71、教会に行きますか?
まずは歌を覚えるためにカナさんの後に続いて歌う。
発音に注意する前に声の出し方に注意しているようだ。
小さい子は声帯が出来上がっていないので声の高低を作ることが難しい。
それと大きい声を出そうとすると叫んだり怒鳴ってしまったりしてしまう事が多い。
だからまずは響く声を出せるようになる事、リズム感を覚える事が重要。
自分がどういう声を出しているのかを認識し、人がどういう声を出しているのかを認識。
そこまでは多少の想像力を働かせればなんとかわかる。
「いい声してる!」
カナさんはすごく褒めてくれる。
褒めて伸ばすタイプの教育方針かな。
「う~ん? 実はね。私、聖歌隊の指導しているの」
「聖歌隊ですか?」
「そうそう。子供達みんなで聖歌を歌って楽しんでいるの。
ねぇ? みんなと一緒に練習してみない?」
発声の仕方は近い年齢の子を見て気づくことがあると思う。
声変わりをする前と後では発声の仕方はコツが多少違うかもしれない。
状況に合わせて練習の仕方を変えた方が効率的だろう。
それにここで繋がりを増やせばそれだけ知られていないことによる死のリスクは減る。
人の繋がりは増やせる時に増やさないといけない。
増やしたいからといってある程度深い知り合いは急に増やせるわけではない。
だが危険はあるだろう。
そもそも辺境から王都に来たのは教団に囲われないためでもある。
母さんと父さんは何か教団についての悪い噂を知っていたのだろう。
危険だからこそ信頼ができるラミ様に会い俺を託した。
危険。
そう危険。
危険だから排除する。
……。俺みたいなものじゃないか。
危険だからどうした?
ただ排除するだけなら力あるものならたやすくできる。
排除するだけなら。
それはそこに利用価値があったとしても捨てるだけともいえる。
知らなければどこに影響力があったのかもわからない。
影響力があった場所には反感を覚えられることだろう。
無差別に振り払うだけではダメだ。
知らなければいけない。
どこが危険で触っていけない場所か。
どことは友好的に関わりあうべきか。
ヤマアラシのお腹には針がない。
カモノハシのオスはかかとにメスにはない蹴爪があり、死にはしないが数か月続く激痛を催す毒がある。
宗教の過激派と一般宗徒をごちゃまぜで考えない。
教会に近づけば、過激派に近寄られかねないかもしれないが、もし何らかの利用価値を考えているのだとしたら、害そうなどとしてくることは少ないだろう。
ヤンデレみたいに別の宗教の過激派から狙われるかもしれないが、1つの宗教に絞って少し深めに関わればどこかの神を信仰しているのだろうと勝手に予想してくれるだろうし、戦力を奪われたくない一心で別の宗教から守ってくれるかもしれない。
ここの宗教は5つくらいありそうだ。
木火土金水、それぞれの神様を主神にした宗教が。
たぶん、きっとだが、それぞれ得意な属性の宗教を自身の信仰している宗教にしていると思う。
この世界で複属性は考えにくい。指示系統が混乱して魔法が成立しなくなりそうだ。
そうなると俺の場合、信じている宗教としては土の神様を主神にした宗教で間違いはないはず。
先ほどの賛美歌は土の神様を讃えるものだった。
つまりカナさんは土の神様の宗徒なのだろう。
ついていくべきか? ついていくべきだろう。
「どう……かな?」
「行きます!」






