第20話
VR大学。
それが、宇都の通っている大学の名前であった。
その名の通り、VR、いわゆる仮想現実を学ぶ、専門学校のような大学である。
VRに大きな関心を抱いていた宇都は、この大学に進学することを高校の頃に決意していた。
必死で勉強し、やっとのことでこぎつけ通学することを許された大学。
宇都はこの大学でVRに関する事を学び、将来に活かすことを心に誓っていた。
だが。
この時代では、VRに関する事故、事件が後が絶えないのも一つの社会問題だ。
ネット上と脳をリンクさせている時に強制ログアウトをさせたせいで脳に大きな負荷がかかり、脳が破壊されてしまう事件も発生したり、ネット上での虐殺行為も後を絶たない。
またゲームをベースとしたVRは圧倒的な人気を誇っていたが、性格が歪曲したり、殺人嗜好になってしまったりと成長に関する過程の疎外にもなっており、大きな課題が残っていた。
そのようなVRに関する課題が多い中、宇都はVRを学ぶ大学へと進学したのだ。
現代では国家が直々に動き出し、VR専用のプレイ施設を建設、徹底した管理の法律を制定、またゲームプレイ後のカウンセリングを必須にしたりと対応策を打ち出したが、それでもまだまだ課題は多い時代になっていた。
さて。
超能力は非科学的な未知の領域であるが、VRはまた別物だ。
超能力とは相反するものであり、VRは科学技術の塊である。
つい先日まで超能力者たちと一戦を交えた宇都にとっては、何か変な感覚に陥っていた。
宇都の大学に到着する。
VR大学は、テーマパーク並の広さを誇る、日本でも大学のベストファイブに入るほど広いキャンパスである。
が、外から見たら、ただのビルと道路が所々に立っているだけという殺風景な大学だ。
荒地か、勿体ないなあと言ってしまえばそれまでだが、この大学は他の大学と、少々作りが違う。
作りが違うというのは、外見のことではない。
それは。
「ウェアラブル端末、VR大学に設定。展開」
宇都は鞄の中に入れていた眼鏡型端末(つまり、一昔で言う携帯電話を眼鏡のバージョンにしたもの)をかけ、設定を大学にした。
これをすることにより、ARが展開されるのだ。
ARとは拡張現実の事で、これによって殺風景の大学が、華やかな道、ビルへと変わり、心地のよい音楽が流れるのだ。
宇都の眼鏡端末には様々な情報が出てくる。
右を見れば、年明けまであと十一時間と出てきたテキストボックスや、将棋バスケ部募集中というような宣伝も見ることができる。というか将棋バスケ部って何だ。
この日は大晦日となっており、学生はおろか、職員や教授、掃除のパートさんは皆休みなので、キャンパスには誰もいない。
いるとしたら、VR研究・開発熱心な不知火ぐらいであろう。
宇都は誰もいない殺風景のキャンパスを堂々と歩いた。
そして、目的地の研究棟へと到着する。
テレポートは使わずに、転移装置を使って建物の中へ入っていった。
そのビルの中はとても広い。
無駄に広いので、移動が本当に面倒くさい。
廊下はまっすぐになっているが、ヘヴンホスピタルに負けないくらいの長さだ。
宇都は、はあとため息をついてから不知火の部屋の番号を探す。
不知火は、一番端っこの部屋で、亀のように籠って研究をよくしている。
とても研究熱心なのはよいが、あまりにも研究に熱中するあまり、講義に来るのを忘れていることがしばしばある。
学生にとってはいい迷惑であろう。
宇都は不知火に何を言われるのかびくびくしながら、不知火の部屋の前に立った。
そしてドアをノックする。
どんどん、と鈍い音が廊下で響き渡った。
「はい、どうぞー」
「失礼します!」
宇都は思いっきりドアを手で開けて不知火の部屋へ入った。
不知火の部屋は、正直あまり広くない。
一世を風靡したVRゲームを出し、その利益を享受しているのにも関わらず、不知火はけち臭い所があるようだ。
部屋を広くしない所や、いつも同じ、安っぽいような服を着ているのが特にそれを物語っている。
不知火は、今日も白い研究着を着ており、優雅にコーヒーを飲みながら自席へと腰かけていた。
近くの戸棚にはVRに関する本で埋め尽くされており、本棚が壊れてしまいそうなほど窮屈に詰められていた。
研究室の隣には黒色の立派な人間が一人入れそうなカプセルが置いてある。
カプセルホテルにあるような、きれいで大きなカプセルだ。
「不知火教授、お久しぶりです」
「おう、まあ、座ってくれや!」
不知火教授はとにかくがさつだ。
研究資料は、とにかく机の上に放置しまくり。
しかも掃除は適当にやるからいつまでたっても研究室はきれいにならない。
がさつな性格は不知火の特徴でもあり、それが不知火の象徴であった。
