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アメイジング・グレイス 〜幼き女神は斯く語りき〜  作者: タカトウ ヒデヨシ
第二章 魔術師の卵?  第七話 ニヴルヘイムとの戦争

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7−7 クーパー騎士団 (ウィリアム視点)

 家族会議があった日の翌日の早朝から俺は不眠不休で馬を早駆けさせ三日でオウルニィに戻った。

 泥だらけで汗まみれな俺を見て使用人達は驚いていたが、それに構っている余裕はない。

 俺は身を清め服を着替えた後、すぐにに早速騎士団本部に足を運んだ。

 騎士団本部に入るや否や副団長に全員を集める様に指示を出し、集合場所である訓練場に向かった。

 非番だった騎士達も急遽招集され、眠気まなこな騎士もいる中俺は皆の前に立ち今回の招集の説明を行った。


「総員傾注!これより非常に重大な発表を行う!心して耳を傾けるように!……それでは団長、お願いいたします」

「うむ……、旧カフカース領のニヴルヘイムとの国境付近にニヴルヘイム軍が集結しているとの報せが入ってきた。現在、カフカース領は国王陛下の直轄地になっている為、王国騎士団の第三大隊が国境近くのモナハン砦に集結している。そこで国王陛下は近隣の領主に義勇軍としての参加を募られている。そして、ウェズリー辺境伯閣下は国王陛下の布告に応えるべく俺に義勇軍に参加する様にと命じられた。だがオウルニィはキボリウム山脈の魔物を抑える為の防衛線の一つである為、オウルニィ騎士団の全員の参加は出来ない。そこで、諸君らの意見を聞きたい。この中でニヴルヘイムとの戦争に参加する意思がある者は挙手してもらいたい。これは強制では無い。手を上げないからといって罰則は無いので安心して欲しい」


 五十人程いる騎士達の八割ほどは挙手している。

 手を挙げなかった者は、魔物との戦闘で怪我をしている者や結婚したばかりの者、そして今年入った新人で腕に自信がない者だった。


「多くの者が参加を希望してくれて感謝する。しかし全員は連れていけない。我々はカフカースの騎士ではなくオウルニィの騎士だ。我々のやるべき仕事は故郷を守り事であり、その事を忘れてはいけない。よって義勇軍として参加させるのは現在の騎士団の半数でいい」


 やる気に満ち溢れてる者、あからさまにホッとしている者様々だがそれでいい。命は大事な物だ。

 俺とて戦う事には慣れてはいるが、戦争の経験はない。貴族学校時代に訓練として模擬戦を行った程度で、目の前の騎士達と大して変わらない。

 だから、今回の戦争に参加すると決まった時は、やる気よりも恐怖心の方が大きかった。

 この者達も武器を手に取って犯罪者を捕まえた経験がある者は多いだろうが、双方が殺し合う経験をした者はいないだろう。ましてや戦争なんて、この国では五十年近く行われてこなかったのだ。


「……副団長、各小隊長達と話し合って戦争に参加する小隊を決めてくれ。戦争に参加する小隊の数は三つだ。残りはオウルニィの守護として残す事になる。決まったら団長室に報告に来てくれ。そして、義勇軍の出発は明朝の日の出と共に出発となる。慌ただしくなるが準備を怠らない様に」


 数刻後、第一、第三、第四小隊が義勇軍に参加する事になった。

 副団長はオウルニィに残り、第二、第五小隊の指揮を取りオウルニィの守備に当たる事になった。

 そして、宣言通りに日の出と共に、ウェズリー騎士団との合流場所に指定されたカフカースの関所前に向けて出発した。




 カフカースの関所前には既に数多くの部隊が集結していた。

 ウェズリー領の領都であるナヴァンはオウルニィよりもカフカースとの境界に遠い所にある。辺境伯閣下の騎士団が到着するのは早くても今日の夕刻か明日になるだろう。

 我々は野営の準備をし、ウェズリー騎士団の到着を待つ事になった。


「……団長、もう戦争は始まっているのでしょうか?」

「わからん。だが、仮に始まっていたとしても今以上に急ぐ事は出来なかった。戦場の遅参を責められる事はないはずだ」

「……いえ、俺にはニヴルヘイムの奴等が考えている事がわからないんです。あいつらはどうして戦争を仕掛けてきたんでしょうか?最近のニヴルヘイムはクン・ヤン教国からの援助が無いとやっていけないと聞いております。戦争を仕掛けるだけの余裕はないはずなんですよ」

「それは貧しいからだろ。昔からニヴルヘイムを始め、北方の国はケルト王国に戦争を仕掛けてくる。それは国が貧しかったからだ。だから、ケルト王国の連中が羨ましくて仕方がないのさ」

「……貧しいからですか」

「自分達はパン一つを大勢で奪い合って食っているのに、ケルト王国ではテーブルの上にパンが山積みにされているんだ。そりゃ、羨ましいし妬ましい。今じゃ、北方でも栽培できる芋を食ってる様だが、昔から芋なんて物は家畜の餌と言われてきたからな。食ってみれば美味いが、ユピテル帝国みたいな特権意識が高い連中なんかはバカにするだろう。でも、バカにされながらでも、それを食わないと飢えて死んでしまうんだ。奴等にとっては屈辱だろうな」

「……つまり、ケルト王国民はニヴルヘイムの奴等に恨まれているって訳ですか……」

「ニヴルヘイムの国民はずっと貧しい状態で暮らしてきた。貧しい生活が続くと、過激な連中の一部から、金持ちからは盗んでも大丈夫だと勘違いをする奴等が出てくるんだそうだ。つまり、犯罪を正当化してしまうんだ」

「それが今回の戦争の正体だと?」

「いや、今までの戦争はそうだったが、今回はどうだかはまだわからん。もしかしたら、物凄い大義名分があるのかもしれん」

「……有っても無くても戦争は始まるんですよね……」

「実際に国境に軍隊を集めているんだ。何もありませんでしたではもう済まされない。だから戦争は必ず起こるよ。嫌だけどな……」


 俺はニブルヘイムの方向にある空を見つめながらため息をついた。

 西側の空には分厚い雲が浮かんでいて、カフカースの辺りだと雪が降っているかもしれん。

 戦場は雪原なのか、それとも凍土なのかはわからんが、どちらにしても凍えない様にしなければならない。

 家族は大丈夫だろうか?

 まだ家族と離れて数日しか経っていないというのに、無性に家族が恋しくなってきた。

 アルウィンにあれだけ大口を叩いておきながら、当の本人はこの程度の大人なのだ。早く帰って妻のメアリーを抱きしめたいと思いつつも、戦場で死なない為に剣を磨く。全く真逆の事をしているな。

 戦場に来たニヴルヘイムの兵士達もこんな矛盾を抱えているのだろうか?

 そんな答えの返ってこない独り言を呟きながら、俺は明日のために剣を入念に磨いていった。

オウルニィの騎士団と共に戦場に向かったウィリアム視点のお話でした。


少しだけですがニヴルヘイムという国の実情を書いてみました。ですが、ウィリアム達はニヴルヘイムが攻めてくる理由をまだ知りません。


次回もウィリアム視点のお話となります。

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