7−15 モナハン砦に到着
時刻は午前五時を少しすぎたあたり、東の空はうっすらと明るくなり始めているが日はまだ昇っていない。
「……うううう、こんなに早く出かける必要性を感じません。ベッドに戻りましょうよー」
「本来はノエルのお仕事なんだからシャキッとしなさい。レナードさんが呆れているわよ」
「ハハハッ、こうして見ると確かにアリア嬢がノエル殿の師匠なのがわかりますね。まあ、師匠というよりも母親みたいにも見えますが」
レナードさんは大笑いしているが、私としては老けていると思われていると知ってちょっとへこんでしまった。
「大変朝早くに呼び出してしまって申し訳ありません。どうやらモナハン砦の方でトラブルがあったらしく、大至急応援を要請していたものですから……」
「……昨日の今日で何か状況に変化でもあったのでしょうか?」
「詳しくは現地に着いてから話す事にしましょう。……申し訳ありませんが、簡易的な転移門ですから一人づつしか転移出来ないのです」
「それなら私が代わりに転移術でお送りしますよ。宰相様の警備上、一人づつだと不都合があるでしょうから」
「……それは大変助かります。お願いしてもよろしいでしょうか」
私は転移門に近づき、魔術式を読み取りモナハン砦の座標を確認した。
座標さえわかれば転移自体は私にとって朝飯前だ。
「すごい、転移門を使うよりも体感的に早く感じましたね。しかも安定感が全く違う……」
「どうですか!師匠の転移術は完璧ですから!」
「……どうしてノエルがドヤ顔をしているのかわかりませんが、確かに凄いとしか言いようがありませんね」
「……はあ、ありがとうございます」
転移門を警備していた兵士さん達は、転移門を使わずに現れた私達を見てびっくりしていたが、どうやら正気を取り戻したらしく私達をこの軍の総大将の所に案内してくれた。
「おお、スペンサー宰相閣下、よくぞおいで下さいました。戦時故、何もおもてなしはできません事をお許しいただきたい」
「ギュンター団長、お気遣いは無用です。私達は仕事で来たのですから。早速ですが、こちらの方々を紹介させていただきます。こちらは魔術師団長のノエル殿と、その付き人であるアリア嬢です。アリア嬢は精霊様の弟子と言った方が知っている方がいらっしゃるのではないでしょうか」
まあ、私の見た目は完全に子供だからな、ノエルの付き人と言った方が都合がいいだろう。
一方ノエルはというと、いつの間にかフード付きのマントを被り、しかも顔にはマスクまで装着して見るからに怪しい雰囲気を醸し出している。
「騎士団長様、お初にお目にかかります。私はアリア・ニュートンと申します。こちらにおられますのは私の学校の先生でいらっしゃいます魔術師団団長のノエル・アルガットです。……団長はその……少々シャイなお方でして、人前で顔を出すのを恥ずかしがっておられます。この様な姿で失礼かと思いますが、お許しいただけないでしょうか」
「いや、丁寧な挨拶、かたじけない。私は王国騎士団団長で今回の戦争の総司令を務めております、ギュンター・パトリオットと申します。魔術師団の団長の関しては了解いたしました。皆にもその様に伝えます」
「ギュンター殿、先程連絡があったジャスパー殿の件を聞かせてくれないか」
ギュンターさんの説明によると、昨晩、ウィッカーマンを阻止すべくニヴルヘイムの魔術師達を暗殺しに行ったジャスパーさん達が戻って来ず、朝方になってボロボロになって帰ってきたジャスパーさんの部下の証言によってジャスパーさんが捕まった事が判明した。
ギュンターさんの説明を聞いてノエルがブルブルと震えていたが、私はとりあえずギュンターさんに質問して見る事にした。
「すみません。ジャスパーさんが負けるなんて、ニヴルヘイムの魔術師は相当な手練れだと思うのですが、その様な情報はあったのでしょうか?」
「いや、ニヴルヘイムはどちらかと言えば魔術の後進国だ。今までの情報ではケルト王国の方が魔術は進んでいると聞いた事がある」
「ジャスパーさんを負かしたお相手、もしくは魔術師の集団に心当たりは?」
「……それはまだ確認していない。……帰ってきた魔術師を出頭させる事はできるか?」
ギャスパーさんが命じて連れて来られた魔術師は全身怪我だらけで今にも死にそうな感じだった。
「こんな怪我をしているのに、こんな所に連れてくるなんて!この方を殺すつもりですか!」
私は怪我人に駆け寄り治療術を使って怪我を治していった。
「……あれ?痛くない……。あれ、アリアちゃんじゃないか……。何でこんな所にいるの?」
顔にも包帯が巻かれていたので私には誰だかわからなかったが、この魔術師は魔術師の塔で私と面識がある魔術師だったみたいだ。
「無理に立ち上がらなくても結構です。一応、怪我は治しましたが、失った血は戻っておりません。まだ安静になさって下さい」
「……ありがとう、痛みが消えただけでも随分と楽になったよ。……少し記憶が朧げだけど、確か私から何かを聞きたくて呼ばれたと思ったのだけど?」
怪我をした魔術師さんの説明によってジャスパーさん達の行動が判明した。
「……では、そのロキと言うニヴルヘイムの魔術師がジャスパーさん達を倒したと言う事ですか?」
「倒したと言うより、一蹴されたと言っていいほど実力は違っていたね。私が逃げ帰る事が出来たのはわざと帰した方が楽しみが増えるからとか言っていたから」
……うわー、何、その思考。その人とはお友達にはなれそうに無いわー。
『ノエル、ロキって言う魔術師の事、何か知ってる?』
『うわっ!……師匠、いきなり念話なんてしないで下さいよ!びっくりしちゃうじゃないですか!』
『……後で好きなだけびっくりしていいから、今は質問に答えてちょうだい』
『ロキなんて人、聞いたことはありませんね。でも、ジャスパー君を負かす位ですから相当強いと思いますけど』
『……そうよね。ジャスパーさんを一蹴させるという事は実力はノエルと同等、もしくはそれ以上と見積もった方が良いかもね』
『はあっ!私がそのロキと戦ったら、ワンパンで圧勝しますよ、絶対』
『……じゃあ、ノエルにはロキの相手をしてもらいましょうか?』
『……今回は、そのロキって奴に勝ちを譲ってあげましょう。まあ、いずれボコボコにしてやりますけどね!』
『……まあ、ニヴルヘイムの魔術師には気になる事もあるし、今回はノエルではなくクリスに行って貰いましょう』
『姫様、私は姫様の側から離れるつもりはございません』
『その事については後で話しましょう……』
魔術師の報告は終了し、ひと段落ついた所で朝食を取る事になった。
朝食といってもここは戦場なので保存食が中心のメニューだ。
硬いパンと干し肉、ドライフルーツと具の少ないスープ、それだけだった。ただ、私のお皿には干し肉ではなくハムが乗っていた。子供だから干し肉では噛みきれないと思ったのだろうか。その心遣いに感謝をしながら朝食をいただく事にした。
みんながその味気ない朝食を無言で食べていると突然扉が開き、伝令の人が大声で報告した。
「敵軍が集結しております。魔術師が前線に出ている事からウィッカーマンが出てくるものと推測されます!」
……そう言えば、ウィッカーマン対策で私達が呼ばれたんだったね。
ジャスパーさんの事があったから、すっかり忘れていたよ。
モナハン砦に到着したアリア。
本来ならクリスは部外者となるため同行は許されなかったのですが、今回はアリアの保護者という事で同行を許可されています。
次回、アリアとウィッカーマンの直接対決が実現します。




