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異世界殺し  作者: Tetsuさん
電影の光
885/923

883:痕跡を追って

「……ここが俺の世界を模したモノか、それともノリヤスの世界を模したモノかは知らねぇが。」


俺は右拳を握り、胸に当てる。


「所詮は紛い物(・・・)だ。

なら、表じゃ使えねぇ方法だって取れる。」


右足を半歩後ろに引き、構える。


<通常モード、起動します。>


マキーナも、これからの事を想定して鎧を展開してくれる。

光の線が俺を包み、そしていつもの姿へと変わる。


-髑髏マンキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!-

-こ れ を 待 っ て た-

-でもここ何も無くね?-

-切り札切るような場面か?-


一瞬コメント欄が目に入るが、まぁわからなければそういう反応だろう。


呼吸を整える。

深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。


『シッ。』


最後に短く強く吐くと、地面を蹴る。

突きとは、詰まるところ大地を蹴る力が最も重要だ。


つま先、親指の付け根を思い切り地面に蹴り込む。

アスファルトはひび割れ、地面につま先がめり込みながらもその反動を足に返す。

足に流れる力を殺さず、膝を回転させることで更に加速、その力を腰の回転で更に加速させる。

腰で加速された力は背骨を伝い、肩を回すことで更に加速し続ける。

加速し続けた力を、肩の先にある肘へ、そして拳へ。

ミサイルのように放たれた拳は、周辺の空気を巻き込みながら前へと放たれる。


この時、よりコンパクトに拳の軌道をぶらさず打ち出し、“空気そのものを殴り飛ばす”感覚でピンポイントに拳を振り抜くと、空間そのものを押し出し百歩先まで空間をずらす(・・・)“百歩神拳”となる。


では、そうせずに“目の前の空間そのものを破壊する”事を選ぶとどうなるか。


-え?は?-

-これなんてマップ兵器?-

-有識者〜!-

-ごめんなさいわかりません-

-有識者が匙を投げたwww-


空間が破裂し、俺の突きによって指向性を持ったソレが、俺の前にある空間を薙ぎ払っていく。

コメント欄も、何が起きたのか理解ができずにいるようで、故障でもしたのかと思うくらい遅い流れになっている。


『どうせ迷宮(ダンジョン)では、時間をかければ地形も何もかも修復される。

そうじゃなきゃ、こういう荒業はできないだろうな。』


<通常モード、終了します。>


変身が解除される。

改めて正面を見れば、建物も何もかも、俺が突きだした拳を中心にして地面の一部や瓦礫、それに何かの残骸が左右に積み上がり、あちこちで火の手が上がっている。

揺らめく炎以外、そこに動くモノはなかった。

削り取った地面に降りると、俺は散策するように周囲を見ながら進む。


「お、あったあった。」


やはり迷宮(ダンジョン)、地下へと降りる階段にそこを守る壁はまるで損傷していない。

削り取られた地面や瓦礫にまざり、全く無傷でそこにあった。


-これ……チート?-

-いや、え?、いや、どうなんだろ……-

-同じことが出来るなら可能だけど……-

-変身がもうチートやんけ-

-変身能力すげぇ!マジで切り札じゃん!-


「失礼な。

不正行為(チート)なんかと一緒にしないでくれよ。

これは俺が鍛えて手に入れた力だ。

システム外から加えられた不正な力なんかじゃねぇよ。」


コメント欄で、どうしても許容できない単語(チート)があったので思わず文句を言ってしまった。

言ったあとで、“まぁ、常人では通常鍛えられない1億6千年間という時間は、ある意味でチートと言われても仕方ないかな”と内心では思っていたが、ややこしくなるから言わないでおく。

仮に他の人間にもそれだけの時間を手に入れたとしても、何もしなければ結局何も変わらないはずなのだから。


コメント欄は“チート連呼”勢と“探索者(ライバー)が嫌がってるんだから止めろ”勢でまた喧嘩を始めている。

配信枠の秩序を保つという意味では仲裁しなければならないのだろうが、何だか酷く呑気なやり取りに見えてしまい、そのまま放置しておく。

多分、俺も視聴者(ウォッチャー)側に回れば、この争いに参加しているような気もする。

この戦いがどう見えてようと構わない。

誰がどんな正義感を振り回そうが構わない。


それよりも今はノリヤスだ。

アイツが消息を絶った53階に、ようやくたどり着いたのだから。


「……少し、風景が変わったな。」


先程までの、のどかな駅前の風景ではない。

俺はどこかの都心部の、でかい橋の前にいた。


(かち……駄目だ、文字がかすれてるのかよく見えないな。)


橋の名称が欄干に書いてあるようなのだが、錆びているのか削れているのか、よく読めない。

橋自体は途中に何か装置がついているようだが、ボロボロに錆びついていて動かせるようには見えない。


「ずいぶんと広い……しかし、ここも静かだな。」


何故静かなのかは、橋の上を歩き出して気付いた。

いくつかの車も乗り手なしで放置されているのだが、その車に戦闘痕らしきモノが多数ついていた。

中には爆発したのか、いまだに炎を上げて黒い煙を立ち昇らせている車両まである。


「何かと戦闘になり、こっちへ移動しながら戦った……。」


推測しながら橋の上を進む。

橋を通り抜けると、近くのファミレスとマンションの入り口が大きく破損しているのがわかる。


「ここで戦って、キリがないと感じたのかあの中へ……。」


コメント欄も何か活発に動いているようだが、今はそちらに目を向ける余裕はない。

何か重要なコメントがあればマキーナが教えてくれるはずだから、多分視聴者(ウォッチャー)も憶測でしか語れていない、というところなのだろう。


「1階のファミレス内に物音、戦闘中って訳じゃなさそうだな。」


足音を殺し、そっと入口近くに寄る。

内部には鳴き声なのかうめき声なのか、低い唸り声のような音を出しながらフラフラと歩き、砕けたガラスを踏み荒らす歩く死体(ゾンビ)の姿がある。


(戦いながらここに逃げ込んで……。

あのマンションの反対側からも奴等が集まってきてたみたいだな。

と、いう事はだ……。)


静かに入口付近から離れ、周囲を警戒しながらマンションの裏手側に回る。


想像通り、通路には奴等がぎっしりいる。

その上を見れば、4階か、5階部分か?

一部の窓ガラスが割れており、ちょうど1体のゾンビが地上に向けて落下していった。


(戦いながら上に登り、あの辺から窓を割って近くの川の上……あの辺の船の上に脱出、かな?)


そのまま移動できそうな場所を目算で想像し、その場を離れる。


「多分……あの川を越えて移動……するかな?

あの川向こうの立体駐車場か?あの辺怪しそうだな。」


人があまりいなさそうで、周囲から見えにくい。

しかもいざとなればどの方向にも逃げられる。


何となく、俺がひと休みするならあそこを使いそうだな、と感じて、そこに足を向ける。

まだ間に合うことを信じて。

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