886:歓声の怪物
<勢大、あの右手の建物側に痕跡が続いています。>
マキーナに言われ、周囲を見渡す。
かなり大きい交差点、その右手側にある大きなビル。
マキーナが示す矢印は、そこを指していた。
「……あの建物の中に、次への入口がある、って所か?」
<正確には建物に入る手前、という所でしょうか。
ともかく、ルートを示します。>
交差点を渡り、右目に表示される進行方向を見ると、下りのエスカレーターが見える。
当然電源は入っておらず、歩いて降りる。
止まっているエスカレーターを歩いて降りると、何というかこう、気持ちが悪くなる。
動いていないのに、動いているような、動いていない違和感というか、何だかそんな感情が湧いてくる。
「……店の入口が、地下への階段になっているのか。」
降りて少し広い場所に出ると、立ち食いそばや夜はバーになりそうなカフェなど店が数店あるのだが、その内の一店舗の入口が、そのまま石造りの門に地下への階段が融合しているのだ。
あれでは誰も店に入れないだろうな、などと場違いな感想を浮かべながらも、入口にビーコンを貼り付けると地下へと降りていく。
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-コイツ何様?-
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-オッサンだって探索者じゃねぇか-
-ギフトポイント返せよオッサン-
-キモいキモいキモい-
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降りている最中、あぁ、想像以上に荒れてるなとコメント欄を見て思う。
まぁそれもそうだ。
俺がやったことは、言ってみれば全方位に喧嘩を売ったに過ぎない。
一度吐いた言葉は取り消せない。
ましてやこれは配信されている。
ネットワークに残るということは、いくらでも複製・増殖するということだ。
データ的な意味でも、そこに含まれる善意や悪意までも。
「ノリヤスは、“ここは自分の知っている世界”だと言っていたが……。
あれはつまり、ここはノリヤスの心が作った心象風景なのかな。」
別に視聴者を当てにした訳じゃない。
隣に仲間もいない。
ただ単純に、ノリヤスの事を考え、推測した時にポロリと口から漏れ出た言葉だ。
-どうだろう?その可能性はあるかもね-
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-タヒね4ねタヒね4ね4ね-
-51階層入った時、何か画面がグニョってしたよな-
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-ノリヤス様、最初えっ!?って言ってた-
-荒らしうるせえなぁ-
-やっぱこれ異世界に繋がってるん?-
-反応するヤツも荒らし定期-
コメント欄には変わらず怒りが渦巻いているが、中には冷静に状況を見ている人間もいるようだ。
「さっき、気持ち悪いと言って、見ている人達が気分を害したのなら、そこに関しては謝る。
だが、言葉自体を撤回する気はないよ。
きっとこういう文化は、最初は“やりたいからやる”だったり“楽しいことを共有したい”、はたまた“面白いものを見て楽しみたい”という純粋な感情が、その始まりだったんだろう。
でもそこに“誰かからの見栄え”だったり“名声”だったり“もっと強い刺激を”と様々な感情が乗っかった結果、何だか不純な、醜悪なものになっていっているような気がするんだ。
年寄りの愚痴かも知れないけどね。」
或いは金、かも知れないけどな、とは思うが、流石にそこは言わなかった。
それを言わなくても伝わるだろうし、伝わらないならそれでもいい。
コメント欄には、また嵐が吹き荒れている。
言葉の意味を受け取れずまた怒り出す者、同じく“謝る”の部分だけを切り取り勝利宣言をしだす者、無条件に同意する者。
本当に理解している者ほど、今ここでコメントを打たないのだろうな、と少し思う。
その存在を感じ取ることは、経験を積んでいないと難しいだろうな、とは思うが。
<勢大、周辺探知が効きません。
ここからは肉眼での警戒を。>
54階層にたどり着いた瞬間、マキーナが最大限の警報を鳴らす。
風景は先ほどの53階層と同じだ。
出現場所も橋のたもと。
ただ、空が異常だ。
空が一面の赤?いや、どす黒いピンクなのだ。
空を見続けていると目がチカチカする。
その上で地面や建物は自然な色合いをしているから、一見コンピューターグラッフィックの中にでもいるような気分になる。
「キャー!ノリヤスさまー!」
「素敵ー!抱いてー!」
「アタシのノリヤス様よー!!」
声のする方を見れば、女性?の集団が奇声を上げながら俺に向かって、両手を突き出して走ってくる。
「何だ!?何だ!?何だ!?」
刀を構えるが、斬っていいものか判断に迷う。
「止まれ!探索者なら探索者証を出すかドローンで表示させろ!!」
反応変わらず。
奇声を上げて走り寄るのみ。
「シッ!」
短く息を吐くと、刀を振るう。
一撃で、手前の2人の少女の首をはね、返す刀で後続の女性達を次々に斬り捨てる。
-あーぁ-
-何してんのオッサン!?-
-これサツ人じゃね?-
-迷宮法通りの対応だろ-
コメントに返事をする余裕などない。
最初の奇声を聞きつけてか、次々と建物の中や通りの向こうから女性が……女性ばかりなのが気になるが、狂ったように叫びながら俺に走り寄ってくる。
(マキーナ!こいつらは何だ!?)
<解析不能、全ての探知が反応しません。>
人間か、モンスターか。
それすらもわからないが、ただ、こうして襲ってきた者は全て敵だ。
こういう時、ソロで動いていると判断が早くて済む。
敵味方の判断をしなくて済むからな。
「……数が!多すぎる!!」
もう100人以上は斬り捨てている。
それでも、まだまだ勢いは衰えることを知らずに増え続けている。
「マキーナ!1番人数が多い方向を教えろ!!」
<探知不能。
ですが、勢大の視覚情報を観測した限りではあちらの方向です。>
先ほどの交差点、だが今回はさっきの右手の建物ではなく、まっすぐ正面から大量に来ているようだ。
「ならそこだ!ぶっ貫く!!」
一瞬の空白を利用し、刀を左手に。
右拳を握り込み、零歩神拳を目の前で炸裂させる。
強烈な爆風と熱、その後の吸引と冷却が一気に起き、女性の群れが引き寄せられる。
「飛び越える!!」
全力で跳躍し、交差点を一気に飛び越える。
その向こうに橋らしきモノがまた見えたので、そちらへ走り出す。
クソ、ノリヤスの奴め、後で文句を言ってやる。




