22話 会いたかった
「こちらに来ますか?」
声が聞こえた。
「聞こえますか?瑠璃。こちらに来ますか?今すぐにあなたをこちらに引き寄せますから。」
そんな声がして
ああ、もうダメだ。私は死ぬんだ。
でもそれ終わりじゃないし。
なんか疲れた
もうダメだ。
終わりにしたい。
そんな風に思っていた。
その時に
また引っ張られて
また
聖也の部屋に
いた。
もうくたくただった。
「すみません。こんなことになるなんて想定外だったのです。」
溜息を付いて謝ってくるのだけれど。
「もしかして、前世の記憶を引きずっていましたか?」
「もうここに居たときの記憶も含めてずっと何回も回った人生全部思い出してしまうようになってました。もう疲れてしまって。
私はもうダメかも。」
「ダメかも知れないです。」
「あなたの事はきちんと送り届けて幸せになってくれるはずだと思っていたのです。」
「まさか記憶が上書きされなくなっていたなんて知らなかったので。普通輪廻転生の輪に戻ったら、毎回前世の記憶はリセットされて、新しい記憶が上書きされる。だから早いときには胎児であるうちに前世の記憶の上に胎児であるときの母親の心音等を聴いてその記憶で上書きされてしまう。
上書きする情報が少ないときでも幼児期に少し前世の記憶をおぼろげに覚えているくらいで、そのうちに忘れてしまう。新しい記憶で上書きされるからです。
それが本当の輪廻転生の輪で生きている人のシステムの理。
なのですが、あなたの場合、こちらの世界にいたときに魂にバグが起きた。
輪廻転生の輪に戻っても新しい記憶が上書きすることなく、どんどん古い記憶を消すことなく蓄積するようになってしまったのです。
運よく覚えていない周回でも私がいるこのゲームに触れたとたんに、すべてを思い出してしまった。
そうではありませんか?」
「そうだったんですね。全部覚えている。思い出してしまう。そんな状態でした。
もう私はいっぱいいっぱいになってしまって、」
気が付くと泣いていた。
私の身体を抱きそっと背中をさすってくれる。
「早く連れ戻しにいかなくてすみませんでした。
そんなことになっていると異変に気付くのが遅くて。
あなたの様子がおかしかったから、
心の記憶をハッキングして調べて
やっとわかったのです。ごめんなさい。」
ごめんなさいがハッキングについてのものなのか、助けが遅れたことなのか、それともイレギュラーな記憶バグが起きたことへのことなのか、分からなかったが、
多分全部の事なのだろう。
物凄く申し訳なさそうにしている聖也がいた。
涙があふれて止まらない。
凄く怖かったし、最後の方ではもう死ぬのも生まれるのも生きていること自体がもう怖くて気が変になってしまいそうだった。
次があるからいいやとか明るく考えることが出来たら良かったのかもしれない。心が強い人はそうすることが出来るのかもしれなかった。
が、頭で考えるよりずっと辛かった。結局不老不死の世界で永遠に生きることと変わりあるとは思えなかったのだ。
むしろ、毎回ガチャのように当たり外れがあるだけ、たちが悪い。
それに毎回思い出してしまう度に聖也に会いたいと思っていたことを思い出してしまい、その感情が大きくなっていく。会いたいという気持ちが増幅していくのに、前回も前回も合えなかった。ずっと会えていない。会いたいのにもうあの世界に行くことは出来ないのだ。こっちに戻ってこなければ良かったのではないか。ログアウトボタンなんか探さなければ良かった。ログアウトボタンを探していたから大切な人を傷つけてしまった。という悔恨の気持ちが蘇ってきて、とてつもなく辛くなってしまってそして絶望してしまう。その繰り返しだったのだから。
「会いたかった。ずっと。」
私はぐっと涙をこらえて唇をかみしめていた。
聖也の胸に顔をうずめて思いっきり泣いていた。
髪を撫でる優しい手が懐かしい。
背中をそっとさすってくれる手も。
そして耳元でささやく声も。
「もう大丈夫。あなたのそばにいますよ。泣かなくてもいいから。」
「怖かったんです。私もう会えないと思って、淋しくて辛くて。優しくしてくれたのに、帰ろうとしてログアウトボタンなんか探してあなたを傷つけて・・。」
「ごめんなさい。」
一気に言った。泣きじゃくりながらだから言葉がたどたどしくて
力がなくて
伝わったかどうかも分からなくて
「もう大丈夫。だから謝らなくていいから。私も悪かったのだから、手紙を読んでくれたのですよね?
