7−3 陞爵記念パーティー 2 (ジョン視点)
「……それにしても、アリアちゃんのお披露目の時とは招待客の客層がガラリと変わったな」
ゴドフリー先輩が私の近くに来て話しかけてきた。
「今回、招待状は王都にいる全ての貴族に送りましたからね。アリアのお披露目の招待客は基本的に国王派と中立派、そして辺境伯閣下が指定した方々でしたから」
「つまり、今回は前回様子見で参加を見送っていた中立派や門閥貴族派から抜けたがっている貴族連中がこぞって参加したって訳か」
「その様ですね。まさか門閥貴族派の主だった侯爵連中がこぞって失脚するとは思いませんでしたけど……」
「ああ、俺も王宮に勤めていながら全くそんな情報は掴んでいなかった。まさに寝耳に水とはまさにこの事だな」
ゴドフリー先輩はスペンサー宰相閣下の直属の部下として宰相府に勤めるエリート中のエリートだ。そんなゴドフリー先輩が門閥貴族派の粛清の情報を掴んでいないなんて事があるのだろうか?
「……もしかして、先輩って宰相閣下から信用されてないのかな?」
「……言うようになったな、お前は。昔からお前の事をあんなに可愛がってあげてたのに」
「あの可愛がりとかいう行為、やめた方が良いですよ。いじめと間違われますからね。まさか、メアリーの事を相談しに行ったのに校庭を何十周も走らされるなんて思いもしませんでしたよ」
「お前の惚気話にはうんざりしていたからな。ぐちぐち悩むくらいなら汗を流してスッキリした方が良いかと思ってだな……」
「……はいはい、で、本当に門閥貴族の粛清の情報は掴んでいなかったんですか?」
「ああ、ドニゴールが怪しいという事は掴んではいたが、まだ詳細な情報は調査中だったんだ。それが、ドニゴールだけでなく多くの侯爵家を含む門閥貴族派の資金管理団体の情報をレナード様が詳細に掴んでいるなんて思いもよらなかった」
「……スペンサー様はどこでその情報を入手されたかわかりますか?」
「それがさっぱりわからん。まさに天から降ってきたとしか思えん」
「……天から」
先輩は比喩的な表現で言ったのだろうが、私にはその言葉に何処か引っ掛かりを感じた。
……まさか、精霊が?
以前の私なら、そんな考えは一笑に付していただろうが、アリアが精霊の弟子になった時から精霊がより身近に感じるようになっていた。
それにカフカースの一件もある。
あの事件は、精霊という存在を世間に知らしめた大事件だ。これまでは、地域の守護者の様な立ち位置でしかなかった精霊が、あの事件によって人の世界に罰を与える事もある実在する脅威の一つになった。
今はまだ自然災害のひとつの様な感覚だが、この先も同じとは限らない。
「どこからの情報なのかはわからんが、その情報は全て真実だった。実際、ドニゴール領にはアヘンの原料となる芥子が栽培されていて、魔術師団によって全て焼却されたという情報があるからな」
「……ドニゴール家も潰されましたしね」
「ああ、そのせいで他の侯爵家の連中は今も戦々恐々としているってわけだ。まあ、自業自得としか言えないけどな」
「そうですね。恐れているという事は、自分が悪い事をしているっていう自覚がある証拠ですからね」
「ああ、侯爵家の連中は古くからの貴族ってだけで、自分は大した事はない癖に偉そうにして嫌がったからな。陰で喜んでいる奴等は多いだろうな」
「……嫌われてますねー」
「……まあ、今の国王派が同じ立場になる可能性もある。俺は国王派という訳ではないが、お前達は周囲からは国王派の一員だと見られている。だから余り人に恨まれる様な事はするなよ」
「……気をつけようにも、既に我が家は多くの貴族連中から妬まれまくっていますよ。だから、足を掬われない様に出来るだけ品行方正に過ごそうと思います」
「そうだな……。まあ、精霊の弟子の家族にちょっかいを出そうとしたらカフカースの二の舞になりかねんしな」
先輩はそう言って大笑いしていたが、こちらとしたら笑い事で済まされませんよ。
「で、その当人のアリアちゃんはどんな様子なんだ?」
「……高等科に無事に進級したそうです。ですが、アリアについた教師というのがちょっと問題でして」
「まあ、精霊の弟子が初等科なんかで不合格になるはずがないか。で、その教師というのは一体何が問題なんだ?」
「魔術師学校の高等科の教師は、普通は魔術師の塔から派遣された研究者の一部や、引退された魔術師の受け皿となっているみたいなんですが、アリアの教師になったのは現役の魔術師団の団長なんだそうです」
「……魔術師団の団長!あの、幻の団長がアリアちゃんの教師になったのか……」
「……幻の……とは?」
「魔術師団の団長は殆ど公式の場には顔を出さない事で有名だからな。しかも、団長の素顔を知っている人物は国王陛下と宰相のスペンサー様、それと副団長のジャスパー殿程度らしい。しかも、その人物が魔術師団の団長に就任したのはおよそ百年前で、それ以降に誰も魔術師団の団長に就任していないことから相当な高齢の魔術師なんじゃないかという噂だ」
「……はあ、それじゃあアリアについた教師というのは長い白髭の魔術師か、白髪の魔女という訳ですか」
「……どこのお伽話だよ……。名前は確か……ノエルだったか。名前から察すると魔女の方だな」
「魔女ですか。良かった、教師とは言えどもアリアちゃんに男が近付くのは許せませんからね」
「……親バカも大概にしとけよ。そのうち娘に嫌われても知らないぞ」
「ウチのアリアが、私を嫌いになる事なんてあるはず無いでしょ!」
「……どの父親もそう思うもんだ。最初はな……」
「……不吉な事言わないでくださいよ」
「本当にそうなる前に、お前の親バカを少しは治しておけよ……」
「……努力はしますけど、確約は出来ません……」
「……アリアちゃんも、こんな父親を持って気の毒な事だ……」
「どういう意味ですか!」
「そういう意味に決まっているだろう!……ん?うちのメグが男と二人っきりで話しているだと……」
ゴドフリー先輩の視線を追うと、そこには先輩の娘であるマーガレット嬢とアルウィンが楽しそうに談笑している。
「あの男の子は兄の息子のアルウィンですよ。結構お似合いじゃないですか……」
「ウィリアムの息子だろうが何だろうが、メグに男が近づくなんてまだ早い!」
「マーガレット嬢の年齢なら、もう婚約者がいてもおかしくはないと思いますけど?それに、下手な男よりも兄さんの息子の方が先輩にとっては安心出来るじゃないですか」
「……ほう、とすればだ、メグと同い年のアリアちゃんに婚約者が出来たとしてもおかしくはないよな……」
「はあっ!アリアに婚約者なんてまだ早いに決まっているじゃないですか!」
「そうだろう!メグはまだ誰にも渡さん!」
「もちろん、アリアも誰にも渡す気はありませんよ!」
視界の端でメアリーと先輩の奥方であるルイーザ様が呆れた表情をしているのが見えたが、ここはあえてスルーしておく事にしよう。
王宮の貴族から見た門閥貴族派の粛清のお話でした。
王宮の貴族からしてみれば、門閥貴族の情報は降って湧いた様な感覚なのでしょうね。
次回はアリアの伯父であり、アルウィンの父親であるウィリアム・クーパーの視点のお話となります。




