7−14 国王の要請
今日も今日とて魔術師の塔の地下にある実験場でノエルの修行を行っていると、国王陛下に大至急王宮に出仕せよとの命令を受けた。……ノエルはわかるけど、学生である私まで呼ばれるとは何なんだろうね?
大至急と言われたので私が気を利かせて転移術で国王陛下の執務室に転移したら私の周りには国王陛下の護衛騎士達に囲まれていて、ノエルがパニック状態に陥っていた。
「わ、わ、わ、わ、私は怪しい者じゃありませんよ!無実です、無罪です、冤罪です!」
「……ノエル、落ち着きなさい。……国王陛下、大至急と仰ったから急いで駆けつけたのに、この仕打ちはあんまりじゃ無いでしょうか?」
「……アリア、其方は気付いておらんのかもしれんが、王宮はケルト王国でも最上位の警備施設だ。大至急とはいえ気軽に転移してもらっては困る」
「……確かにそうですね。申し訳ございませんでした」
「まあ良い、其方達も座れ、そして護衛も下がりなさい。今から魔術師団の団長に大事な話がある」
私達を取り囲んでいた騎士達がゾロゾロと執務室から出ていった。
ノエルは未だに涙目のままだ。
「……国王陛下、私達が転移する事がわかっていて騎士達を集めましたね」
「そ、そ、そ、そ、そうなんですか!ブライアン君、酷いですよ!」
「まあな、一応アリアやノエルに対しての警告と、騎士達にこの二人がここに突然現れるという事を知ってもらう必要があったからな」
「もっと穏便に済ませる方法もあったのでは?ノエルなんて、おしっこを漏らしそうでしたよ……」
「も、も、も、も、漏らしてなんていませんよ!」
「……そうね。でも、それが普通だから」
「……陛下、今はあまり悠長に世間話をしている暇はありません。ノエル団長とアリア嬢に大事なお話があるのですよね」
「……ああ、そうだった。其方達がいるとどうも調子が狂うな」
レナードさんも居たのか……。今まで気がつかなかったよ。
「其方達は我が国が現在、ニヴルヘイムと戦争を行っている事は承知しているな?」
「はい、魔術師の塔にいる魔術師の人数が少なくなっていますからね。流石にわかりますよ」
「……我が国の一大事だというのに、その程度の印象なのだな」
「ニヴルヘイムは王都からは遠いですからね。学校内でもそれ程話題にはなっていませんし」
「……ビビアンによると、貴族学校ではこの戦争の話題で持ち切りになっている様だがな。魔術師学校は随分と違うみたいだな」
ビビアンというのは国王陛下の娘、つまりこの国の王女様の事だ。確か、アル兄さんと同い年だったと聞いた事がある。
「魔術師学校は貴族学校とは違って閉鎖空間ですよ。外部の情報がなかなか入って来ないんです」
「なるほどな。そういうデメリットもあるのだな。まあいい、単刀直入に言おう、その戦争に其方達を派遣したい」
「……ノエルは魔術師団の団長なので理解できますが……」
「えっ!理解できるんですか?私は行きたくなんてありませんよ!」
「……私は魔術師学校の学生です。戦場に行く根拠はないと思いますが」
私はノエルの言葉を思い切り無視することにした。……見れば、国王陛下やレナードさんはすっかり呆れていて、ため息すら漏らしている。
「確かにアリアを戦場に向かわす事には余も躊躇したが、どうもそうは言っていられない事態になっている様なのでな」
「どういう事ですか?」
「先程、モナハン砦……今回の戦争の主戦場になっている砦から届けられた報告によると、ニヴルヘイムの魔術師が巨人を作り出し、巨人に砦の攻撃をされていて非常に不利な状況に追い込まれているみたいだ」
「……巨人……ですか?」
「ああ、大きさは約五十メートル、全身に炎を纏い、さながらウィッカーマンの様だったと……」
「ウィッカーマン……、ガリアの古い儀式のことですね」
「ああ、そのウィッカーマンが攻撃してくるのだ。ケルト人にとってはウィッカーマンは言わば恐怖の象徴の様なものに近いからな……」
確か子供の躾にもウィッカーマンは使われるんだっけ?……まるで秋田のナマハゲみたいなものか。ウィッカーマンも「悪い子はいねーかー」とか言って子供を追い回すのだろうか?
「でも、その程度なら私が行かなくてもノエル一人で十分でしょ」
「えっ、私一人でそんな怖い所に行きたくありません!師匠も一緒に行きましょうよ!」
「いやよ、高々五十メートルの巨人の一体ぐらいあなた一人でも十分でしょ。チャっと行って、チャチャっと終わらせて来なさい!」
「そ、そ、そ、そ、そんなーー!」
ただの五十メートルの巨人程度では私の興味は全然湧いてこない。
せめて銀河サイズの天元突破した巨大ロボットならば興味津々になっただろうが……。
「アリア、ウィッカーマンは一体ではなく五体出現した。その内の一体は投石機の攻撃によって倒したそうだが」
「五体ですか。少し多すぎますね……」
ニヴルヘイムの魔術師達のレベルはわからないけれど、ジャスパーさん並みの魔力量を持つ魔術師ならば、そのサイズの巨人の二体ぐらいなら作れそうだが、動かして、ましてや攻撃もさせる事になると一体でも難しいのではないだろうか。
しかし、この世界でジャスパーさんクラスの魔力量を持つ魔術師は非常に稀有な存在だ。
ニヴルヘイムにもそのクラスの魔術師がいる可能性はあるが、五人も揃えるとなると少し疑わしい。
「ウィッカーマンは他にはどんな特徴がありましたか?例えば攻撃魔術を使うとか、空を飛ぶとか……」
「防御結界を使って、こちらの攻撃魔術を防いでいると報告には書かれていたな。……あと、ジャスパーの話だと集団詠唱によってウィッカーマンが作り出されたとも書かれていたな」
「……集団詠唱?……ゴーレムに?……けど?……なるほどね……」
「何かわかったのか?」
「さあ、色々と推測はできますが、実際に見てみないとわかりませんね」
「では、見に行ってくれるか?」
「……不本意ですが少し気になる事もありますし、今回は陛下の命に従いましょう」
「そうか、助かる……」
「では明日の早朝、王宮に立ち寄ってください。その後、カフカースに移動する事にしましょう。明日は私も同行致します」
「宰相閣下が王宮から離れても大丈夫なんですか?」
「モナハン砦には簡易的な物ですが転移門がありますので事情を説明したらすぐに帰るつもりです。一応、学生であるアリア嬢が行く理由を説明しなければなりませんからね」
「……一応ではなく、ちゃんとした魔術師学校の学生なんですが」
「ハハハッ、アリア嬢と話していると、すぐその事を忘れてしまいますね」
私の話し方が老けているという事なのだろうか?……今度から気をつけよう……。
「師匠、お気をつけていってらっしゃいませ!」
「……どうしてあなたが行かないつもりなのかわからないけど、当然、ノエルも一緒に行くのよ」
「えっ!何で?師匠が行ったら、オールオッケーじゃないですか!」
「私は魔術師学校の学生で、貴方は魔術師団の団長だからよ。きちんと仕事をしなさい!」
「……いやだー!行きたくないー!!」
ええい、駄々をこねるな!あんたは子供か!
という訳で、アリアの参戦が決定しました。
アリアは国王陛下からウィッカーマンの説明を聞いて何処か違和感を感じましたが、その正体は?
次回、アリアがモナハン砦に到着します。




