7−13 ウィッカーマン攻略作戦 (ジャスパー視点)
巨人によってモナハン砦を襲撃された日の夜、急遽首脳部によるウィッカーマン対策会議が開かれる事になった。
無理もないだろう。たった五体のウィッカーマンによって完全に戦場をひっくり返されてしまったのだから。
対策会議に集まったのは王国騎士団の団長でありこの戦いの総指揮官でもあるギュンター殿、そして王国騎士団の第三大隊の隊長、旧カフカース騎士団の団長、義勇軍の指揮官に就任しているウェズリー辺境伯、そして私の計五名だ。
「まずは、皆の意見を聞きたい。俺としては撤退も視野に入れても良いと思っている。このままではニヴルヘイムの成すがままで終わる。打開策がない限り戦う事を避けた方が無難であろう」
「お待ちください!あのウィッカーマンを放置したまま撤退してしまうと、カフカースはあのウィッカーマンによって蹂躙されてしまいます。それは、この地を守る騎士にとって許す事はできません!」
旧カフカースの騎士団長の意見はもっともだが、その意見は感情論に過ぎない。それではウィッカーマンの犠牲者を増やすだけになってしまう。
「……ではどうする?このままでは、あの巨人にやりたい放題にされるだけだぞ」
「こちらから打って出るのは如何でしょうか。野戦ならばウィッカーマンを避けて敵の魔術師を倒すことも可能だと思いますが」
「俺もそれは考えた。だが、あの巨人を魔術師達の防衛に回されるとその突破は難しい」
「……そうですね……」
大軍でウィッカーマンと対抗するのは無謀が過ぎる。群れというのは意外と柔軟性に乏しく、意外と簡単に動きを制御されてしまうものだ。大軍の足を止めることなど幾らでも可能で、そうなってしまうと簡単にウィッカーマンの餌食になってしまうだろう。
「ジャスパー殿、あの巨人を作る魔術を何とか阻止する事は可能だろうか?」
「そうですね……、あのウィッカーマンを作り出す魔術は集団詠唱によって行われています。ですから、その詠唱中に妨害工作を行えば魔術の中断も可能だと思いますが、その程度は敵も織り込み済みだと思います。戦場でそれを行うのは困難でしょうね」
「……そうか」
「ですが、あの魔術を使えなくする方法なら手はあります」
「それは何だ!」
「簡単です。魔術師達の暗殺です。魔術師がいなければ魔術は行えません」
「……可能なのか?」
「いつでも行動に移すことが可能です」
「……暗殺など気が進まないが、背に腹は変えられんか……。ジャスパー殿、頼んでも良いのか?」
「そうですね、私自らが指揮をしますので、それなりに期待しておいてください」
私達は全身黒尽くめの衣装に着替え、闇夜に紛れて昼間戦場になっていた平原を駆け抜けた。
身体強化によって風の様に動けるが、ニヴルヘイム軍が陣取っている丘陵地まではそれなりの距離がある。周囲を警戒しつつも昼間見た集団詠唱の事を考えても良いだろう。
集団詠唱は古来より対城攻撃魔術を使う為に開発されたとされているが、実際の使用例はごく僅かで、習得の難易度に比べて効果があまり期待できないとされてきたのだった。
それがあの様な巨人を生み出す魔術で使用するなど前代未聞と言って良い、歴史的な大発明だ。
魔術師としての本音を語っても良いのならば、ニヴルヘイムの魔術師達を暗殺するのではなく、あの魔術についてとことん語り合いたいが、国の興亡には変えられない。仕方がないから勝ってから調べる事にしよう。
あともう少しでニヴルヘイムの本陣に到着すると思った矢先、上空から魔力を感じた。
慌てて真横に転がりながら敵が放ったであろう攻撃魔術を躱した。
「……へえ、今のを避けるんだ。ケルト王国の魔術師というのは結構優秀なんだね」
いつの間に現れたのか、私達の目の前には青いローブを身に纏った男が立っていた。
その男の必勝の魔術を私に避けられて悔しがっているどころか、口角を上げて喜んでいるのがハッキリと見える。
「けど、戦術としては単純だよね。スルトに対抗出来ないとみて魔術師を消しにきたんでしょ。合理的ではあると思うけど、それじゃつまらないでしょ」
スルト……?もしや、あのウィッカーマンの魔術の事か?
