877:勝者のかたち
「ナム・ヒコサチノミコト!我願う、友を護る盾!!」
エクターが叫びながら盾を構えると、盾が光りだして大きく広がっていく。
「アクセラレート・ガルーダ!!」
トリースが叫ぶと、足と背中に機械的な加速装置らしき物が出現し、俺でも肉眼では捉えきれないほどの速さで走り出す。
「母なる大地よ!我等を不浄から遠ざけ給え、我等に御身の守りを与え給え!!」
アルスルも魔法の力で、俺達をカバーする。
『おっと、見とれてても行けねぇや。』
軽くメイスを振るうと、振り注ぐ黒い衝撃波を次々と叩き、かき消していく。
「総員傾注!敵を見よ!!」
キルッフの号令が聞こえると、黒い衝撃波がより強調されたようにしっかりと捉えることが出来た。
これも、キルッフのスキルと言うことなのだろう。
『何にせよ、今のこの状況ではありがたい!!』
尚も振り注ぐ黒い衝撃波を叩き落としながら、ノリヤスの方に意識を向ける。
「くっそ!……この!この!!」
衝撃波の狙いが最も激しいのは、やはり攻撃した張本人であるノリヤスの方だ。
大剣を軽々と振り回し、次々に衝撃波を撃ち落としてはいるが流石に間に合っていない。
少しずつダメージが入っているのが、遠目にもわかる。
「セーダイ!!」
キルッフが俺を見て叫ぶ。
その目を見て“こっちは対応するからヤツを頼む”という意思を受け取った。
『任された!!』
俺は全力で走ると、ノリヤスの背面に迫る衝撃波の1つにメイスを投げつけて打ち消す。
『まだ来るぞぉ!!』
一斉に降り注ぐ黒い衝撃波。
ノリヤスの背後にたどり着いた俺は、剣を抜く間も無いことを悟り、拳を固める。
[ヒョッヒョッヒョ、悪い猟師を2人しか討ち取れなかったか。
残念じゃのぅ。]
『いや、討ち取られるのは、狼が化けた悪いババァの方だぜ?』
土煙の中から飛び出し、魔女の懐に飛び込む。
右拳を開き、掌底突きの構えをとる。
百歩神拳の練習中に出来た失敗作。
空気を、空間を押すのではなく、その場で凝縮させ破裂させてしまった、失敗の技。
だが、今はそれの方が丁度いい。
『百歩神拳改め、零歩神拳。』
ただの一瞬。
1秒にも満たない突きを放つ。
ただそれだけで、圧縮された空気はその場で高熱となり、掌底の先が青白く発光する。
閃光、爆発、轟音。
掌底の位置を調節し、その全てを黒いモヤを纏う魔女に向ける。
[──!?──ッ!?]
何かを叫んでいるようだが、言葉はもう発せない。
衝撃波が黒い霧を吹き飛ばし、それとともに高熱が魔女を襲い目の前にある可燃物に引火する。
魔女の全身が火だるまになった次の瞬間、膨張した空気が熱を奪い、焼け焦げた魔女が霜をまとい凍りつく。
[……うぉのぉれぇーー!!]
凍った魔女の体が中心から裂け、どう見てもその婆さんの体に収まってないだろうというサイズの大きな人狼が這い出してくる。
「チャンスは逃さない!!