私もあなたの魂に対する配慮が足りなかったです。だから帰りたいと思うのは当然のことでした。だからあなたは悪くないのですから。それよりもこんなに傷つけてしまった。輪廻転生の輪に損傷が起きるなんてこと分からなかったから。辛かったでしょう。」
そしてたた黙ってそっと抱きしめてくれて、聖也の身体から伝わる体温が温かくて、もの凄くほっとして、懐かしくて涙が止まらなかった。
ひとしきり泣くとふとある疑問が浮かんだ。
「どうしてまたこちらの世界に来ることが出来たのでしょう?あんなにまた会いたいと思っていても来ることが出来なかったのに。」
「それは私があなたの思念とのつながりを絶っていたからです。あなたの思念とリンクするとまたこちらに呼び戻してしまう。でもまたうまい具合にそちらの世界に戻せるとは限らない。むしろ、かなり難しい。本当に前回は奇跡的に戻すことが出来た。その結果あなたを苦しめることになってしまったのは皮肉なものですが。
だから敢えてあなたの心と思念を繋げないように意識して絶っていたのです。だから、あなたの輪廻転生の輪にバグが生じてあなたの魂に致命的な損傷を与えている状態にあるとは今まで気付かなかったのです。
修二が見つけて、あなたの事を気にしてアクセスして異変に気付いた。
そして私にあなたの魂とのリンクと、ことらに引き戻せるか試すようにと。無理でも根性でなんとかしろとすごい剣幕でやってきて。
それで、今のこの状態が起きました。」
私が顔を上げてみると聖也は後悔するような申し訳なさそうなそんな顔をしていた。
「気にはなっていたのです。あなたがどうしているかと。でもまたあなたが誰かと恋愛をして結婚して子供を生んだり、幸せに暮らしているのをみたら、あなたの幸せを願わなくてはいけないのに、祝福して喜んであげるのが本当なのに、多分私にはそれが出来なくて、嫉妬でおかしくなってしまう。またあなたの事を手に入れたいと切望してまたこちらに呼び戻してしまう。その思念を送ってしまう。それが怖かった。だから敢えて見ないように考えないようにして。
だから修二が気にしてあなたの状況にアクセスするまで異変に気付けなかった。わたしのつまらない嫉妬が、嫉妬に恐怖する私の弱い心があなたの窮地に気付くのを遅らせた。もっと様子を見守るべきだったのに。」
「こんなになるまで追い詰めてしまった。どう謝っていいのか。すみません。本当に。元はと言えば私があなたの事を我慢できず抱いたこと。それが始まりなのに。こんなことになってしまって。」
聖也の話では、本当は一度契りを結んだらもとの世界に帰れない。その理は、その状態で元の世界に戻すと輪廻転生の輪にバグが生じて、転生前の記憶の上書きが出来なくなり、どんどん前世の記憶が蓄積される、その重さに魂が耐えきれず、損傷、そして破壊され消滅してしまう。とのこと。私の魂はかなり危ないとこまでいっているとの事だった。
「もう少し気付くのが遅かったら、あなたの魂は消えてなくなっていた。と言われました。
修二と冷泉に。彼らが調べてくれて。それで。私は何もできず何もしなかった。あなたを危険に晒してしまった。こんなに好きでこんなにあなたの事を欲しているのに。」
魂の消滅。そこまでいってしまうところだったのか。確かにとても辛かった。そこまでだったとは。
「でももう大丈夫ですから。」
なんかほっとして、体から力が抜けていくのが分かった。
「召喚で体力が消耗しています。もう少しここでゆっくりして、少し眠ったほうがいい。大丈夫。ずっとあなたのそばにいますから、少し眠ってください。」
そうしてお姫様抱っこしてベッドに連れて行ってくれた。
ベッドに寝かせてそっと布団をかけてくれる。
ほっとしたらものすごく眠い。聖也が私の手をそっと握ってくれた。
ちらっと横を見ると目が合ってにっこりとして手をぎゅっと優しく握ってくれてその様子に
今までの疲れがどっと出た感じで頭も重くて何も考えられなくなって、気を失うように眠りに落ちていった。
目が覚めるとやはり横にいてくれた。
「お目覚めですか?」
にっこりを笑ってくれる。
「何か食べれそうですか?こちらの世界は不老不死、病気とかもまずないので、良くは分からないのですが、実はあなたの元の世界で病気の時に作るという『お粥』というものを作ってみたのです。食べてくれますか?」
そういえばおなかが空いている。毎回時空間移動をすると、時空間移動なのかもっと違う世界の移動なのでもっと凄い事をしているのかもしれないのだけれど、こちらの世界に召喚されるとものすごくおなかが空いているのだという事を思い出した。そして毎回聖也がオムレツを作ってくれてたのを思い出した。
オムレツ食べたいなと思ったけれど、確かにものすごく身体まで消耗しているようなそんな気がした。熱を出して動けないときのような怠さと、力が入らない感じ、そして胃が疲れているようなそんな感じ。
魂の消耗とはそんなに恐ろしい物なのか。死ぬとかでなく完全に消滅寸前とかであったと思うとそれなら召喚されて体調がバッチリでないのも納得いく気がする。
「ありがとうございます。いただきます。」
そういうといそいそとキッチンにいき
お盆に載った土鍋とお茶碗をもって戻ってきた。
私の身体を起こしてくれて、情けないことに自分で上半身を起こすことさえできつかった。
「はい、あーん。」
とスプーンにすくったお粥を私の口の前に運んだ。
恥ずかしい。
「あ、あの自分で食べられますから。」
私が言うと
「だあめ。こういうのやってみたかったんです。
だから私にやらせてください。
はい、ふうふうして、冷ましてっと。熱いとやけどしてしまいますよね。瑠璃は猫舌でしたよね。
ほら、口を開けて。」
「あーん。してください。」
「ダメですよ。ちゃんという事聞いてください。そうしないと治らないですよ。早く元気になってもらわないと。ずっと心配だったのですから。」
ふと見ると涙目?
「実はあなたのことをこちらに召喚して3日目を覚まさなかった。だからもうダメかと。間に合わなかったのかと。そう思っていたのです。」
そうだったんだ。だからあんなに心配そうな顔をしていたんだ。
私は唇を噛みそして、口を開けた。
聖也の作ってくれたお粥はとても美味しくて、何故かまた涙が出てきた。
「泣かないで瑠璃。ちゃんと食べて早く元気になってください。」
そして、私の前髪をかきあげ、そっと額にキスをした。
その唇が柔らかくて、懐かしくて、凄くキスしたくなったけど、
「今はだめですよ。ほらちゃんと食べてください。あーん、」
にこっと笑ってスプーンが口の前に出されて
私はおとなしくいう事をきいてお粥を食べた。