宇都は近くに合った学生用のいすに腰掛けた。
今時木でできた椅子に座らせるのかよ! と宇都は突っ込みたくなったが何を言われるのか分からないから黙っておいた。
「さて、今日君を呼んだのはなぜか分かるか?」
不知火がコーヒーを飲みながら、宇都ではなくパソコンとにらめっこしながら質問を投げかけた。
「さあ、分かりかねます」
「はあ、そうか」
不知火がやれやれという顔でパソコンから目を離し、宇都の方をまっすぐと見つめる。
それを見た宇都はうお、とたじろぎそうになったが我慢した。
そして次の瞬間、宇都は凍り付く。
「君、このままだと落第だが、いいのか?」
「............え」
「だから、私のね、VR実践論。もう落単だぞ? これ何単位の講義か知っているか? 五単位だよ。落とすと大きいのだぞ!」
「ええええええ!!!! もう、落単確定ですか!? だって、年明けにまだテスト入れて三回ほど講義があるじゃないですかー!!」
宇都は立ち上がって、まるで地球の外側にいる人も聞こえるかのような大声で叫んだ。
それを聞いた不知火はびっくりとした表情で一瞬宇都を見つめたが、やがて普通の顔に戻る。
「だって、三回以上欠席してはいけない講義なんだぞ? 君、もう四回休んでるぞ?」
「......あ」
宇都は思い出した。
逢沢との決戦。また秋芽と悪事を働く超能力者の調査、その為に講義をさぼりまくっていたことを。
あーっ、さぼりだ! いけないんだー落単しても知らないよお、と皮肉めいた事を言ってきた秋芽の顔が浮かび、宇都は今になって非常に後悔する。
「なぜ休んだのかはあえて聞かないが、とりあえず君を助ける救済法はあるぞ!」
「本当ですか!」
「がはは。私をなめるでない!」
少々下品な笑い方をして引き気味の宇都であったが、なんですかそれはと問うた。
「うむ。それは、レポートだ」
「いつまでに、何字書けばよろしいですか?」
「来週までに百万字だ!」
「無理ですよそんなの!!! 鬼畜です!!!!」
酷い。
酷過ぎる。
来週までに百万字って、どうやったら書けるんだよと宇都は涙目になる。
「うむ、そんなのは不可能だから、もう一つの手がある」
「そ、それは何ですかね」
「簡単だ。補講として、私の開発したVRゲーム、『アナザーワールド』をプレイしてもらおう」
「アナザーワールド?」
このVR実践論という講義は、学生たちの間で人気ナンバーワンの講義だ。
どんなにつまらない説明をする教授でも、この講義は絶対に誰でも取る。
なぜならば、これはVRを使って体を動かしVRの仕組みを知り、その魅力を感じ取ることを目的とした講義だからだ。講義というよりも実践をする時間が遥かに多い。
故に、補講は実践中心。
つまりVRを用いたゲームを、欠席した時間分だけプレイすれば、その分の講義の時間を補うことができ、単位をもらえることができるチャンスがあるということだ。
「これは、まだ一般のマスコミにも紹介していないんだが、アナザーワールドは私が開発したVRMMOのRPGだ。現代の科学技術をフルに活用し、五感をすべてVRにダイブさせるとともに、もう一つの世界を味わうことができるというゲームなんだ! どうだ、単位をかけて、いっちょこのゲームに挑戦してみないか? まあ、まだテスト段階だからテスターという扱いになるが」
「単位をかけて、テスターとして挑戦、ですか?」
「がはは。そうだ。ゲームをクリアすれば、この講義の評価をSにしてやる」
「本当ですか!!」
「男に二言は無いのだ! ただし、条件がある。一回もエネミーや他のプレイヤーにキル(殺害)されてはならない。一回キルされるごとに評価が一段階ごとに下がり、最悪Fになるから気を付けてもらおう!」
「という事は、SABCFの五段階評価だから、三回までしかキルされてはいけないのですね」
「そういうことだ。どうする? 百万字のレポートか、私の開発したアナザーワールドに挑戦するか」
宇都は即答する。
「勿論、アナザーワールドへ挑戦します。教授の最新作、楽しみにしております」
「がはは。よい返事だ! では、挑戦は年明けの一週間後。ここで待っているぞ!」
「はい。分かりました。それでは、失礼します」
宇都はそれだけ言って、不知火の部屋を後にした。
ちゃんと周りの友人とか、家族とかに暫くいなくなることを伝えておけと帰り際に不知火から言われたが、何のことであろうかと宇都は疑問に思う。
宇都のVRMMOでの生活が、今始まろうとしていた。
何となくこの時間に投稿(笑)
夜更かし良くないのは分かってるんですけどねー 2015/02/05