くらえ!フェイタル・スタッブ!!」
ノリヤスが一気に間合いを詰め、老婆の残骸から抜け出そうとしている人狼の頭に、大剣を突き刺す。
剣の幅が広いだけに、それは最早突き刺すというよりは分断する、という表現の方が合っている。
人狼は上顎から上が宙に飛び、その目は“何が起きたか理解できない”という風に驚愕の表情で大きく開かれている。
上半分の頭部が地面に落ちると、まるで連動しているかのように残りもドサリと地面に倒れる。
「やったか!?」
いやいやキルッフさんよ、ここでそんなフラグっぽいことは言ったらアカンて。
まぁ、そんな“実は更なる形態が〜”と言うような事態にはならず、ボスモンスターはゆっくりと砂のように、灰のように色が抜けながら崩れていく。
『マキーナ、もういいぞ。』
<通常モード、終了します。>
俺の体を光が包み、元の姿に戻る。
-すっ……-
-すっげえエエ!!-
-初討伐?初討伐だよね?-
-8888888-
-ノリヤス様マジかっこいい!-
-あのおっさんの技何?有識者〜!-
コメント欄も、加速が止まらない。
ボスモンスターを倒したからか、薄暗かった森も心なしか明るくなっており、先ほどまでボロ家があったところには転送用の魔法陣が光っている。
「セーダイさんさっきのスキルはどのマスタリーから覚えるんですか!
僕も使えるようになりますかね!?」
「あー、ノリヤスさん。
ちょっとその辺は、この迷宮出た後で、また別枠立てて座談会的な感じでやりましょうよ。」
何と答えようか悩んだ瞬間に、キルッフからナイスタイミングで助け舟を出してくれる。
「あ、そ、そうですよね!
とりあえず戦利品回収して、ここを出た方がいいですよね。」
ノリヤスの目はやや本気だったが、まだ迷宮の中、しかも配信中と言うことを思い出したようで、すぐに踵を返す。
「やれやれ、決めたぞセーダイ。
俺達はもうノリヤスとのコラボ配信は受けないからな。」
ノリヤスが他のメンバーと一緒に、ボスモンスターの残骸から何かを探しているその姿を見ていると、背後からキルッフに声をかけられる。
「……まぁ、それも仕方ないことだな。
アイツそのうち、誰とも組めなくなるかもな。」
俺とキルッフは、少し複雑な顔で陽気にはしゃいでいるノリヤスの後ろ姿を見つめていた。
「いや〜、今回の探索はありがとうございました!
鉄壁の皆さん、本当に噂通り安心して背中を任せられる凄いパーティーでした!!
視聴者のみんなも、鉄壁の皆さまの登録も忘れずに!!
それでは、またね〜!!」
その後、迷宮を抜けた俺達は、管理局に戻る前に近くの落ち着ける広場で休憩しつつ、別枠の座談会の撮影をしていた。
結局、マキーナを使った変身に関しての話題と、俺が最後に使った技に話題が集中していて、道中の気になったことやノリヤスの素行に関しての注意はしなかった。
キルッフから、“余計な波風は立てないほうが賢明だ”と言われていたのも大きかったが。
他のパーティーメンバーも、こういう手合いとのコラボには慣れているらしく、どこか浮ついたお世辞が飛び交い、傍目には円満に終わっていた。
「セーダイ、お前の気持ちもわかるんだけどな……。」
管理局で探索結果を報告し、あれこれと手続きを終えてようやく解散となった後、俺が1人になったタイミングで、キルッフがそう話しかけてきた。
「……リーダー、俺だってそれなりにいい歳だ。
処世術の1つや2つは経験あるさ。
こういう時は、穏やかに静かに離れるに限る、だろ?」
キルッフは少しだけ疲れたように笑うが、その通りだと頷く。
「まぁ、俺の存在が面倒事を呼び込んだって側面もあるしな。
1杯奢るから、それでチャラにしてくれるとありがたいね。」
「え?なになに?セーダイさん奢ってくれるの〜?」
「アラ、今回大活躍の英雄サマに奢ってもらえるなんて光栄ね。」
「セーダイ、1杯だけなんてケチ臭い事は言わないよな?」
俺とキルッフの内緒話のつもりだったが、パーティーメンバー全員に聞かれていたようだ。
「お、お手柔らかにお願いするよ……。」
俺は苦笑いをしながらも、久々に胸の中に暖かいものを感じていた。
ちょっとゴールデンウィーク期間、お休みをいただきます。
次回更新は5/12(火)の午前3時更新……出来たら良いな、の感じでよろしくお願いします。




