第22話
アナザーワールド。
日本語に訳すと、「別の世界」である。
VR研究で世界的にも有名な不知火が作り出した、VRMMOでもある。
それがこの世界の名らしい。
宇都は、VRの中にダイブしている。
わけあって、二週間以内にこのゲームをクリアしなければならないのだ。
不知火の声を聞き、VRにダイブした瞬間オペレータの声が聞こえたのだが、五分ほどで説明を終わらされてしまった。後は自分でヘルプを見るなり何とかしろとのことである。
正直、不親切な設計だなと宇都は感じていた。
この世界に入る前は、職業、いわゆるジョブを選択しなければならないらしい。
剣士、魔導士、銃士、魔道剣士、魔道銃士、剣銃士のいずれかを選べるそうだ。
選択したジョブによって、この世界でのアバター、スキルなどが変わってくるとのことである。
しかし、宇都にはそれを選択する権限は無かったみたいだ。
本来ならば、好きなジョブを選んでくださいだとか好きなアバターを選んでくださいとか根掘り葉掘り質問攻めにあうのだが、宇都にはそれが無かった。
つまり、不知火が最初から宇都のアバター、ジョブなどをすでに決めてしまっていたということである。
「あ、既に不知火教授からアバターとか決められてますねーそれじゃ頑張って」
と最初のチュートリアルらしきところでオペレータに冷たく言われ、そのままVRのフィールドにダイブしてしまった次第であった。
宇都のジョブは、剣士。
実は、VRMMOの中では人気度の低いジョブである。
折角なんでもできるVRに来たのだから、魔法とか使えたらええやん、とかいう考え方がこの時代では主流だったのだ。
剣などどこでも振れるではないか、と一蹴されてしまう。
だから、剣と魔法を使うことのできる魔道剣士とか、魔法と銃を使いこなせる魔道銃士が非常に人気らしい。というか、近くにいるプレイヤーは、皆そのような雰囲気の武器を持ち、衣装を着て歩いている。
VRにダイブした宇都は周りを見渡すだけで何か寂しいものを感じていた。
そして宇都は自分の恰好を見て、なんだか恥ずかしくなってしまった。
宇都のいる場所は、スタート地点という村である。
てか村の名前じゃねえだろそれ、と宇都は一人考えるが特に突っ込んだりはしない。
建物は西洋風。
完全に王道RPGの村と同じ光景だ。
ただ、昔のゲームと違い、これはVRなので目の前に本当に建物が見えるのだ。
勿論、触れることも壊すこともできる。
科学技術はその部分まで表現できるほど向上していたのだ。
(さてと、探しますか)
宇都はひとまず恰好は気にせず目印の人を探すことにした。
目印は赤色のマントと青色のマント、そして虹色の水晶である。
これは、宇都のゲームクリア手伝いをしてくれるという不知火教授のゼミ生を探すための目印だ。
ともかく、合流しなければ間に合わない。
宇都は村の中央にある噴水に近づいた。
始まったばかりであるから、町はテスターたちでごった返していた。
不知火教授の気配りは、徒労に終わってしまったみたいだ。
人をかき分け、噴水の近くから周りを見渡してみることにした。
すると。
「おお、君かあ!!」
いきなり背後から大声をかけられた。
「うおお!?」
宇都は驚いて、バックステップを踏む。
危うく噴水に落ちそうになってしまった。
目の前の男の人は、赤いマントをつけている。
この人か、と瞬時に宇都は理解した。
「もしかして、不知火教授のゼミ生の方ですか?」
「ああ、そうだ! とりあえずここで不知火さんの名前は出さない方がいいぞ......宇都君、だっけ?」
その男の人は、小さな声で宇都に耳打ちした。
「あ、す、すみません」
不知火から言われた言葉を思い出す。
私たちは、不知火に接点がある人だと悟られてはならない事を。
その大きな体をした男性は、うむ、と一言言ってから満足そうな顔をした。
「あ、あ、こ、こんなところにいたんだね......」
すると、宇都と同じくらいの身長で、妙にはきはきしない男が近づいてきた。
へへと小さな声で呟いて、青いマントをひらひらさせながら二人へと走ってきた。
その近づいてきた男の人の後ろには、寡黙そうな女の人が後ろを歩いている。
手には虹色の水晶。
間違いない。この三人の人が、不知火教授の言っていたゼミ生だと、宇都はここで確信をした。
最初に話しかけてきた男が、全員そろったことを確認すると話し始めた。
「さて、わけあってここに全員終結したわけだ。まず自己紹介からしような! 俺は不知火 理だ。教授の親戚だ、よろしく!」
不知火教授の子供ではなさそうな風貌をしている。
しかし、その雰囲気からは不知火教授と同じようなものを宇都は感じ取っていた。
「ぼ、ぼくは五月雨葵です。ゼミ生で教授のお手伝いをしています。二週間よろしくおねがいしまう」
その宇都と同じ身長で、なんだかはっきりしない雰囲気の男は、ぎこちない笑顔を見せて挨拶をした。
ゼミ生だから宇都より年上なのだろうが、雰囲気的には宇都より年下のように感じられた。
ちなみに最後噛んだが、誰も指摘していなかった。
「......黒頭巾。よろしく」
最後の美人な女の人が口を開いた。
(いやいやいやいや!!! 偽名でしょ!!!)
