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異世界殺し  作者: Tetsuさん
電影の光
882/926

880:見世物の迷宮

-すげぇ-

-え?今何分?-

-これスキル使ってる?-

-“身体強化”や“攻撃力上昇”とか、それ系のスキルは使ってないね-

-素の身体能力でこれってマ?-


「ハイここで扉を開きますが、すぐには入りません。

10分以内にボス部屋に到達している時のみですが、この、右の壁を3度、強めに蹴ります。」


コメント欄が混乱しているのもお構いなしに、俺は扉を開けて壁を3回蹴り飛ばし、そして刀を構えてボス部屋に入る。

そこには既に出現している岩石巨人(ロックゴーレム)が背面を向けており、弱点の(コア)を刺突して破壊する。


「すると、岩石巨人(ロックゴーレム)の登場演出をキャンセル出来て、しかも乱数も調整されて後ろ向きで出現するパターンに固定できます。」


-は?え?-

-え?チート?-

-うわ、あのピエロの技じゃん、ライブで初めて見た-

-ピエロis何?有識者ー!-

-ggrks-

-2代目か3代目の勇者の称号だっけ?-

-“狂乱の道化師(マッド・ピエロ)”、2人目の転生者にして31階層没の二代目勇者、単独行動を得意とし、30階層までを完全把握しているだけでなく、迷宮(ダンジョン)の不具合までも把握しており、いくつかの不具合利用(グリッチ)行為も確認されている、しかし、31階層で何故か初歩的な罠に引っかかりそのまま絶命、蘇生が間に合わず迷宮に取り込まれている-

-長文乙-


「このまま、20階層のボスまで20分以内……今まだ5分くらいなので、少し余裕を持って行動できます。」


コメントにいちいち回答している暇はない。

チラと見れば、俺が今参考にしている二代目勇者と呼ばれた奴の話題で盛り上がっているようだ。


多分、こんな事を知っているということは例の神を自称している少年から不正能力(チート)をもらった転生者だったのだろう。

資料を読んでいて、“いやそれ知ってるのはおかしいやろ”とツッコミを入れずにはいられなかったものだ。

多分、迷宮の構造を完全把握するような能力か、或いは事前知識を得られる能力なのか。

それにしては、31階ですぐに罠にかかって死んだ、というのは気になっていた。

流石に体が持たずに疲れが出て、イージーミスをやらかしたか。

それとも、ピエロ君がこの世界に来た時にはまだ30階までしかなく、迷宮(ダンジョン)が成長することで彼の知らない階層が増えていたか。


もしくは“31階からは何者かに書き換えられていた”か。


どれもあり得そうだが、それを考察する余裕は俺には無い。


「ハイ、20階のボス部屋が見えてきました。

ここは、扉をぶち破る勢いで一気に突撃します。」


20階層のボスモンスターは粘液騎士達(スライムナイツ)


だった。


入った瞬間、スライム達が騎士の形を作る前に、その(コア)を全て両断する。


「こういう時に、素早くコアを断ち切れる刀は重宝します。

この世界だと筋力重視ですが、機動力と筋力を併せ持つ探索者(ライバー)さんは、刀を使うのも悪くない選択肢だと思います。

まぁ、最初は“刃を立てる”のが凄い大変ですけどね。

さて、次のゲートが開いたのでまた走ります。」


もう、コメント欄はあっけにとられたような単語しか流れていない。

俺はそのままゲートをくぐると、地下のはずなのに青空が広がる空間に出た。

上だけじゃない。

横も下も、どこまでも青い空が続いている。

空中には点々と岩が浮かんでおり、それを足場に移動する仕掛けだ。


「ハイ、ここはそのまま進むと横や下から突風が吹き荒れて大変困難ですが、ここで刀のスキル、“突進”を使います。」


残念ながら、俺はそんなスキルは使えない。

ただ、事前に調べた刀のスキル一覧表に、“突進”という技があるのは見ていた。

刀を水平に構え、一定距離を突進するスキル。

その突進中には、外的要因の影響を受けない必殺技、と書いてあった。

その動きを、俺の身体能力で真似すればいいだけだ。


「突進!突進!ホイ突進!

……も一つオマケに突進!」


-いやそんなに連発出来ねぇって-

-中堅くらいになればできるけど……その後ポーション必要よね-

-初期スキルの突進を移動に使うとは盲点でござった!-

-セーダイは刀愛好会の名誉会員にすべきでは?-


何だか妙な盛り上がりを見せているが、とりあえずその辺のことは放置だ。

次々に足場を移動し、ゲートを潜り続け30階層のボスへとたどり着く。

不思議と、この階層には上下がない。

横移動しゲートを越え続けるだけで、“◯◯階”判定されるらしい。


「ここのボスは先ほどのように突撃するといきなりダメージを食らうので、ゲート前から武器をぶん投げます。」


全身の力を込めて、刀をゲートに投げつける。

切っ先を向けたまま、一直線にゲートに吸い込まれたのを見て、俺もすぐにゲートをくぐる。


「すると、探索者(ライバー)を待ち構えていた霊鳥(ガルーダ)に投げた武器が刺さっていますので、それで安全に……ありゃ、倒しちゃってたか。」


投げた刀は、霊鳥(ガルーダ)の脳天に深く刺さっていた。

偶然にも一撃必殺(クリティカル)が出たらしい。


-ってか、まだ30分くらいしか経ってなくね?-

-マジの新記録出てる件について-


チラと視界に映るタイマーに目をやれば、27分と少し、といったところ。

ここまではある意味で予定通りだ。

先人の攻略法もあったしな。


さて、本題はここからだ。


「次の31階からは、不規則(ランダム)階層となりますので、流石にここまでのような特殊条件は使えません。

……なので、物理で総当たり、をやっていきますので、画面酔いに注意してください。」


ゲートに飛び込むと、更に勢いをつけて走り出す。

ここはまたジメジメとして薄暗い洞窟の風景に戻るが、視覚情報を強化している今の俺には関係ない。

薄暗かろうが全力で走り、たまに壁を蹴りながら階層を爆走する。


-オロロロロロ……-

-なんで全力で走れるの!?-

-やば、画面酔いが-

30階層なのに10階層の雑魚と同じ感覚で倒しているんだが-

-もう少しゆっくり走ってくれない?-

-段々モンスターに同情してきた-


好き勝手なことを言う。

いや、これが見ている世界の違い、という事なのだろうか。

俺としては、今は1分1秒でも惜しい。

1秒でも早くノリヤスのもとにたどり着ければ、それだけ生存の可能性が上がる。

だが、もう今この配信を見ている視聴者(ウォッチャー)達には、これがただの娯楽(エンタメ)になっている。


金を払っているのかもしれない。

純粋な応援の気持ちもあるのかも知れない。


それでも。


必死に戦う探索者を、安全な場所から見て楽しむ。

その文化に、俺は少し背筋が寒くなる思いを感じていた。

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