7−10 ニヴルヘイム戦争の開戦 (ギュンター視点)
モナハン砦の城壁の上からニヴルヘイムの方面に見下ろすと、続々とニヴルヘイムの騎士や兵士達がモナハン砦の近くまで行軍してきている。その距離はおよそ一キロメートル程だろうか、周りに障害物が無いせいかやけに近くに感じる。
もしかしたら、古来からの戦争の形式に則って宣戦布告の口上でも始めるつもりか?と思っていたが、どうやらそんな事は無さそうだ。
何故なら、ドンドンと太鼓の音が鳴り響き、ニヴルヘイムの連中が雄叫びを上げたと同時に兵士達が前進してきた。
「総員、防戦準備!ニヴルヘイムの奴等が突っ込んでくるぞ!」
伝令兵がラッパを吹き鳴らし兵士達を鼓舞する。
まずは双方共に弓を使って、矢の雨を降らし始める。
だが、お互い魔術による防御結界によって矢が防がれている。しかし、防御結界は全面に展開できるわけでもないので、結界が展開していない僅かな隙間から矢がすり抜けてくる事があるのだ。
「トレビュシェット準備!ニヴルヘイムの集団に向かって巨石をお見舞いしてやれ!」
トレビュシェットは投石機の一種だ。ロープや動物の腱などを使ったバネ式ではなく、錘の落下エネルギーを利用した大型の投石機である。
射程は石の大きさによって異なるが、百キログラムの石を三百メートル先まで飛ばす事ができる。
その大きさ故にトレビュシェットを移動させる事はできないが、構造が単純なので比較的容易に作る事ができる。
重量が百キログラムもある物理的な攻撃だと、さすがに防御結界でも防ぎ切る事は出来ず、防御結界を突き破ってニヴルヘイムの集団に次々と石の塊が降り注いでいく。
トレビュシェットの攻撃によって多少の動揺はあったものの、ニヴルヘイム軍の前進を食い止める事は出来ず、ニヴルヘイムの兵士達が城壁に取り付いてきた。
城壁の上から弓矢の攻撃や、煮えたぎった油や石を落として城壁をせり上がってきた兵士達を下に落としていく。
しばらく城壁での攻防は続き、ニヴルヘイム軍は城壁にたどり着いたものの、それを越える事が出来ないでいる。すると、業を煮やしたのかニヴルヘイムの陣から破城槌が数機移動して来るのが確認できた。
「破城槌が近づいてきている!北門より部隊を出し、迎撃せよ!迎撃部隊が到着するまでは破城槌に向かってトレビュシェットで攻撃せよ!」
俺が出した命令を伝えるために伝令が北門に向かって駆け出した。
破城槌はノロノロと近づいてはきているが、トレビュシェットの攻撃はなかなか当たらない。
そもそも投石機では精密な射撃は難しいのだ。
俺がイライラとしながら破城槌を睨みつけていると、北門から騎士達が出撃しが破城槌に向かって馬を駆けさせていった。
「トレビュシェットの攻撃を止めよ!味方が向かった!」
味方の騎士達は破城槌の護衛についた兵士達を次々と討ち取っていく。
遠目から見ても先頭にいた騎士の圧倒的な強さに魅入られてしまう。
「あの騎士は誰だ?北門から出撃したという事は何処かの義勇軍の騎士なのか?」
「あの騎士はクーパー子爵です」
「……あれが噂のオウルニィの戦鬼か……。その名に恥じぬ戦いっぷりだな」
わずか数分の戦闘で破城槌の周りにいた全ての護衛を蹴散らし、後から来た騎士達が持っていた大きな斧で破城槌の車輪を壊して移動をさせなくした後に、破城槌に油をかけ松明を放り込み次々と破城槌を燃やしていった。
「見事な手際の良さだな。……確かにこれほどの猛者ならば、王国騎士団に入団しなかったのを悔しがる者がいるのも頷ける」
クーパー子爵が率いる部隊は全ての破城槌を破壊した後、そのまま砦には戻らず、ニヴルヘイム軍を背後から襲いかかった。
ニヴルヘイムの兵士達は全ての破城槌が破壊されているのに気づくと、早々に城壁の攻略を諦め自陣に戻っていった。
クーパー子爵は必要な追撃はせず、そのまま北門に帰還した。
ニヴルヘイム軍はそのまま徐々に後退を始め、元々布陣していた丘陵地に戻っていった。
時間にして三時間。
これが、ニヴルヘイムとの戦争の初戦となった。
とうとうニヴルヘイムとの戦争が始まりました。
初日は正面からのぶつかり合いといった感じですが、ケルト王国軍には歯が立たない様子です。
次回もニヴルヘイムとの戦争は続きます。




