重すぎる気がしたけれど。……まあ、気のせいかしら。


「クシナさん。あなたは形のない名誉より、物理的な報酬を好まれるとお聞きしました。……謝礼として、白金貨10枚ではいかがでしょうか」


 伯爵が提示した額に、私は内心で素早く計算を弾いた。 白金貨1枚で金貨100枚分。つまり、金貨換算で1000枚。雑貨屋を細々と営む身としては、数年は仕入れと贅沢に困らないとんでもない額だ。


「……ええ、それでいいわよ」


 なるべく平静を装って頷く。すると、伯爵は満足げに頷き、さらに言葉を重ねた。


「それと、あなたは街で雑貨屋を営んでおられるとか。……その店にかかる税を、向こう2年間はすべて免除することを約束しましょう」


「……ずいぶん太っ腹ね。よっぽど教会から謝罪金を分捕ったのかしら?」


 思わず皮肉が漏れたが、伯爵は気を悪くした様子もなく、穏やかに微笑んでいる。


「いえいえ。娘たちの命と、この街を救ってくれたのです。……経営の助けになれば幸いですよ」


 あんなボロ……いえ、趣のある私の店が、ついに「免税店」になるなんてね。あの眼鏡の心を切り刻んだ甲斐があったというものだわ。


「また気軽に遊びに来てくださいな」 伯爵と、最後まで熱烈な(主に一人の重すぎる)視線を送ってきた三姉妹に見送られ、私は屋敷を後にした。 懐にある十枚の白金貨の重みが、今は何よりも心地よい。


 街はすっかり落ち着きを取り戻していた。あの不快な香りは消え、人々はまた当たり前の日常を歩み始めている。そんな光景を横目に、私は自分の店へと足を向けた。


 店に戻れば、そこにはまだ「包丁の呪い」……もとい、料理のノルマと格闘しているアニマの姿があった。


「おかえりクシナっち! ほら、新作の味見してよ!」


 差し出された皿を適当に丸呑みちゃんにいれながら、私はカウンターの奥に腰を下ろす。 当分の仕入れ資金と、二年間の免税権。 ……あの眼鏡を切り刻んだ対価としては、上出来すぎるくらいだわ。


 私は満足げに息をつき、静かに店に流れるいつもの空気へと身を委ねた。



 平和ってやっぱいいわよね。


ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。

第二章どうだったでしょうか?


感想や評価などよろしければお願いします。

私のモチベにつながります(笑)。


引き続き第三章も投稿していきますので、

お付き合いいただけたらなと思います。

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