878:送り出す背中
「うぉっし、お前等!この後は別枠に移って、いつもの雑談枠やるからな〜!!
今回の探索も、付き合ってくれて産休、おっと、サンキューだぜって、これ喋りだと伝わらねぇなぁ!!」
「ハイみんな〜、今のはリーダーのいつものだからね〜。
(笑)とか、わーすごーい(棒)とか、色々褒めてあげてね〜。
それじゃまた後でね、おつアルスル〜!!」
ノリヤスとのコラボ探索からそれなりに時間は経っていた。
あの後、初の星への道攻略ということで管理局からも連日呼び出されて迷宮情報を詳しく説明させられたり、管理局が主催する、いわゆる“公式情報局”に出演させられたりと、慌ただしい日々を送っていた。
キルッフ達もそれなりに登録者が増え、探索者としてのランクも上がりスポンサーになりたいという企業や、新武器の試用案件などのオファーもいくつか舞い込むくらいには、チームとしても認知拡大、成長していた。
ただ、良いことばかりではない。
星への道での立ち回り、主にノリヤスと俺達パーティーとの齟齬をはらんだままのあの戦いが、そこそこ炎上していた。
いや、炎上というよりは議論だろうか?
ともかく、あの戦いを“既存パーティーに臨時加入しておきながら和を乱す行動を取り続ける迷惑探索者”としてノリヤスを非難する者と、“圧倒的エースを生かす戦いが出来ない未熟なパーティー”として俺達を非難する者とで大きく割れ、未だに議論の尽きない話題となっていた。
キルッフとしてはせっかくコラボをしてくれたノリヤスを擁護したいと考えていたようだが、エクターからの“全ての人間にそれぞれの立場や視点、そして正義があり、1つに束ねる事は不可能だ”と諭された事で、この件に関してはパーティーとして放置を決め込み、問われても“良い戦いだった”としか言わないように決めていた。
そしてノリヤスの方も、少しだけ変化があった。
今回の探索、良くも悪くも人々の話題となった。
そして、あまり有名でなかったキルッフ達鉄壁も有名になった。
その結果何が起きたかと言うと、無名ながらも実力はあるはずだと信じているパーティーからコラボの申し込みが殺到し、またノリヤスも“有名パーティー製造人”と自称し始め、嬉々としてそれに乗っていった。
ただ、それが良くなかった。
実際には、ノリヤスのスタンドプレーに拍車がかかり、コラボしたパーティーからの不評は後を絶たず、じわじわとネットの中でその声が広がり続けていた。
結果として、少しずつノリヤスを支持する声が減っていき、中堅以上のパーティーは見向きもしなくなり、更にスタンドプレーが目立つ、という悪循環に陥っているようだ。
最近では、コラボ先のパーティーから負傷者も続出しているということで、ますます落ち目になっていっているという噂も聞こえてきていた。
「はぁい、それじゃ今回の探索の反省会兼、雑談を始めていきま〜す!ハイ拍手〜!!」
-88888-
-お疲れお疲れ〜-
-キルッフ今回もギャグが無ければ完璧だったな-
-アルスルちゃん可愛い-
-トリース様に踏まれたオークが羨ましすぎる-
-相変わらずいぶし銀エクターやったな-
コメント欄の流れもかなり早くなった。
ここまで来ると、もう個別にコメントを拾っていられない。
大体の流れの中から、全体としてのコメントの総意というか、多かった意見をまとめて拾って答えていくのだが、皆それが板についてきたというか、うまく流れていっている。
まぁ、俺としてはそういうのはマキーナに任せっきりだが。
「おいおい、鳩行為は御法度だぜ?」
コメント欄を見て答えていたキルッフが、ふと何かを見て少しだけ厳しい口調で回答している。
何を見たんだ?と疑問に感じると、マキーナが1つのコメントをピックアップした。
-ノリヤス様がピンチなの-
キルッフの回答で、少しコメント欄が荒れ出す。
“鳩行為”とは、探索者の配信で他配信の情報を持ち込む行為のことだ。
それが“伝書鳩”と揶揄された事から始まり、現在は基本的に禁止されている行為だ。
探索者同士を比較することにもなるし、またこういう救援要請は管理局に連絡することであり、他の探索者にそれをやってしまうと二次遭難の可能性があるからだ。
「えぇと……ペロペロチュッチュさん、あぁ、ノリヤスさんの所の人か。
でも、探索者がピンチの場合は管理局に通報してな。
そう言うのはあっちが専門だしな。」
-管理局にはもう通報したけど、時間がかかるって-
-鳩しつけぇよ-
-ノリヤス最近おもんないしなぁ-
-止めろって言われてるだろ-
-鳩にかまう奴も荒らし-
-自治厨も荒らし-
-↑オマエモナー-
(マキーナ、ノリヤスの状況は?)
ペロペロ某氏は、ずっとノリヤスを応援している視聴者だったはずだ。
こういう鳩行為が禁止されていることくらいは知っていておかしくない。
にも関わらず、こうして助けを求めてると言うことは相当な事態が予想される。
<ノリヤス氏は現在探索配信中のようですが、画像・音声共に止まっているようです。
“大挑戦!単独原初アタック!”というタイトルのようです。>
マキーナが俺の右目に映像を映す。
先ほどマキーナが読み上げたタイトルの配信で、画面上は“No Signal”の文字が中央にある以外何もない。
コメント欄が動いているので、辛うじてライブ中だとわかる。
(管理局の動きは?)
<通常通り、捜索隊の募集が始まっています。>
まぁ、迷宮に潜れるのは、同じ探索者だけだ。
結局、遭難報告を受けた後から探索者を編成して作戦を立て、そこから探索が始まる。
急を要する場合には、まず間に合わない。
「……キルッフ、あのさ。」
「セーダイでも、ダメなモノはダメだ。
これはパーティーを守る為でもある。」
言いかけた俺の言葉を、キルッフがピシャリと切る。
それはそうだ。
キルッフの立場なら、必ずそう言わなければならない。
それでも、わざと強調してくれたことには、感謝しなければならないだろう。
「……そうか、実は前々から考えていたんだが、このパーティーを抜けようと思っていたんだ。
今まで世話になった。」
一気に加速するコメント欄。
しかし、キルッフ達は穏やかに笑っていた。
「おぉ、お前なんかどこにでも行っちまえ。」
「セーダイさん、後で追いつけたら追いつくよ。」
「残念ね、アンタがいてくれたからこれだけ視聴者も増えたのに。」
「どうやらノリヤスの奴は、未踏破領域にまで行ったらしい。
……気をつけろよ。」
パーティーメンバーの声を聞きながら、俺は立ち上がる。
「さて、雑談会はここらでお開きだ。
お前等、この後セーダイの本気のソロアタックが見られるからな。
見逃すんじゃねぇぞ!!」
俺は手を上げて別れを告げると、原初と呼ばれる迷宮に向けて走り出していた。




