7−4 陞爵記念パーティー 3 (ウィリアム視点)
パーティーも恙無く進行し、ようやく落ち着いて周囲を見渡せる様になってきた。
パーティーの準備はジョンや妻のメアリー達に任せっきりだったので、せめてパーティー本番では矢面に立つぞと意気込んでいたのだが、普段から社交に精を出している妻やジョンには全く敵わなかった。
今も俺は妻のエスコートをしながら、隣で相槌を打つだけのマネキンに成り下がっている。
……魔物相手ならこんな情けない事にはならなかったのに。いや、ある意味、人間の方が魔物よりも恐ろしい相手なのかもしれん。
魔物と違って、人間は言葉巧みに騙し、偽装し、そして裏切る。
目の前にいる連中は、少なからずこうした経験をしている奴等だ。社交を蔑ろにしてきた俺ではとてもじゃないが太刀打ちは出来ないだろう。
少しばかり情けない様な面持ちで落ち込んでいると、メアリーが軽く肘打ちをしてきた。
「……あなた、ここはお祝いの場ですよ。もう少しにこやかな表情をして下さい」
「……すまんすまん。だがなあ、俺にはこういった所はどうも苦手なのだ」
「それは、もちろん存じております。ですが、今日は苦手でも最後までこの場にいて下さいよ」
「……今日の主役が俺である事は理解しているし、そして主役が途中で帰れない事もよく知っている」
「知っているのなら、それを態度で示して下さいませ。アルウィンの見本になる様にね」
「アルウィンなら心配いらんだろう。先程もゴドフリー殿のお嬢さんと楽しそうに会話をしていたではないか」
「……そうね。あのお嬢様ならアルウィンの婚約者としても申し分ないと思います」
「もう婚約者探しか?アルウィンにはまだ早くないか?」
「そんな事ありませんわ。恐らくマーガレット様にはもう何件も婚約の打診が来ていると思いますよ」
「……マーガレットはアリアと同い年だろう。流石に早すぎるだろう」
「女性の結婚適齢期は短いのです。ぼやぼやしていると良縁から遠ざかる一方です」
確かに女性の結婚適齢期とされるのは十五歳から二十歳までで、遅くとも二十三歳までに結婚出来ないと行き遅れと揶揄されるのだったな。
「そう言った意味では、女性の方が結婚に前向きという事か……」
「そうですね。……ただ、少し心配なのはアルウィンの一番近くにいた女性がアリアだという事です」
「ん?アリアに何か問題でも?……アリアには全くその気が無かったから黙っていたが、俺はアルウィンの嫁はアリアでも良いと思っていたが」
「……アリアには全く問題ありません。ただ、アリアの容姿が整い過ぎているせいで、アルウィンの女性に対する基準が高すぎるのではないかと心配しているのです」
「……なるほど。確かにアリアは母親やジョンと似て、あの歳にも関わらず相当な美人だからな」
「はい。女性である私から見ても義妹やアリアは綺麗だと見惚れる位です。生まれた時からアリアや義妹に接しているアルウィンが、自分の婚約者と比較しようとするのではと思うと……」
「そんな心配は不要だ」
「……そうでしょうか?」
「あの子はそれ程愚かではあるまい。それに、義妹であるメアリーやアリアも確かに美人だと思うし、可愛らしいとは思うが、それとこれとは全く別の次元の話だ。第一、俺が妻に求めるものはそんな上っ面なものでは無い。俺が君と結婚したのは、君とならばどの様な困難も一緒に乗り越えていけると確信したからだ。アルウィンは俺の子だ、その程度の事など弁えているさ」
「そうだと良いのですが……」
「それにジョンだって容姿だけで義妹を選んだわけでは無いと思うぞ。義妹は確かに弱気な言動をすぐ口にするし、どこかオドオドとした態度で自分に自信が無い印象だが、ジョンと結婚する時はそんな態度は微塵も感じなかった。彼女は間違いなくジョンの事を愛しているし、ジョンも妻の愛を疑った事などないだろう。もし、そんな上っ面だけで惹かれあっていたのだとしたら、父上が反対した時点でジョンは義妹との結婚を諦めていたはずだからな」
「ふふっ、恋愛に一途なのはクーパー家の血筋だという事ですか?」
「確かにその通りだな。俺も君との愛情に疑いを持った事はないからな」
「……アルウィンがあなたの後を継いだ後にもその言葉を聞いてみたいものですね」
「ああ、その時が来たら二人で悠々自適な暮らしをしようではないか」
「いえ、私は孫達に囲まれて生活したいので、あなたお一人でお過ごし下さいませ」
メアリーは笑いながら話していたが、俺は将来メアリーに捨てられるんじゃないかと思うと悲しくなってきた。
パーティーが終盤に差し掛かり、そろそろ国王陛下の退場かと待ち構えていた所、陛下の近くに宰相であるレナード殿が近づいてきて何やら耳打ちをされていた。
レナード殿の言葉を聞いた陛下は驚きの表情を浮かべながら早口で退場の挨拶をされた。
「宴もたけなわではあるが、余はここで退場したいと思う。改めて、クーパー子爵、ニュートン男爵、これからもケルト王国の為に働いてくれる事を期待する」
「はっ、これからもケルト王国の為、誠心誠意努めます事を国王陛下にお誓いいたします」
国王陛下は足早に退場し、しばらくしてパーティーもお開きとなった。
それにしても、レナード殿は陛下に何を語られたのだろうか?
国王ともあろうお方が、人前であれほど驚いた表情を見せる事はそう多くはない。
……国を揺るがす何かが起こったのか?もしやアリアがまた何かをしでかしたりしていないだろうな?
大いに胸騒ぎがするが、今の俺には確かめる術がない。
後でジョン達と相談しなければならないな。
アルウィンの結婚を心配する両親の会話でした。……途中からはウィリアムの惚気話みたいになってしまいましたが。
レナードさんの国王への伝言の答えは7−6で明らかになります。(既にバレバレだと思いますが)
次回はアリア視点のお話に戻ります。