「ケルト王国には五十年前の戦争の英雄であるノエルっていう魔術師や、噂の精霊の弟子もいるんでしょ。もっと面白い魔術を見せておくれよ」
……団長の事はともかく、アリアちゃんの情報もニヴルヘイムは掴んでいるのか。
だが、ここで迂闊に喋って私が余計な情報を敵に渡すわけにはいかない。
それに、あの攻撃魔術の正体も正確には掴んでいないが、目の前にいるこの魔術師もかなりの実力の持ち主だ。……私と同等……いや、自惚れはやめましょう、相手は私よりも格上の存在です。
「……ダンマリかい?真面目だねー。せっかくの異文化コミュニケーションなのに会話をもっと楽しもうよ!それとも君はコミュ障なのかな?」
「……まさか、団長じゃあるまいし」
「よかった……、言葉は通じていたんだね。ケルト王国は違う言語圏の国では無いようだね」
……この男、言っている事が一々奇妙だ。この世界の言語は一つしか存在しない。貴族の様な高等教育を習得しているのなら一般常識の範疇だぞ。それともこの男は違う言語圏の国とやらを知っているのか?
「話す事が出来るなら、もっとお喋りしないかい。君達がニヴルヘイムの魔術師を殺しに来たとするならば、君達はスルトに対抗する魔術を持ち合わせてはいないのかい?確かにあの魔術はこの世界にとっては高度な魔術なのかもしれないけど、ギリギリ対抗できる方法はあるはずだよ。こんな面白くない方法はやめて、もっとポジティブな思考でスルトに対抗する術を見せておくれよ」
やはり、この男の言動にはどこか違和感を感じる。
この男は、ニヴルヘイムの魔術師だというのにケルト王国に勝つ事を前提としていないのか?
「お前はニヴルヘイムがケルト王国に負けたとしても何とも思わないのか?お前の言葉には勝ちたいという信念が見当たらない……」
「……面白ければ勝ち負けなんてどうでも良くないかい。流石にあの連中の前では言わないけれど、敵である君たちの前では僕の本音をぶっちゃけても良いよね」
「ニヴルヘイムに対しての忠誠心は無いのか?」
「……忠誠心?そんな物が必要かい?いいかい、人は生まれてから死ぬまでずっと自分自身だけを満足させれば、それだけで満たされる生き物だ。他人まで満足させる意味などどこにも有りはしない」
「……随分と自己中心的な考え方だな」
「そうさ、天動説ではなく、他の人が僕の周りを回る他人動説さ!僕以外の人は僕を楽しませる為だけに存在していると言っても過言では無いね」
……天動説?何の話だ?それと、何処まで自己中な奴だ。迷惑極まりない!
「なら私はお前を楽しませる為にここに来たわけではない。だから、この辺りでお暇させて貰うとしよう」
「そう言わずにもうちょっと僕を楽しませてくれよ。この戦争、ストレスが溜まる一方で全然面白くなかったんだ」
「じゃあ、今すぐ戦争をやめて故郷に帰った方が良くないか……」
「君の意見はその通りかもしれないけど、それよりもストレスを発散させる方法があるんだよ」
目の前の男の雰囲気がガラリと変わった。
「それはね、君達をボコボコにする事さ。……大丈夫、簡単には殺さないさ。その方が長く楽しめそうだからね」
「全員、全力で逃げろ!仲間が死んでも振り返るな!」
「……やっぱり君は、僕の実力を見抜いていたんだね。そんな君に一つご褒美だ。今から君達を倒す者の名を教えてあげよう……」
そう言い放った瞬間、目の前に男が一瞬で移動してきた。
「僕の名はロキだ。君がこの先どこでどう死ぬかはわからないけれど、死ぬまでこの名前を覚えておくといいよ」
その言葉を聞いた直後、私の意識は暗闇の中に落ちていった。
ジャスパーによるニヴルヘイムの魔術師暗殺は失敗に終わりました。
そして、ニヴルヘイムの魔術師であるロキが初登場。
次回はアリア視点のお話となり、アリアがニヴルヘイムとの戦争に本格的に参加する事になります。




