7−11 ニヴルヘイムの秘策 (ギュンター視点)
ニヴルヘイム軍の攻撃はこの一週間の間に三度ほどあったのだが、初戦と変わり映えしない戦い方で、しかも破城槌の追加建造はされなかったのか三度の戦いの中では一度も姿を見せる事はなかった。
三度の戦い内の一戦目こそは城壁を使って防戦のみの戦いだったが、ニヴルヘイムの作戦が代わり映えしないのを悟るや否や、こちらから野戦を仕掛ける作戦に変更してみた。
いつもの様に城壁の上から弓による攻撃を行いながら、ニヴルヘイムの兵士達が城壁に取り付く前に北と南の門から騎士達がニヴルヘイム軍の左右から襲いかかった。
ニヴルヘイム軍は我々から攻撃を仕掛けてくる事を全く想定していなかったのか、瞬く間に隊列が乱れ多くの兵士がバラバラとなって逃げ帰っていった。
「……ニヴルヘイムの軍は我々よりも戦い慣れているかと思っていたが、案外そうでも無いのか?」
「少数民族達の小競り合いは多いはずですが、もしかしたら大軍での戦闘には慣れていないのではないでしょうか?」
「つまり、今のニヴルヘイムの王は少数民族の連中を統治しきれていないと?」
「わかりませんが、ニヴルヘイムであの規模の兵士を招集するのであれば少数民族達からも兵士を募った筈です。少数民族の兵士なんかは大規模な軍事行動には慣れてはいないでしょうし」
「……寄せ集めの軍隊か。そこまでしてケルト王国に戦争を仕掛ける意図はなんだ?確かにニヴルヘイムは古来よりケルト王国に対して戦争を仕掛けてきたが、少なくとも五十年前の戦争ではケルト王国に勝利しかけた程の強さを持っていたはずだ。決してこの様な無様な戦いはしなかったと思うが」
「……そういうのは終わってから考えましょう。今は一刻も早く戦争を終わらせる事が重要です」
「……そうだな。ならば、今度はこちらから攻め込んでみるか?」
「ニヴルヘイム軍は砦での攻防戦で多少ですが兵士の数は減りましたが、まだ一万近いの兵力は保持していると思われます。我が軍の騎士達はいずれも精鋭揃いですが、決して楽観視は出来ないかと」
「そうだな。陛下が下された命は国境の防衛のみで、ニヴルヘイムの土地を削り取ることでは無かったな。こちらから戦いを仕掛けて、手痛いしっぺ返しを喰らうわけにはいかんか」
「はい、ニヴルヘイムの土地を手中に収めても手に入れられる物は何もなく、それどころか復興や何やらでこちらから援助しなければならないでしょう。それならば最初から手に入れない方がマシです。戦争なんて行為は金食い虫なんですから出来るだけ早く終わらせた方が良いのでは無いですか」
「……俺たちはその戦争でメシを食っているんだがな」
「私達は国を守る事でケルト王国に貢献しているのです。そんなに卑下することではありませんよ」
「そうだな。じゃあ、さっさとこの戦争を終わらせて、他所の国がこの国に手を出せないと思われる程度には、我等の強さを見せつけてやろう」
「……意気込みは良いですが、我らの役目は防衛ですからね」
「……せっかく気合いを入れ直したのに、つまんねえ事を言うんじゃねえよ!」
その日のニヴルヘイム軍は前回よりもやや遠目に布陣し、明らかに様子が違っていた。
「……どう思う?」
「最後に大規模な野戦でも仕掛けるつもりなんでしょうか?その割には騎馬の数が少なすぎます」
「ああ、向こうもそんなつもりはないのだろう。それよりもあの荷馬車を見ろ、何であんなに大量の丸太を持ってきているんだ?あんな物、邪魔なだけだろう」
「……ジャスパー副団長、大量の丸太を使った魔術なんてあるんでしょうか?」
「うーん、私の記憶にはないですねー。魔術を使って破城槌でも大量生産するつもりなんでしょうか?」
「その様な事は可能なんですか?」
「可能かどうかと問われたら可能と答えるしかありませんが、わざわざ前線まで材料を持ってきてやる必要はありませんね」
ジャスパー殿の言う通りだ。
それに、もし魔術で破城槌が生産できるとしたのなら、今までの攻撃で破城槌が追加されて来なかった理由が不明だ。
「それに、あのローブの集団。この様な戦争で前線に魔術師が来る事は無い筈です。戦場においての魔術師の役割は後方からの長距離による魔術の攻撃や防御が主体ですから」
その戦法は実際にこの戦いにおいてジャスパー殿をはじめとする魔術師団が実践してきた。それにニヴルヘイムの魔術師も今日までの戦いにおいて同じ様な役割を担ってきていた。
「……ニヴルヘイムの魔術師達に動きがあるみたいです」
ニヴルヘイムの魔術師達が丸太を大量に載せた荷馬車の前で何やらしているようだ。
「集団詠唱……。また面倒臭いものを準備してきましたね……」
「面倒?そうなのか?」
「集団詠唱自体は昔からある技術なのですが、成功例はほとんどありません。たった一つの魔術に大勢の魔術師をシンクロさせないといけないので、その辺りが難しいんですよ」
「だが呪文を一緒に唱えるだけだろう。合唱の様なものではないのか?」
「集団詠唱にとって大事なのは呪文の詠唱では無く、イメージの統一化です。個々それぞれで違ったイメージを持ってしまうと魔術が正しく起動しないのです」
「……なるほど」
実際にはあまりわかっていなかったが、この場は分かったふりをしてみた。
誤魔化すようにニヴルヘイム方面を見てみると、魔術によってなのか荷馬車にあった丸太が浮かび上がり独りでに何かの形に組み合わさっていった。
丸太は徐々に大きさを増し、二本の足に二本の腕、そうまるで人の様な形になっていたのだった。
そして最後に、まるで魂が宿ったかの様に丸太の巨人は燃え上がり、丸太の巨人から炎の巨人に生まれ変わった。
「……なあ、あれって、まるでウィッカーマンそっくりじゃないか……」
集団詠唱によって作り出された炎の巨人……ウィッカーマンは全部で五体。
そのウィッカーマンの集団がモナハン砦に向かってゆっくりと前進を始めた。
ニヴルヘイムの秘密兵器?であるウィッカーマンの登場です。
次回はウィッカーマンがケルト王国軍に対して猛威を振います。




