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異世界殺し  作者: Tetsuさん
電影の光
893/919

891:今いる人たち

「……違う、そんな事はない。

神様が……言っていたんだ……嘘をつくはずなんかない!!」


ノリヤスは吠える。

表情には怒りが見えるが、俺には何故か、その顔が泣く前の子供のような表情に見えていた。


「……その、お前が会った“神様”とやらは、死んだ彼女と会える(・・・・・・・・・)と、言ったか?」


俺の言葉に、ノリヤスは気圧されたように一歩引く。

それが答えだった。

あの存在は、確かに嘘はつかないとは思う。

だが、そのまま真実を話しているとは限らない。


「ぐぐ……。

そんな……それじゃ僕は一体……一体何のためにこんな……。」


「お前が転生の時に会った存在はな、確かにお前みたいな奴の後悔や無念を晴らしてくれる世界を用意してくれているんだ。

でもな、“完全に思い通り”な訳じゃない。

それに、用意と言っても、無機物の模型を用意するわけじゃない。

生きている人間、生きている世界をまるごと創造するんだ。

そこの世界の住人と、手を取り合って生きていけたなら、近しい望み(・・・・・)は、叶うだろうな。」


これが、あの存在の一番いけ好かないところだ。

“心の底にある完全な望み”は叶えない。

必ず最後の最後、ここぞという時に落とし穴を作る。

まるで、自身への憎悪を最大限引き出そうとするかのように。


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘っぱちだ!!

神様が、そんなことをするはずが無い!!

そんなことを言って、お前は自分の目的を果たすつもりなんだろう!?」


「そうだな、俺にも目的はある。

だがそれは、この世界で叶えるものじゃない。

俺は、この世界が崩壊しないようにお節介を焼いてるだけの、ただの異邦人だよ。」


正直に話したつもりだ。

だが、ノリヤスの表情は更に険しくなる。


「やっぱりだ!

やっぱりお前は悪党だ!!

この世界を犠牲にして、自分の望みを叶えるつもりなんだろう!!

お前のような悪党は、この僕が成敗してくれる!!」


大剣を振り上げ、これまで見たこともない速度、これまで感じたことのない強い殺意。

多分コイツは、スキルや不正能力(チート)などではない、本当の意味での強さも持っていたのだろう。

鍛え上げ、努力した者のみが持つ力、戦闘能力。

これまで出会ってきた転生者の中でも、トップクラスの強さだ。


「……だがそれでも。」


人の一生どころか、種の限界をすら超えた年月、それだけの時間をかけて鍛えた俺には及ばない。


打ち込みの瞬間に体を半身ずらし、右の裏拳で刀身の根元を打つ。

すぐに少し踏み込み、大地を蹴る力、更に右拳を引く力を乗せた左拳で、全く同じ場所を打つ。


刀身に響く衝撃波は乱れ、内部で振動波が暴れ狂う。

そのまま振り下ろされ、地面に切っ先がついた瞬間、細かな破片となり甲高い金属音を立てて砕け散る。


「……ッ!?」


ノリヤスの表情が歪むが、もう遅い。

振り抜いた左拳を引きながら、両方のつま先を軸に全身を回す。

全ての加速、全てのエネルギーを、発射準備の整った右拳へ。


肩から肘、肘から拳へと伝わる力を感じながら、拳と、ノリヤスの間にある空気を圧縮、爆発させる。


「……零歩神拳。

お前なら、これにも耐えられると思っていたぜ。」


熱爆発した後の急速冷却で、吐く息は白い。

ようやく構えを解き、吹き飛んで倒れているノリヤスの元へと歩いていく。


「……あぐぅ……なんで……?

変身してないのに……。」


「“変身しているから強い”んじゃねぇ。

“強いから変身”してるんだ。

見てみろよこれ、技使うたんびにこんなことになってたら、最後にゃ裸になってんぜ?」


そう言いながら、ノリヤスに俺の右腕を見せる。

そこについていた手甲は綺麗に消し飛んでいるし、何なら肘から下の衣服も吹き飛んでボロボロだ。


変身していれば守られていたが、していなければこの通りだ。


「フフッ、迷宮(ダンジョン)から帰ってきたセーダイさんが丸裸だったら、違うジャンルで売り出せますよ?」


“バカ言え”とあきれた顔をするが、ノリヤスの表情を見て少し安心する。

先ほどまでとは違い、憑き物が落ちたような表情だ。


「負けた以上、セーダイさんには従いますよ。

やっぱり僕は何も達成できない、無力な半端者だった、って事ですし。」


晴れやかではあるが、その表情にはどこか翳りがある。

ただ、この瞬間には少々不謹慎な考えだなとは我ながら思うが、サマになる良い男だな、と思ってしまった。

途中で見てきた看板の、どこか嘘くさい笑顔とは違う。

良い漢の、さり気ない笑顔だ。


「それこそバカ言え。

お前には、ちゃんと積み上げてきたモノだってあるだろうが。」


マキーナに頼み、ドローンのコメント欄を宙に表示する。


-すっっっっっげぇ!?-

-上位探索者ってこんなん出来るの!?-

-ノリヤス様、いつも応援してるよ!-

-そうだよ、お前が半端者なら俺は子供部屋おじさんだぞ-

-ノリヤスが半端なら他の探索者泣くぜ?-

-いつもROMだけど応援してる-

-初コメだけど、初配信から見てるよ-

-ROM勢出てきたww-

-お前すげぇよ-


いつものノリだが、暖かい。

素早く流れていくコメント欄を見ながら、ノリヤスは放心したように見入っていた。


「お前が積み上げてきたモノは、確かにあるんだ。

過去は消えない。

だが、過去に囚われたままで、今いる奴等を見ないってのも、それはそれで違うんじゃないか?」


「でも……、それなら僕、これからどうしたら……?」


周囲を見渡すと、先ほどまでは気付かなかったが、どうやら転送装置(エスケープポイント)があるようだ。

50階層からは、ボス部屋に出現するのかも知れない。

ノリヤスを地上に送れそうだと安心していると、まだノリヤスは不安そうにこちらを見ている。

俺はなんと言おうか悩み、頭をガリガリとかいたが結局良い言葉は思いつかなかった。


「知らねぇよ、俺はお前じゃねぇんだ。

……ただまぁ、今もお前を応援している奴等とさ、一緒に歩んで行ったら良いんじゃねぇか?」


いい大人のクセして、若者を導く言葉すら思いつかんのか俺は、とは思うが、まぁ俺という人間はこんなモンだ。

若者を導くには、まだまだ人生経験が足りなさすぎる。


「そう……ですね。

思えば、皆には悪いことを。

それに、同じ探索者(ライバー)仲間にも……。

よし、わかりました!!

まずはこれまでの皆に謝って、心機一転、頑張っていきます!!」


切り替えの速さも、若さの特権かな。

そんなことを思いながら、俺は笑う。


危うく、権限の一時譲渡の話を忘れかけて、マキーナに怒られはしたが。

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