897:最初の1人
[ベータの信号、消失。
聞こえていますかベータ、異常事態の説明を求めます。]
『お前の相方はな、ただの鉄とプラスチックの塊になっちまったよ。』
先ほどねじ切った戦闘人形の首を、着陸してきたもう1体に向けてポンと放る。
[そこにいましたか世界の敵。
ベータの破壊を確認、これよりガンマのみで任務を遂行します。]
当然と言えば当然なのだろうが、ガンマと名乗った人形は放り投げられた頭を見ることなく、手甲から生やしたビームの剣で斬り、弾く。
『お仲間相手に相変わらず容赦の無いことで。
……しかしよぅ、俺が世界の敵なら、お前は何者なんだ?』
[私は第四世代型戦闘人形、“ガンマ”。
最新鋭にして最終モデル。
マスターの命令を遂行できない愚かな機体は不良品であり、廃棄が当然の処分です。]
言い終わるが早いか、左手の手甲の一部が開き、展開された機銃をこちらに向けて掃射する。
俺は別にかわすこともなく、左手からビームシールドを展開する。
[その兵器……ベータを“喰った”のですね。
しかし、ベータは第三世代型、能力は私よりも劣っています。]
『あぁ、悪いが……いやちっとも悪いと思っていないが、お仲間は取り込ませてもらったよ。
そして、性能はそうなんだろうな。
……だが、性能差だけが、勝敗の決定的な差になるとは限らないだろう?』
取り込んだブースターを展開し、ガンマに向けて突撃する。
すぐにガンマはこちらを迎撃しようと、右手のブレードを振りかぶるが、振り下ろされる前に更に加速しつつビームシールドを消して、左手でガンマの右腕を掴む。
[離せ。]
『そうだな、“切り離して”やるよ。』
右手の貫手で、ガンマの右肘を貫く。
恐らくは俺がビームブレードを展開して斬るとでも思ったのだろう。
気付くのがワンテンポ遅れてくれたおかげで、ガンマの右肘から下は分断される。
[これで近接攻撃を封じたつもりですか?
しかし私にはまだ……。]
『お前の言う、“マスター”ってのは誰だ?』
実は少し気になっていた。
コイツが出てきた異世界、あの不完全で主要な部分以外は何も創造されていない世界の転生者は、俺が元の世界に帰した。
であるならば、コイツ等には“マスター”に該当する人間は存在しない。
俺の記憶で生成したのなら、その事も加味されていておかしくないはずだ。
[マスターはマスターです。
偉大なる創造主にして我等を拾い上げた恩人。
私達にもう一度生きる意味を与えてくれた、大いなる存在です。
私を動揺させようという魂胆でしょうが、私に論理矛盾は通用しません。]
やけに饒舌に喋るじゃあないか。
その発言自体が矛盾をはらんでいるのだが、それすら気付けない、いや、気付かない様にプログラムされていると言うことだろう。
『そうかい、そりゃ良かった。
だが、取り込んだ時に気付いたんだがよ?
このベータちゃんは、“マスターとは誰か?”って、悩んでいたみたいだぜ?
上司なら、ちゃんと部下の悩みに気付いてやらねぇとな。
その疑問がメモリを圧迫してたから、ベータちゃんは判断リソースが足りずに殺られたんだぜ?』
本当に一瞬。
1秒にも満たない瞬間に発生した、動揺。
それを見逃す俺でもない。
[しまっ……!?]
気付いた時にはもう遅い。
全力で間合いに踏み込み、固めた右の拳を振り抜く。
顎から入ったその一撃は、頭部を粉砕、そしてそのままピンボールのようにちぎり飛ばし、警察署の壁にめり込む。
胴体はゆっくりと一歩、二歩と後ろに下がり、そして仰向けにガシャリと倒れた。
-えぎぃ-
-マジ容赦なさすぎてなんなん?-
-ビームシールドにビームソードとか、マジで機動騎士ガンバルの世界やん!-
-あんな盾あったら探索で便利なんだが-
-ここ何階層?マジで攻略部隊編成するか-
-51階層から先は入り込んだ奴等の精神世界が影響してるなら、再現性が無いのでは?-
-そも、ここ階層がバグってるよね?-
気付くとコメント欄には、同業者らしき連中も見に来ているようだ。
あまり状況がよくわからない視聴者と違い、妙に生々しいコメントが増えてきている。
どこまで参考になるかはわからないが、俺はこのまま進むだけだ。
そう思いながらガンマの胴体を取り込もうと掴み上げた瞬間、ガンマの胴体中心に黒い点のようなものが見えた。
<警告、その残骸から手を離してください。>
『なっ!?あっ!?』
マキーナの警告も、一手遅かった。
黒い点は一気に巨大な黒い球体となり、掴んでいた俺の腕を引っ張るように中へと引き摺り込む。
(マキーナ、状況は?)
<ここは……そんなまさか……。>
ふわりと空中を浮かぶ感覚がしたかと思うと、地面に叩きつけられる。
起き上がりながら周囲を見渡すと、マキーナが絶句した意味がわかった。
足下を見ると、コンクリートの床のようなものが、おおよそ学校の体育館くらいの広さで広がっている。
だがその周囲はボロボロに崩れ落ちており、そこから先は真っ暗で何も無い。
上を見上げても真っ暗で、星一つ見えない。
まるで何も無い空間に、ポツンとこのコンクリートの床が浮いているような状況。
既視感に囚われながら後ろを振り向くと、このコンクリートの床から伸びる階段、その階段には高級そうな絨毯が敷かれ、石造りで背もたれが異常に高い、それこそアニメで見るような玉座が、あった。
『……ランス。
ランス・プローか。』
最初に降り立った異世界。
世界が崩壊し、もうどうしようもなくなった果ての、最後の最後にまで追い詰められた世界。
そこで、たった一人あがき続けていた転生者。
そして。
初めて俺が殺した転生者。
その姿をした“敵”が、あの時と同じように、足を組んで玉座に座り、こちらを見下ろしていた。
「久しぶりだな、勢大さん。
どうでした、これまでの旅は?
楽しかったですか?」
穏やかな、好青年のままの彼の笑顔。
胸の内側に、最後に彼を殺した時の安らかな顔がチラつく。
これがせめて、もっと好戦的な化け物であったなら。
会話を交わすこともできないような、モンスターであったなら。
もっと違う反応が出来ただろう。
なるほど、ノリヤスもこういう気持ちだったのか、と気付かされる。
ただ、それだけだ。
心の波を、落ち着かせる。
『いや、どれも最低な、酷い世界だったよ。
やっぱり俺は、元の世界がいい。
その気持ちは変わらなかったな。』
「そうですか、勢大さんらしい。
じゃあ、俺はまた立ちはだからないとですね。」
ランスはゆっくりと立ち上がると、槍を召喚して構える。
『おぉ、そうか。
それじゃやるとするか。』
俺もまた、ゆっくりと構える。




