876:魅せる戦い
「必殺!ストライクスマァッシュ!!」
これまで見せてこなかったが、アレはノリヤスの……と言うより、この世界の剣士のスキルみたいな技なのだろうか?
刀身が白く発光した大剣をノリヤスが振ると、光の弧を描く衝撃波が発生し、目の前の小さなボロ家に命中する。
「はっはぁ!ノリヤス様の一番乗りぃ〜ってね!!」
「……。
仕方ない、俺達はいつも通りの陣形で行くぞ。」
チラと見ると、キルッフは若干疲れたような表情をしている。
まぁそれもそうだろう。
直前の打ち合わせも最終的な連携確認も無しに、いきなり飛び出してこの有様だ。
チームリーダーなら、頭を抱えたくなるだろう。
ただ、その辺は即席パーティーとは違う強みだろう。
皆、“ノリヤスはいないもの”と再認識し、すぐに戦闘態勢になる。
[ヒェッヒエッヒェッ……。
ずいぶんと騒々しいお客様だね。]
土煙が収まりはっきりと見えるようになると、そこには無傷のボロ家が、先ほどと同じ外観のまま建っている。
「ちぇー、風が吹いたら潰れそうな家だったのに、効果なしかぁ……。」
[おぉ、おいで赤ずきんや。
そんな怖そうな猟師を連れて、どうしたんだい?]
<勢大、来ます。>
次の瞬間、何もない虚空から、魔人狼が飛び掛ってくる。
過去に見た映像の通りだ。
幸い、マキーナの警戒で戦闘態勢に移っていた俺は、虚空から出現した直後の魔人狼の頭をメイスで叩き潰す。
「マキーナァッ!!」
<通常モード、起動。
ブーストモード、続けて起動。
ブーストモードセカンド、更に起動。>
流石マキーナ、良い反応だ。
俺の体を光が包み、変身した瞬間に周辺の空気が真っ赤に染まる。
時間停止にも近しい高速移動、しかも今現在は空気の粒子を体がすり抜けるセカンドモードだ。
物理的には触れない。
だが、その代わりに空気抵抗すら無視して動ける。
すぐにパーティーの方を振り向くと、割とギリギリだったと思い知らされる。
エクターとキルッフの2人は、全く想定外だったようで魔人狼が大口を開けて今にも喉笛に噛みつこうとしている瞬間だった。
トリースとアルスルの2人には、何か黒いモヤのようなものが振りかかろうとしているのが見えたのだが、こちらは物理的なものではなく、魔法の類のようだ。
『とりあえず、まずは脅威の排除だな。』
大地を踏みしめ、構える。
<ブーストモードを切り替えます。>
マキーナがブーストモードを切り替えると、途端に空気の力で全身を固定され、その重さに動きづらくなる。
『百歩神拳、乱れ打ち。』
異世界を渡り歩く前の、“原初の平原”と呼ばれた場所で2億年近くかけて身につけた技術。
百歩先のろうそくの火を吹き消すその妙技で、俺はパーティーメンバーに襲いかかろうとしている魔人狼、それに黒いモヤを打ち抜く。
<ブースト限界時間です。>
「うぉ!?」
「なっ!?」
「キャッ!?」
真っ赤に染まっていた視界に色が戻り、世界が動き出す。
2匹の魔人狼は出現と同時に頭を吹き飛ばされ、そして覆い被さろうとしていた黒いモヤは掻き消える。
魔法とはいえ何か物理的に影響を及ぼす系だったようで、魔法をかき消せたことにホッと胸をなで下ろす。
「セ、セーダイが助けてくれたのか?すまねぇ。」
変身した俺の姿と吹き飛んだ魔人狼の残骸を交互に見て、キルッフは喉を鳴らす。
『多分、今のこれがあの映像の真実、ってやつだろうな。』
「あっ、ノリヤスは!?」
アルスルの声で、そう言えばと慌てて振り返ると、ノリヤスが今まさに魔人狼を真っ二つに斬っているところだった。
「ヒューッ、どうよ皆?僕にかかるとこんな不意打ちも……あ、パーティーの皆!?」
振り返ったノリヤスと、俺の目が合う。
-ドクロマンキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!-
-え?誰これ?-
-あー、こういう造形になってるんだ-
-これで勝つる!-
-何々?新しいモンスター?
コメント欄もまた騒がしくなる。
どうやら知らない内に、俺のこの姿は“ドクロマン”という風に名付けられてしまっているらしい。
まぁ、訂正しても更に余計なあだ名がつくだけだからと、俺はコメント欄は見て見ぬふりをしていた。
『待て、俺だ。』
すぐに警戒態勢に入ったノリヤスを制止して、仮面の顔部分を急ぎ展開する。
ガチャガチャと音を立てて割れた仮面の中から俺の顔が見えたことで、ノリヤスは軽くショックを受けているようだった。
「セ、セーダイさん?その格好は一体……。」
「説明は後だ。
ヤバそうなのが来るぞ。」
俺はそれだけ言うと、また仮面を元通りに展開する。
俺の視線の先には、真っ黒い霧のような物が集まり、球体を作ろうとしていた。
何かの攻撃魔法か、それとも別の何かか。
何が来ても対処できるように、全員が身構える。
ただ1人を除いて。
「もったいつけて現れようとしてるけど、そういう隙だらけの瞬間、見逃すわけには行かないよねぇ〜!!
喰らえ!“サウザンドスラッシュ”!!」
俺達は誰も動かない。
驚きもしない。
正直、俺には“やるだろうな”という予感があったが、まさかキルッフ達も同じ気持ちになっていたとは思わなかった。
「アルスル、精神異常耐性の補助魔法をかけろ。
それが終わったら敏捷性上昇もだ。
エクターは耐久上昇のポーション使え、トリースも敏捷性上昇だ。
セーダイ、さっきみたいにヤバいのが来たら打ち落としてくれ。」
キルッフはどこまでも冷静だ。
先ほどの攻撃から、今必要な戦術を即座に組み立てている。
ノリヤスのアレを呼び水として、敵の出方を図ろうという考えなのだろう。
「いっけぇ〜!!」
ノリヤスのスキルで、空中に無数の光る斬撃波が浮かぶ。
中央の黒い球体は、縦に伸びて円柱のような形状になっていたが、ノリヤスの掛け声と共に次から次へと衝撃波が切り裂き、また形を失っていく。
「……なんだ、もう終わり?
え〜、あっけなぁ〜い!!」
加速するコメント欄は、もう目では追えない速度になっている。
ノリヤスのド派手な技を称賛する言葉と、呆気なくかき消えた黒い影への落胆の罵声が飛び交い、混沌としているようだ。
『……来るぞ。』
[ヒョッヒョッヒョ、悪い子だぁ〜れだ。]
老婆の声が聞こえたかと思うと、空中に無数の、それこそノリヤスが放った数の何倍もの黒い衝撃波が現れる。
「え?マジ?」
ノリヤスの呟きが聞こえた直後、一斉に衝撃波が俺達に振り注いでいた。




