895:追憶の先へ
「クソッ!出口はどこだ!!」
白昼の住宅街を、包丁を片手に全力疾走する中年。
どう見ても事案な姿だが、そんな事を気にする余裕は無い。
何せ、後ろからは二足歩行兵器が、そして空からは美少女の姿をしたメカ娘が2体追いかけてきている。
しかも、先ほどの中年おばさんのゾンビがきっかけになったのか、それぞれの家や道路の角から、次々と歩く死体が出てきて俺に向かい歩いてくる。
<勢大、視界共有で見る限り、この辺りは過去に通った地域とかなり共通している気がしますが、覚えはありませんか?>
走りながらだが、改めて周囲を見渡す。
言われてみれば、確かにそうだ。
この辺は確か、ランドクルーザーで河川敷を走り回り、ゾンビが斜面に弱いと気付いた辺りじゃなかっただろうか?
と言うことは、このまま走れば大きな橋があり、そこを火炎瓶でゾンビ共を焼き払った記憶がある。
「ただ、あの時は時間をかけて焼き払ったから通れたが、前みたいにゾンビ共が大量にいたらアウトだな。」
-オッサン、変身せんの?-
-変身に意味あるのかよ-
-ってか変身しなくても強いんちゃうん?-
-全裸になるからだろ-
-オッサンの全裸……ゴクリ-
確かに変身できれば、とは思う。
ただ、アレにはほんの一瞬だが変身するための時間が存在していて、それを狙われない保証はどこにもない。
流石に、今追ってきている奴等に“変身中に攻撃するのはマナー違反だっ!”と怒鳴ったところで聞き入れてくれそうにはない。
条件が揃っていれば移動しながらの変身も出来るが、マキーナが安全を確保してくれているのが前提条件だ。
マキーナがほぼポンコツ状態の今、そのリスクは犯せない。
<ポンコツとは悪うございました。
しかし、橋の上にゾンビはまばらにいるだけです。
この状況なら走り抜けられるでしょう。>
心を読まれながらも、訂正する思考の時間すら惜しい。
必死に走りながら、橋に向かい方向を変える。
「これで橋そのものを撃ち落とされたら終わりだ……な……?」
橋に差し掛かり、違和感に気付く。
道にゾンビが大量に落ちている。
が、大半のゾンビは焼けただれ、赤子のような姿勢で固まっているのだ。
(……どういう事だ?まるで俺達が燃やし終えた時のような。)
赤子のような姿勢で固まっているということは、焼かれた死体が固まる時の姿そのものだ。
あの時、前日に火炎瓶や即席の火炎放射器で焼き払った後、ランドクルーザーで通り抜ける時に嫌というほど見た風景だ。
あのありとあらゆる物が焼け焦げた悪臭は、そう簡単には消えなかったのを覚えている。
「何にせよ好都合だ。
このまま走り抜ける!!」
迫りくる銃弾に砲弾、大型兵器の歩行音にジェットの甲高い音、そして地を歩く亡者共の呻き声。
現代的な地獄があるとするのなら、多分ここの事を言うのだろうな、と走りながら思う。
<勢大、猟犬が脱落しました。>
マキーナに言われ、走りながらも後ろを振り返る。
俺が通り抜けた橋、それを歩兵殺しも追いかけてきたのだが、俺を狙ってバカスカ撃ちまくったせいか、だいぶ橋に負担がかかっていたらしい。
焼け焦げた放置車両を飛び越えようと飛び上がり、着地した瞬間に橋が崩落する。
その崩落に巻き込まれ、歩兵殺しはあっけなく川へと落ち、激しい水音をさせている。
あれなら落下ダメージも多少は入るし、落ちたその上に崩れた橋の残骸も振り注いでいる以上、無傷ではいられないはずだ。
「よし、一番やべぇ奴はとりあえずいなくなったな!!」
アレの生体ロックは本当に厄介だ。
上を飛ぶ戦闘人形に、そこまでの索敵能力は無い。
これでチャンスが出てきた。
「確かここを真っすぐ走り抜けると、警察署があったはずだ!!」
崩落する橋から逃げ切り、そのまま大通りを走り抜ける。
その時、大きな交差点を見て何か思い出す事があり、チラと左を見る。
「……やっぱり、あるのか。」
横転したパトカー。
少しだけ苦い思い出のあるソレに、意識が向く。
パトカー周りにはゾンビが大量にいるから、近寄って状況を確認する事は出来ない。
最後まで、あの車に乗っている男性がどんな姿だったのか、俺には確認することは出来ないだろう。
-あの車何?-
-パトカー?っぽいけど?-
-そんなことより前見てオッサン!-
-上もヤバいよ!まだ撃ってきてる!-
コメント欄に気付き、慌てて目の前のゾンビを飛び越える。
ゾンビはのんびりとこちらに向き直そうとして、空からの銃弾を浴びて血煙になっていた。
-アワワワ……-
-マジでミンチどころか消えた-
-あの威力から推測するに、12.7x99mm、いわゆる.50口径のSATO弾クラスを使っている可能性が高いですな、実際にはヨハン・ブリーニングが設計したブリーニングM2重機関銃などの-
-すっごい早口で喋ってそう-
思わず笑いそうになるが、それどころではない。
知識を語りたいのはわかるが、今の俺の状況も理解してほしい、そんな気分だ。
「見えた!」
目の前に、トタン板や金属板でバリケードが張られた壁が見えてくる。
少しだけ、不思議に思う。
あそこはもう1つの警察署がある場所で、中にいた生存者達が資材でバリケードを張っていた。
そこにお邪魔して、中に何故かあった護送車を使ってショッピングモールへと移動したのだ。
その際、あのバリケードの一部は破壊して車が通れるようにした。
それなのに、バリケードに壊れた場所はない。
今もまだ、中に籠城しているという事なのだろうか?
「まぁ、考えるよりかは行ったほうが早いってね!!」
幸い、動いているゾンビも少ない。
今の俺の力なら、普通にあのバリケードは飛び越えられる。
全力疾走のまま、バリケードに向かって飛びつき、そしてそのまま蹴って宙を舞い、バリケードの内側へと転がり込む。
「……誰か!ここにいるのか!!」
転がりながらもすぐに立ち上がり、警察署の入口に走りながら怒鳴る。
<視界に映る情報からでは、動体反応ありません。>
入口のガラス扉をぶち破るように体当たりで飛び込み、中に転がり込む。
少しの間上空からの射撃があったようだが、流石は警察署の建物。
そう簡単には崩せないようで、銃声が止む。
「奴等が中に入ってくる前に、頼むマキーナ。」
<承知しました。
通常モード、起動します。>
へその下に当てた金属板から、光の線が俺の全身を走る。
さて、反撃の時間と行こうか。




