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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中⑮
905/914

903:理想郷の正体

「えーと、セーダイさんね。

あぁ、字書けるんだ。

えぇと、観光目的の7日間の滞在……っと。

ハイ、質問なければこれでOKだよ、ようこそ我が国へ。」


拍子抜けするくらい、手続きが一瞬で終わる。

こんなに簡単なのに、あの行列が出来ているのかと疑問に思ってしまう。


「あ、ありがとうございます。

そうだ、道中色々あって、路銀がちょっと心許なくてですね。

この国に滞在中、日雇いのお仕事とかやっても大丈夫でしょうか?」


「あぁ、そんな事か。

それなら、この城門を越えたらまっすぐ行くと、この道と同じくらいの大きな通りに交差する所に出るからね。

そこの右角に大きな建物があって、それが冒険者ギルドになってるからね、そこで登録して簡単なお仕事を受けると良いよ。

あぁ、セーダイさん字が書けるんだよね。

もし計算も出来るなら、その冒険者ギルドの向かいが商人ギルドだから、そっちに行けば肉体労働じゃない仕事もあるかもしれないよ。」


ニコニコと、穏やかな笑顔で衛兵は色々教えてくれる。

他にも、観光客がよく行く通りや美味しい食堂が並んでいる通りなど、とても丁寧で親切に教えてくれていた。


「隊長!王宮からの確認書類が届きました!」


「あぁ、やっと来たか。

俺の受け取りサインはいつも通りでいいから、早く入国審査官に届けてやれ。」


観光案内を受けている最中、部下と思わしき衛兵がやって来て、俺と話している衛兵に何やら許可を求めてやってくると、簡単なやり取りのあとですぐに退出する。


「あの、もしかして入国ですっごい行列が出来ているのって……。」


「あぁ、そうだね、セーダイさん観光で本当によかったね。

もし入国希望なら、あの行列に並ぶ事になっていたから、多分手持ちの食料じゃ足りなかったんじゃないかな?」


チラと俺の背負っているリュックに目をやりながら、衛兵さんが笑う。

荷物量から推測が出来るくらいこの仕事に慣れているのか、それともかなりの有能なのか。

時々俺とのやり取りの最中に、目の奥が笑っていない瞬間を観察するに、かなりの有能と言うことなのだろう。

この人がなぜ人のいない観光客相手のやり取りをしているのか、少し不思議に思ってしまう。


「あの、入国ってそんなに厳しい条件があるんですか?」


恐る恐る尋ねてみると、衛兵さんは大げさなリアクションで“そんな事はない”と手を振る。


「いやぁ、怖がらせちゃったみたいでゴメンね!

入国審査はね、国王様の直轄なんだよ。

なのでここに移住目的で来た人は入国理由の聞き取りと、写真……えぇと、他所から来た人に分かりやすく説明すると、姿を写し撮る魔法があってね、それを国王のもとに届けて、“この人は移住しても良いか”を確認する作業があるんだ。

そこで国王が許可をすれば基本おかしな理由でも受け入れるし、不許可ならどんな立派な目的でも断るようになっているんだ。

国王様の審美眼は恐ろしく正確でね。

前なんかも、ひもじそうで憐れな親子も入国を断ったんだが、それは見せかけで実は魔族の諜報員だった、とか、とにかく完璧に見抜くんだよ。」


“国王様って凄いんですねぇ”と驚いたフリはしていたが、少しだけ違和感を感じていた。

“じゃあ、国王が外遊とか、式典とか、はたまた寝込んだらどうするんだろう?”という、漠然としたものであったが。


久々の客人で嬉しかったのか、その後も色々雑談をしていたが、7日間しかないと考えると、今日の宿も決めておきたい。

俺は話を切り上げると、親切にしてくれた衛兵に手を振り城門をくぐる。

城壁をくぐり抜けると、そこはもう別世界だ。


「……マキーナ、これ、幻覚とかじゃないよな?」


<いいえ、確かに実在しています。

()に、信号機(・・・)です。>


地面はアスファルトらしき舗装路で、歩道と車道がキッチリと分けられている。

車道には少し古めかしいデザインの車が走り、行き交う人々の服装は……俺が子供の頃に見た雰囲気の、俺の感性からすると少し古めかしい、だがこの世界で考えれば他の場所では見たこともない洋服を着ていた。


「……マジかよ。

この壁の内側だけ、近代……いや現代レベルじゃねぇか。」


<ここで呆けていても、初めて都会に来たオノボリさんにしか見えませんよ。>


そうだ、と思い直して道を歩く。

ギリギリ高層ビルは建っていないが、民家はどこも屋根瓦の一軒家だし、コンクリートらしき構造物も多い。

地方の駅前から少し外れた場所、みたいな雰囲気で、通る人がいなければ元の世界に迷い込んだのではと疑ってしまうレベルだ。


「と、ともかく、冒険者登録だけはしておくか。 金はいくらあっても足りなさそうだ。」


その後、言われた通りに進むと町役場みたいな建物の冒険者ギルドを見つけ、何事もなく普通に冒険者証を受け取る。

刻印されたプラスチックの磁気カードと、やはりこれも既視感が強すぎてめまいがしそうなほどだ。


「ここの区画と、それからこの区画の宿泊施設では冒険者証を提示すれば割引がつきますので、お安く宿泊出来ます。

文字の読み書きも2階で申し込んで頂ければ無料で……あ、セーダイさんには関係ないですね。

それと、このカードで隣の商人ギルドのお仕事も受けられますので、拘束時間が長いですが割の良いお仕事を受けたい場合はそちらをお勧め致します。

……あの、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、大丈夫です。

ちょっと文明の違いに驚いただけですので。

……ここの国王様は、凄い統治をなされているんですね。」


俺の一言が、どうやら受付嬢の何かに火をつけてしまったらしい。

彼女は眼鏡の奥の瞳を輝かせ、とても嬉しそうな表情を浮かべる。


「そうなんですよ!

国王様は本当に凄い方で、この街をお一人で開拓してここまで創り上げた偉大な方なんです!

しかも、我々市民だけでなく、セーダイさんのような観光でいらした方でも革新的なアイデアを持ち込むなら、真摯に耳を傾けてくださって、とても国民思いの素晴らしい方なんです!!

何でも、奥方様がまだとのことなので、もしセーダイさんが何かアイデアを国王様にお伝えする事があれば、是非、冒険者ギルドの受付にいる、ギネビアという女の子が器量も良くて可愛かったと!お伝えください!!」


受付嬢は目をキラキラと輝かせ、俺の両手を握って物凄くアピールしてくる。

“あ、残念な美女って本当にいるんや”と、俺は脳裏に浮かべつつ、苦笑いしながら彼女の顔を見ていた。

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