第19話
四賀憲太郎が大事件を起こしてから三日が経っていた。
この事件は年末のニュースとして大きく報道され、この年の締めくくりニュースとして大活躍をしているようであった。
ちなみに。
四賀憲太郎は、現場からは発見されなかったそうだ。
もしかすると、国家機関が裏で動いて四賀の回収にあたっていたのかもしれない。
ヘヴン・ヘルデパートの監視カメラは、すべて破壊されデータも破損状態となっており全く利用できない状態となっていた。
この事が積み重なり、犯人も、犯行も、事件の詳細も不明な事件として、迷宮入りのレッテルを貼られてこの事件は閉幕した。
警察機関も、またもやお手上げ状態となってしまった。
さて。
変哲荘の一角。
ここに、超能力者(大学生)が一人いた。
宇都忠である。
四賀との戦いを終え、病院も即退院した彼は、年末の時間を持て余していた。
超能力を使ってみかんの皮をむく練習をしてみたり、新しい能力が発動しないか日々研究してみたり、VRについて調べてみたり。
「うーん、暇だ」
何だ大学生のくせにコノヤロウなめんなと言いたいところであろうが、学生は、本当に年末は特にすることが無い。
掃除をしようにも部屋は広くない為五分で終わってしまうし、本を読もうにも気力が起きない。
実家へは、毎年この時期は帰らないのでドタバタする必要は全くないのだ。
そんなこんなしてベットでごろごろしていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「ん?」
インターフォンを押してくる人。
もしかしてそれは。
「はい。今開けます」
かちゃと自動ロックが外れた音が聞こえた。
「やあ、忠君! 元気してたかな?」
やはり秋芽萌であった。
なぜか得意げな顔をして、堂々と玄関へ侵入してきた。
「あー。やっぱり君か」
「何そのつまらなそうな顔。入るねー」
「まだ上がれと言ってないけれど!?」
「なによー。上がっていいよと言われないと入っちゃいけないの? 真面目くさいなあ。ほらほら、しつれーい!」
秋芽は靴を脱いで、立ち幅跳びの競技をするかのように家の中へ足を踏み入れる。
ドン、という音が響き渡った。
「ちょ、下の階の人怒るからもう少し静かに入ってくれ!」
「もーうるさいなあ! いいじゃんいいじゃん、けち!」
秋芽はその場で地団駄を踏む。
「あああああ!! 分かった分かった! アイスやるから黙ってくれ!」
「この寒い日にアイス......」
秋芽は小さい声でツッコミをして、上着を脱いだ。
毛皮をふんだんに使ったコート。
秋芽が脱いだ時に、ぱちぱちと静電気を発していた。
その服をハンガーにかけると、秋芽はゆっくりとソファに腰かけた。
直後、宇都が念力でアイスを秋芽の前に置く。
うわーなんだ本当にアイスを持ってきやがったという信じられない目を秋芽は一瞬したが、物欲に負けたのかアイスのパッケージを両手で丁寧に開けた。
「で、久々に俺の家に来たわけだけど、体調はどうなんだ?」
「あーそういえば事件後から会ってなかったね。私はばっちりだよ」
四賀の事件から、二人が顔を合わせることが無かった。
この時までは。
宇都は外に出た瞬間タンカーで運ばれたため、ヘヴン・ヘルタウン周辺で秋芽と合流することはできていないのだ。
そういえば秋芽はあの後どうなったのだろうか。とふと宇都の脳裏にその考えが浮かんだ。
「萌、四賀との戦闘から離脱した後、どうなったんだ?」
「うん、私? 私は忠君に言われた通り外に出て、怪我をした一般人という事で救急車に運んでもらったみたいだよ」
「みたいだよって、覚えてないのか?」
「そうなのー。外に出た瞬間、倒れちゃった! そのあとは覚えてないや」
いやさっぱりと言い切ったけれども。
外に出た瞬間倒れたってことは、体に大きな疲労やダメージがたまっていたのではないか。
四賀の強烈な一撃をすぐ周辺で受けたのに、大した体だ、と宇都は感心する。
が、それと同時に秋芽を危ない場面へ巻き込んでしまったことに多少の後悔が残る。
「危ないことに巻き込んですまない......」
宇都が小さな声で呟いた。
と、同時に秋芽がアイスの食べ終わった空カップを宇都へ念力で投げつけた。
宇都が完全な不意打ちにうわ、と驚きの声を上げる。
「萌、何するんだよ!」
「いい? 私は忠君のパートナーなの。そんなこと気にしない!」
秋芽はじっと宇都の方を見つめている。
その顔に喜怒哀楽の感情は見られない。
宇都が秋芽に怒ったが、秋芽はものともせず宇都をまっすぐと見つめている。
その綺麗な純粋な瞳は、宇都のパートナーとして共に行動する決意を示していたものであった。
「......悪い」
それだけ言い切った宇都は、そのカップを拾って片付けた。
というか、秋芽は自分で何かをやるのが嫌いなのだろうか?
