7−9 ノエルの身体改善
ノエルの魔術の修行ははっきり言って芳しく無い。
念話術は何とか魔術師学校から魔術師の塔くらいの距離なら通話出来る様になったのだが、転移術や眷属の作成なんかは未だにそのキッカケすら出来ていない状態だ。
転移術が使えないのでノエルを闘技場に未だに連れて行ってはおらず、今日も魔術師の塔の地下にある実験場で転移術の修行を行なっていた。
「……魔術師の塔は、すっかり人が少なくなったわね」
私が休憩時間に椅子に座って優雅にお茶を飲んでいると、近くで大の字になって床に寝転がっていたノエルが息をゼーゼーと吐きながら苦しそうに私の質問に答えた。
「……ニヴルヘイムとの戦争が始まるみたいですし、ジャスパーくんもその戦争に行ってるみたいです」
「ノエルは行かなくても良かったの?」
「戦争なんかより、修行の方がずっと有意義ですから。……物凄く辛いですけど……」
「まあ、戦争が無意義だというのはわかるけど。貴方が感じている辛さは、貴方が成長している証みたいな物よ」
「それはわかるんですけど、なんで魔術の修行なのに走り込みや筋トレをしているんですか?本当にこれって魔術の修行なんでしょうか?」
「貴方の体が余りにも不健康そのものだったから途中で方針を変えたの。まずは今後千年くらいは病気にならない丈夫で健康な体を手に入れましょう!」
「そ、そ、そ、そ、そんなのいりません!私みたいな引き篭もりの陰キャには不健康な方が需要があるはずです!」
何よ、その需要って奴は。
「確かに深窓のご令嬢を好きな人が好きな人はたくさんいるとは思うけれど、ノエルには当てはまらないからね。今までの貴方は暗い部屋に閉じこもってブツブツと魔術の事を研究している百歳を超えた魔女でしか無いんだから!」
「あ、あ、あ、あ、あんまりですよー!もうちょっとオブラートに包んでくださいよ!!」
……否定しないって事は、ちょっとは自覚があったのかな?
「……大丈夫、ノエル、安心しなさい。私がこれから貴方を引き篭もりの陰キャから、森の中に住んでいる麗しき半精霊人に改造してあげるから!」
「そんなの興味ありません!そんな事より、もっと魔術の修行をしましょうよ!」
「……ノエル、考えてもみなさい。森の中に引き篭もって魔術をコソコソと研究している魔女と、森の中でひっそりと暮らす麗しきエルフ、どっちが人生の充実度が高いか想像してみなさい。誰もが後者を選ぶに決まっているでしょ」
「言い方!師匠の言い方には悪意を感じます!」
「そうかしら?じゃあ、ここに二つのリンゴがあるとしましょう……」
私は実際に「煤竹の笛」を使って二つのリンゴを創造してみた。
「一つは皮がシワシワで所々虫食いの穴が開いているリンゴと、もう一つは皮がツヤツヤで見るからに瑞々しいリンゴ。ノエル、貴方ならどっちのリンゴを食べたいと思うの?」
「……その質問は卑怯ですよー!」
「そんな事はないわ。そして、これと同じ事は世の中では頻繁に行われているの。人は自分の事を良く見られたいし、その為の努力をする。その行為はとても素晴らしい事だわ。でも勘違いしないで。顔の良し悪しや体型の事で全てを決めつける事は間違っている。でも、その努力そのものを否定してはいけないの」
「……それはそうですが……」
「人の第一印象はまずは見た目からよ。一目見た瞬間にその人のイメージが半ば決まってしまうの。そして、その第一印象はなかなか覆す事は出来ないの。貴方は今後、何百年もこの世界で暮らしていく事になる。だから、貴方の今後の人生がより良い様になる為に今からその努力をしないといけないのよ。魔術の修行はその後でも十分よ」
「……うううう、でも気が進みません!」
「貴方が自分の見た目に興味がない事は知っているわ。だったら、人並みの健康を手に入れなさい。私が貴方と出会った時の第一印象は不健康そうな子供だったからね」
「……うううう、大体正解です」
「自覚があるのだったら改善しなさい。これから毎日、ランニングと筋トレをしてから修行をする事にしましょう!」
「そ、そ、そ、そ、そんなーー!!」
それから毎日ノエルはランニングと筋トレを行なっている。
その為かノエルの血色が良くなり、体を動かしている為お腹がよく空く様になり食事の量も増えてきた。その為、以前はガリガリに痩せていた体型が多少ふっくらとしてきて、以前よりも健康に見える様になってきた。
毎回毎回ランニングや筋トレをする度に私の事を鬼とか悪魔とか言うのだけはやめて欲しいのだが、ノエルの健康には変え難い。多少は聞き逃す事にしよう……。
もちろん、聞き流すだけでしっかりと覚えているのだけどね。
アリアの身体改善に取り組むアリアのお話でした。
次回はとうとうニヴルヘイムとの戦争が開戦します。




