893:マン・ハント再び
「こりゃあ……、今度は、俺の記憶でも読み取ろうとしてるのか?」
足元を見ると、いつものリスポーン地点の様な木々に覆われた土と雑草の大地がある。
しかし、数メートル先には先ほどと同じような金属で出来た通路が広がり、更にその先には石畳の地面が続く。
視界を正面に向ければ、先程の木々の先には崩れかけたコンクリートのビルが見え、更にその先には藁葺き屋根の農村が見える。
空も青空や金属のパネル、それに曇天の雲と、見ていて目が痛くなるようなガッチャガチャの世界だ。
-何ここ?-
-オッサンこんな世界にいたの?-
-見ていて何かキモチ悪い……-
コメント欄も、どうやら俺と似たような気分らしい。
何となくだが、いるだけで心を削られるような錯覚さえ感じている。
<恐らくは……。
勢大の感想からの推測になりますが、勢大の世界を再現しようとして、何らかの負荷がかかっているのかと。>
マキーナに言われて、あぁ、と納得する。
膨大過ぎるのだ。
普通、異世界転生をした転生者なら、持っている世界は転生前に生きていた世界だけだ。
内包する1つの世界を精巧に読み取り、弱点を再現する機構があるとして、そこに数万の世界をぶち込んだら、そりゃこうなる。
「渡ってきた異世界の数が違いすぎて、うまく読み取れずにバグってる、ってところか。」
とはいえ、先に進まねばならない。
背の高い雑草をかき分けて進み、金属の床を越え、廃墟の様な街並みまで進むと、微かに地響きを感じた。
「ん?地震……か?」
微かな振動は、徐々に大きく、ズシン、ズシンと、はっきりと耳でも聞こえるほどに大きくなる。
<振動波、感知しました。
過去に該当データあり。
……ヨツビシ・マテリアル社製10tAHM、猟犬の駆動音と一致しました。>
「ヨツビシ……、あー、何だったっけか、それ。
アレだよな、アレ。
えーっと、いや、ここまで出かかってるのに。」
確か、異世界を転移している途中、初めてロボットを扱える世界に行った時に出会った奴だ。
あの時は年甲斐もなくはしゃいだなぁ、と思いながらも、どういう機体だったかを思い出せずにいる。
首のないダチョウみたいな外見で、武器は確か……。
<左右側面に105mm小口径オートカノン二門、胴体下部にガトリング砲を一門装備しており、鳥の足を模した特徴的な脚部は全AHM中最速の機動力を誇ります。
対AHMでは同重量のAHMには劣るものの、歩兵部隊には驚異的な制圧能力を有しております。
そのため、ついた異名は……。>
「バカッ!歩兵殺しじゃねぇか!?」
思わずマキーナに怒鳴ってしまうが、マキーナは1ミリも悪くない。
むしろ、つい考え込んでしまった俺の方が圧倒的に悪い。
逃げて隠れようとした俺の視界に、崩れたビルの影からそれが出てきて、胴体上部についているセンサーアイと目が合う。
センサーアイの側面についていた緑の光が、赤へと変わる。
<アラート、ロックオンされました。>
「マジかよぉぉっ!!」
思わず叫びながら、近くの瓦礫に飛び込む。
次の瞬間には先ほどまで俺がいた場所に、徹甲弾の雨が襲いかかり、奥の木々をなぎ倒していく。
-うぉぉぉぉ!-
-ロボットだ!すげぇ!-
-でもなんか格好良くない-
-私は可愛いと思うけど-
-これだから素人は-
-あれオッサンの世界にいたロボット?-
チラと見えてしまったコメント欄が、今度は妙に憎い。
こちらの気も知らないで好き勝手言いやがって、という気持ちが湧き上がるが、八つ当たりしても仕方がない。
「いや、アレは別の異世界で出会ったヤツでね!
歩兵殺しってあだ名の機体で!
今の状況ではかなりヤバい奴なんだわ!!」
走りながら、思わずクセで解説してしまう。
あれはヤバい。
一度人間をロックすると、生体情報を捕捉し壁越しであろうと追跡し続けるという、偏執的なまでのセンサーを搭載してやがる。
-オッサンの必殺技で何とかなるんじゃね?-
-素手でロボを壊せるわけww-
-でもモンスターはモンスターだべ?-
なるほど、と、コメント欄に気付かされる。
あの世界、マキーナを含めて超常的な力が使えなかった。
だが、ここは違う。
なんの制限も受けているわけではない。
そう考えると、あの猟犬も、“ちょっと強いモンスター”と同義ではないか。
「よしっ!そうと決まれば!!
百歩……あ、無理だこれ。」
遮蔽物として使っていた瓦礫から飛び出し、拳を固める。
拳を打ち出すよりも早く、胴体下から伸びる6本の銃身が、電動モーターの音を響かせながら回転を始める。
必死に横に飛び、瓦礫に隠れる。
次の瞬間には、地面も瓦礫の一部も吹き飛ばす銃弾の嵐が吹き荒れ、ありとあらゆる破片が俺に振り注ぐ。
「無理だこれぇぇ!
仮に一発当てたとしても、その間に数百発返ってきやがる!!」
這い回りながら瓦礫から抜け出し、また廃墟を盾にしつつ逃げ回る。
-草-
-がんばえおじきゅあ!-
-やっぱダメかぁ〜-
-ホナ、どうしますんや?-
-さっき何か入口っぽいのなかった?-
-でも、探索者ならあれくらいはじき返せるんじゃない?-
「無茶言うな!
あんなガトリングガンの弾なんぞ食らった日にゃ、ミンチを超えて血煙になって蒸発するわ!!
って、ん?入口?」
逃げ回りながら、コメント欄を遡る。
そうすると、途中に“アレ何だろ?ゲートかな?”というコメントを見つけた。
そこの時間に俺が見ていた風景をマキーナに調べさせると、確かに視界の片隅に地下への入口らしきモノが見えていた。
「おぉ!でかした視聴者さん!!
頂戴頂戴!そういうのもっと頂戴!!」
入口の位置と、俺が通った時に見た風景をマキーナが照らし合わせ、おおよその位置を特定する。
ちょうどこのまま走れば、入口、俺、ハウンドの位置になって、そのまま飛び込める。
全力で走り続けると、さっき視聴者が言っていた入口が見えてくる。
「よっしゃぁ!脱出完了だぜぇ!!」
最後は機銃掃射を浴びかけていたが、何とかスライディングで滑り込んで地下への入口に飛び込む。
予想通りそれは次の階へと下る階段で、そのまま滑って途中の踊り場まで転がり落ちてしまったが、何とか危機を乗り越えることが出来た。
「……イテテ。
やれやれ、ようやく安全地帯に……。」
ここまでくればもう安心だと思い、ホッとしながら後ろを振り返る。
真っ暗な口を開けている入口が、漏電しているかのような電気と火花を散らしている。
「……?
オイオイ、まさかまさか……。」
入口が赤い光を放ち始め、そして暗闇から銃身が少しずつ生えてきていた。




