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異世界殺し  作者: Tetsuさん
電影の光
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887:光の残滓

「オイオイ、こりゃどうなってやがるんだよ。」


54階層を抜け、55階層に降りるとまた同じ風景。

いや、今度は空の色が真っ暗だ。

ただ、空は真っ暗なのに街並みは晴れた昼間のようにはっきりと見える。


「ノリヤス様、サイコー!!」

「ノリヤス様、素敵ー!」

「抱いてー!」


今度は走り回る女性風のモンスターだけではなく、街全体から声が響いている。

周囲を見ると、先ほどの階にはなかった大型看板があちこちに乱立しており、その全てにこちらを見て微笑むノリヤスの顔がデカデカと掲載されている。


「……気持ち悪いを通り越して、なんかこう、すげぇな。」


<この階層も周辺探知が全く機能しません。

申し訳ありませんが、肉眼での探索をお願いします。>


お願いされてもな、と、困惑する。

地形がおかしいのだ。

都会のような片側3車線の大きな道路の先に、突然未舗装の道路が繋がっていたり、51階層のようなくたびれた建物があると思えばその半分からは近代的な高層ビルが融合していたりと、物理法則そのものがおかしくなっているのだ。


「ダァイテェェェ!!」


「やれやれ、それでもモンスターは現れる、と。」


モンスターの形状ももうおかしい。

両手両足が俺の身長くらいの長さで全身が茶褐色のシワシワの肌、別の異世界で見たテナガとアシナガという魔物の融合体みたいな外見になっている。


<既に外見でも類似モンスターの識別が出来ません。

どのような攻撃が来るかも想定出来ません。>


そりゃそうだろうな、と思いながら、こちらに手を伸ばしてきたモンスターの両腕を、すれ違いながら斬り落とす。

更にこちらを振り向く前に両膝を斬り落として、攻撃力の大半を奪う。


「この動き方だと、多分物理系だろうと思ったが……。」


叫ばれる前に、首を斬り裂く。

肘から先がないからか、モンスターは困惑したようにもがくが喉からひゅうひゅうと空気が漏れるだけだ。

暴れ方を見ても、物理主体なのだろう、と言うことは推測できる。

仮に火や氷を吐くなら、喉のあたりから何かしらの予兆が漏れる。

例えば火種だったり、霜だったり。

ちゃんと知性あるモンスターなら、こういう風に無駄にジタバタ暴れたりはしない。

知性があっても食人鬼(グール)程度、魔法や特殊能力の類いは使いそうもない。


そこまで観察すると、脳天に刀を突き刺す。

弱点も変わらず頭のようで、突き刺された異形のモンスターはすぐに静かになった。


-グッロ……-

-何オッサン、モンスターいたぶる趣味なん?-

-観察だろ-

-そこまでしなくてよくない?-

-探索者って皆こんなんなのかよ……-


視聴者(ウォッチャー)には刺激が強すぎたようだ。

“生き残るために必要なこと”と“エンタメ”は別物だ。

そして恐らくは、こういう地味な検証をしないままエンタメ性ばかりを追求した結果、探索者(ライバー)は誕生しては消えていく、のだろう。


あっちとこっち、などと分けたくはないが、やはり埋められない溝もあると言うことだろう。


「……やみくもに走り回りたくはないが、こうまで狂った地形だと、そうせざるを得ないな。」


刀についた血油を拭い、鞘に収める。

少しストレッチをして、周りを見渡す。


-あ、またアレ来るのか?-

-一旦画面から目を離すわ-

-終わったら合図してね-


まぁ、それくらいのサービスはしてやるか、と、コメント欄の流れを見て笑いそうになる。

この文化は本当に難しい。

気持ち悪く思う瞬間もあれば、苛立たしい瞬間もある。

そして、こうして何だか可愛く見える瞬間もあるのだ。

人間というものはどうしてこう、複雑なのか。


「おぉ、それじゃ今から全力で走り抜けるから、画面酔いしやすい人は画面から目を離してな。

次階層の階段に降りたら言うから、それまで音だけで我慢してな。

それじゃ、3カウントで行くからなぁ。

3、2、1、スタート!!」


全力でかっ飛ぶ。

マキーナも右目の能力をフルに活用し、走り抜けた場所の地図を埋めていく。

大都会、田舎道、地方の街並み。

次から次へと風景が変わるが、どこを走ってもビカビカのネオンとノリヤスの笑顔の看板が乱立している。


“ノリヤス、人気ナンバーワン”

“ノリヤス、世界が選ぶ最高の男”

“ノリヤス、ベストコスメ大賞受賞”

“ノリヤス、今年の顔ランキング1位”

“ノリヤス、推奨”


もう、何でもありだ。

一昔前にテレビのCMで見たような、ありとあらゆる詳細不明の賞を受賞している文言と共にノリヤスの笑顔やポーズも様々に変わっていく。


ただ、視聴者(ウォッチャー)の画面にはまともに映っていないようで、俺の忠告を無視した奴等が何人か悲鳴を上げているのが見えた。


「よっし、次階層への階段に入ったからね。

画面から目を離してた人も大丈夫だよ。」


-あ、終わった?-

-……マジで、気持ち、悪い-

-だから画面から目を離せとあれほど-

-何かノリヤスの看板ばかりだったね-

-オロロロロ……-


少しは耐えられた奴もいるようで、階層の異常性に気付いている奴もいるようだ。

次に降りた階層も似たようなものだった。

やはり全力ダッシュすることを伝えると、今度は殆どの視聴者(ウォッチャー)が素直に従っていたのには笑ってしまった。

やっぱり、こういうところがあるから憎めないのだろうな、とも思う。


「……おっとぉ、またこれはラッキー……と、言うべきなのかな?」


56階層に降りると、すぐ目の前に57階層への階段らしきモノが見える。

空は今度は真っ黄色で、ここでは長居しなくて助かったな、と思いながらも下りの階段にすぐに入る。


「……不規則(ランダム)マップとして生成されていて、尚且つ最初にその地に降りた人間の心象風景が元になっている、って事なんだろうか?」


-そうかも-

-そうなんじゃない?-

-ノリヤスの頭の中どうなってんだよww-

-そうなのかな?これ心象というより渇望じゃない?-


また考え事をしている時に、ふと口から出てしまったらしい。

配信文化だと、“考えていることを喋らないと視聴者(ウォッチャー)が理解できない”という基本がある。

だから考え事は全て口にするように訓練していたのだが、無意識レベルで染み付いてしまっていたようだ。


「渇望って、どういう事だい?」


でもそのおかげで、コメント欄も一緒に考察してくれていた。


-ノリヤスってさ、いつも“皆のナンバーワンになりたい”とかさ-

-“皆の記憶に残るくらい有名になりたい”とか言ってたんよ-

-あー、言ってた言ってた-

-何か、皆の応援が僕の力になる!とか力説してたよね-

-アイツ意外に色々考えて頑張ってたよね-

-ノリヤス様はいつも真摯に配信に向き合ってたよ-

-まぁ、あの頑張りは認めてやらんこともない-


ポツリポツリと、コメント欄がノリヤスの事を語り出す。

俺はそこに、アイツの心の光を見た気がしていた。

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