875:交わらない正しさ
「どうした!?……いや、今は回復が先だな。
アルスル、頼む。」
焦っていても流石はリーダーだ、キルッフはすぐにそう判断を下すと、周辺を見回す。
アルスルも驚いてはいたが、すぐに駆け寄ってエクターに回復魔法を使い始める。
「トリースさんは……気力切れ、ですね。」
ノリヤスも固定パーティーを持たないとはいえ、流石は探索者だ。
すぐにトリースの容態を確認している。
「……戦いながらここに逃げ込んで、とりあえず撃退した、ってところかな。」
俺もキルッフと同様に周辺警戒をするため、この行き止まりと思われた空間をぐるりと回る。
エクターが座っていた岩の奥、行き止まりの壁に、歴史の教科書で見たことがあるような石造りの門に重そうな木の扉が見える。
<この扉そのものが、私の探知には反応していません。>
「……ボス部屋への入口、だろうな。」
つまりこの場所、この扉の先にあるのは恐らくただの岩肌だ。
それが、何らかの力で空間が捩じ曲がりボスのいる部屋に繋がっている、と言う事なのだろう。
「落ちてる魔原石は7個、6個は人狼で1個は魔人狼ってところか?
エクター、お前耐えたなぁ。」
「俺は耐えただけだ。
倒すために、トリースには全力以上を使わせちまった。」
向こうで、キルッフ達が話す声が聞こえる。
盾役と遊撃役の2人だけで、7匹のモンスターを相手にするのは大変だっただろう。
攻撃と防御で相性は良いとはいえ、いかんせん手数が足りない。
それでもトリースに目立った外傷が無いのは、エクターの奮戦あってのものだろうとは思うが。
「やっぱ鉄壁の皆さん凄いッスね!!
前のパーティーの人達だと、ここまで来れなかったし、脱落者も出てましたから!」
無邪気にそう言うノリヤスに、流石にキルッフ達も渋い顔をしている。
ノリヤスは褒めたつもりだろう。
誰の目にもそれは態度でわかる。
だが基本的に、特に探索者同士は、お互いを比較しないし話題にも出さない。
それがあからさまに格下の相手であってもだ。
その発言は無用な論争を生むだけで、他に良いことが全くないからだ。
「おいおい、褒めてくれるのは嬉しいが、他所様の事を引き合いに出しちゃいけねぇぞノリヤス。
オメェさんは強いんだ。
そのオメェさんに比べりゃ、俺達だって大した強さは持ってねぇんだからよ。」
微妙な空気になりかけていたところを、我関せずと言う顔で割って入る。
「それよりも、奥の壁にボス部屋への入口っぽい物を見つけたぞ?
幸か不幸か、どうやらエクターとトリースが逃げ込んだここは、ボス部屋前の安全地帯って事なんだろうな。」
-おぉー!遂にここまでキターーー!-
-え?すごない?-
-なんかノリヤスって……-
-フルメンで生き残ってるなら、攻略出来るかも?-
-これ攻略できたら快挙だべ-
少し荒れそうな空気を見せていたコメント欄も、俺の発言で一気に加速する。
「え?遂に見つけたんですか!?
……ってかおかしいな?
気付いたらセーダイさんの画面、リンク切れてますね?
まだ調整中の試作機だから、何か不都合があったのかな?
あー、僕もその画面最初に見たかったなぁー!」
どうやらノリヤス的に、肉眼でも画面でもいいから、自分も一番に見たかったらしい。
「おぉー!これが例のボス部屋の扉だよ皆!見えてる!?
すっげ!やっぱこの瞬間が一番ドキドキするよねー!!」
すぐに俺が伝えた場所に走っていくと、まるで子供のようにはしゃいでいる。
リンクを繋げ直した画面で見てみると、コメント欄も久々の到達者が出たことに大盛り上がりしている。
「セーダイ、言いたいことはわかるが、探索者としてはアレが正しい。」
オーバーなリアクションではしゃぎ、まるで自分が第一発見者かのように騒ぐノリヤスに、流石に文句の1つでも言ってやろうかと、一歩足を踏み出したところでキルッフに止められる。
「……なんでだ?
ここまで欠員無しで来れたのは、パーティー皆の力があってこそだろう?
それから、あの喜びも、俺達全員で混ざったっていいだろうが。」
「……へへっ、そうカリカリすんなって。
お前の元いた世界じゃわからねぇけどよ?
この世界じゃ、俺達が大きくのし上がるにはこういう手段も必要なんだよ。
お前という話題性や、アイツの人気。
乗っかれる時に乗っかる奴が、一番賢いってわけだ。」
キルッフのその笑い顔は、あまり見たい種類のものではなかった。
強い者、権威がある者に媚びる、卑屈な笑顔。
ただ、それを咎めることは俺にはできない。
俺も、その“話題性”の一部なのだから。
「……すまない。
少し、感情的になり過ぎていた。
エクターとトリースは大丈夫なのか?」
「あぁ。」
「流石にアタシもヤバかったわ。
川の向こうでお婆ちゃんが呼んでいたんだから。」
回復が終わったエクターと、意識が戻ったトリースが装備の状態を確認しながら、穏やかに返事を返してくれる。
皆思うことはあっても、それを言わないでいてくれていたようだ。
「……いやお前の婆さんまだ生きてるよな?」
「キルッフ〜、そう言うのはトリースちゃんの気遣いなんだからスルーしなよ〜。」
いや生きてるんかい。
思わず笑ってしまうと、キルッフ達も釣られて笑い出す。
少しだけ、俺もこのパーティーの一員になれた気がしていた。
「あ、エクターさんもトリースさんも復活したんスね!!
それじゃあ、いよいよボス退治と行きましょう……って、皆さんなんで笑ってるんです?」
元気よく戻ってきたノリヤスが、俺達が笑っているのを見て不思議そうな顔をしている。
「いや、大したことじゃない。
またキルッフが滑ったんだよ。」
俺が笑いながらそう言うと、ノリヤスも“あっ、そ、そうッスか”と引きつり笑いになる。
うーん、キルッフのスベリ芸がトラウマになってないといいが。
「と、ともかく行きますよ!
さぁ、噂の魔女の婆さんとやら、見に行きましょう!!」
ほんの僅かに、ノリヤスのその言葉に違和感を感じるが、こういう時はさっさと突入したほうがいい。
俺達は例の扉の前に立ち、左右の扉を男4人で押して開ける。
「……小さな家だな。」
エクターがボソリと感想を漏らす。
扉を抜けた先には、鬱蒼と生い茂る木々の中に、ポツンと古びた民家が建っている。
岩肌で囲まれた迷宮にいたからか、周囲の違和感が凄い。
「ともかく、あれがボスのいる家だっていうなら、とっととやっつけちゃいますか!!
一番乗りはもらいますよ〜!!」
そう言うと、俺達が止める間もなくノリヤスは大剣を抜くと、1人駆け出していた。