宇都は瞬時に頭の中でツッコミを入れたが、表情には出さない。
隣で五月雨の顔が引きつっている。
その発言を聞いた不知火が、黒雪姫に質問をした。
「んー? それ、ここでのアカウントネームか?」
「うん」
「ちょ、ちょっと、姫さん。ここでは一応リアルで知り合う可能性だって高いんだから本名で言っても」
その瞬間、黒頭巾の長い綺麗な足が五月雨を襲った。
靴のかかとで五月雨の足を踏みつけたのだ。
「あがあ! い、痛いじゃないかあ!」
五月雨が涙目になる。ピョンピョン飛び跳ねる光景は、なぜか滑稽だった。
黒頭巾は、本名を言われたことに腹を立てたのか、無言且つ真顔で五月雨を攻撃したのだ。
(うわあ、なんだこれ。大丈夫なのか。ゲームをクリアして単位獲得できるのか?)
宇都の顔は真っ青になり、不安に駆られ始めている。
「とりあえず、呼び方は黒でいいのか?」
不知火がそう聞くと、彼女が首を縦に振り、
「私、黒・頭巾という名前なの」
と小さくつぶやいた。
「で、最後は......」
三人の顔が一斉に宇都へ向く。
宇都は一瞬びくっと体を動かし驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し自己紹介を始めた。
「俺は、宇都忠といいます。教授に落単の警告を受けたのですが、単位奪還のチャンスを与えて頂きました。皆さんとは仲良くできたらなと思います、よろしくお願いします」
ととりあえず当たり障りのない自己紹介にしておいた。
すると即座に、
「真面目か、不真面目か、どっちだおらあ!」
と不知火が叫び始め、
「えええ、不知火教授の講義を落単!? そんな人久々に見たよお!」
と五月雨が痛い足をさすりながら反応し、
「......よろしくね、後輩さん」
と黒が冷静な反応を示してきた。
もう何が何だか分からない。
頼むから普通の反応をしてくれ、と宇都は心の中で一人呟いた。
噴水の前では先ほどログインしたテスターが一気にモンスターの出る草原へと移動してしまったらしく、人数が大幅に減っていた。
このゲームをクリアするには最終ボスを倒すこと。
つまり、レベルを短時間で上げて、ボスのところまで辿り着かなければならない。
しかも、このゲームはテスト段階。
テスターとして集められている人たちのプレイ期限は、二週間だ。
「よし、時間が無いぞ! すぐにでもレベル上げ、そして攻略を始めるぞ」
先に切り出したのは不知火だった。
リーダー格にとても向いている人物だ。
ジョブは魔道剣士だろうか。風貌から見て取れる。
五月雨は銃を身につけているから、銃士であろう。
そして黒は、水晶を持っていることや、身なりからして魔導士だと判断できる。
このメンバーでパーティを組み、三人は草原へと足を急がせた。
ゆっくり、久々に書いてみました。 2015/02/15