特に、掃除とか。
「何よ、今違う事考えていたでしょ!」
怖い。
宇都は完全に見透かされている様子だった。
ともかく、掃除の事はもう言及しないようにしよう、と心に誓った瞬間であった。
宇都が洗い物をしていると、その瞬間。
自宅の電話が鳴った。
普段宇都の家に電話がかかることは無い。
あるとしたら、良く分からない勧誘や携帯を持っていない友人からの直接の電話である。
が、今日は年末。電話をかける人なんて、いるのか。
もしかすると家族だろうか?
電話から流れる独特なメロディーは、早く電話を取れと宇都を掻き立てる。
「わ、ちょっと待って!」
洗い場から手を離せないので、思い切って念力で受話器をふっとばしてやった。
電話がごつ、という音を立てたが気にしない。
そしてその乱暴にとった受話器を宇都の耳元にくっつける。
秋芽はそれを見て、いささか驚いていたようだ。
手でとれよ、何してんだこいつはという表情を作っている。
「もしもし?」
宇都が少々焦り気味でいう。
「おお、宇都君かな? 私だ」
「あれ、その声はもしかして......」
その声に宇都は聞き覚えがあった。
そして嫌な予感がする。
『VR大学の、『VR実践論』の講義を担当している不知火です』
「し、不知火教授!! お久しぶりです。まさか直々にお電話を頂けるとは思いませんでした」
さて、宇都忠はただの能力者では無いことを忘れてはならない。
彼は大学二年生なのだ。
超能力者であると同時に、学生であることを覚えておかなければならない。
宇都の専攻はVR学。
どんなものかというと、簡単に言ってしまえばその名の通り、VRを中心に学ぶ学科である。
電話の向こう側から聞こえてきた、その野太くしっかりとした声は、VR実践論という講義を担当している不知火教授であった。
さて。
大学の教授からの直々の電話。
不知火教授はVRに関して、日本でも世界でも有名な教授であるため、その方から直々の電話は感極まるのだが、同時に嫌な予感がする。
『ああ、いやいや。悪いね、年末なのに。宇都君、今ちょっと大学に来る時間はあるかな?』
「これからですか? 私は別に構いませんが」
『おお、そうか。では、いつもの実験棟へ来てくれ。大切な話があるから』
「はあ、分かりました」
『それじゃ』
と不知火が言った瞬間電話がブチと音を立てて切れてしまった。
相当忙しいのだろうか? 電話を置く時間さえも惜しいのだろうか。
「萌、ちょっと大学へ行かなきゃいけなくなってしまった」
「ああ、いいよ? 勝手に留守番しているから」
「まだ何も言ってないけれど......」
「ほらほらー、早く行ってきなよ! 教授、困っちゃうぞ?」
留守番を頼もうと思っていたが、なぜか秋芽が快く(?)引き受けてくれた。
何か勝手に部屋の中を物色されなければいいのだが。
「あーっ。勝手に物色すると思ってるでしょ! それくらいわきまえるよ!」
と言いつつ宇都のベットから勝手に雑誌を取り出した。
「いやしてるだろそれ!!」
「何が?」
「......もう、いいや。部屋荒らさないでくれよ」
「分かってるよーもう!」
秋芽はそれだけ言うと、雑誌を読みふけると言う自分だけの世界に入り込んでしまった。
話かけても「うん」「そうだねえ」としか返してくれないモードだ。
宇都は身支度を急いで整え、年末に大学へと足を運ぶこととなった。
ここから、新しい非日常が始まろうとしていることに気が付かずに。
新しいジャンルに挑戦!
VR編です。稚拙ですが、お付き合いいただければ幸いです。 2015/02/04




